ケーキを焼いて!(お題「クリスマス・ケーキ」)




発端は些細なことでしたの・・・。

公園に落ちていた革張りの手帳を、
たまたま偶然に通りかかったふたりが、
たまたま偶然に見つけて手にとった・・・。

「落しモンか?どんくせーやつがいるもんだな・・」
無造作に手帳を広げかけたその人を私は慌ててさえぎりました。
「待って・・人の手帳を勝手に見るなんて、いけませんわ」
「開けなきゃ誰のか分からねーだろが?」
ルビー色の瞳が不機嫌そうにじろりとわたくしを見ました。
「ランディ様のじゃありませんかしら?・・以前執務室で見かけたような気がしますわ。」
「ばっかじゃねーの?おめー?あいつが手帳って柄かよ?しかも革張りか・・?あいつじゃ使ってもせいぜいスパイ手帳がいいとこだぜ?」
「でも・・確かに見たような気が・・・・」

「んじゃおめー賭けるか?」
たたきつけるようにその人は言いました。
「えっ?」
「負けたほうが勝ったほうのいうことを何でも聞く・・・。どーだ賭けられねーだろが・・・?」

どうしてそんな馬鹿げたことをしなきゃいけないんですの?・・・と、言いかけたまさにその時に、軽やかな駆け足でランディ様が公園に駆け込んでくるのが見えました。

「あーっ!・・・ここにあったのか?ロザリア・・君が拾ってくれたのかい?サンキュなっ!」

ランディ様はわたくしに駆け寄ると、手の中からすっと手帳をとりあげてにっこり笑うと、来たとき同様、軽やかに走り去っていってしまわれました。

「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」

後には気まずい沈黙が・・・・。


「・・・なんだよ」
思い切り無愛想に言うと、ゼフェル様はわたくしに向き直りました。

「ナニがして欲しーんだよ。とっとと言ってみろよ!」
「そんな・・・ほんの冗談ですもの、気になさらなくても」
「うるせー!男に二言はねーんだよっ!」

せっかく気にしてないっていったのに・・・。
これにはさすがのわたくしも少しばかりカチンときましたわ。
だから、わたくしもつい、言ってしまいましたの・・・。

「そこまでおっしゃるなら、お願いいたしますわ!」
「おうっ、さっさと言いやがれ!」
「・・・ケーキを焼いていただけます?」
「・・・はぁ?」
「もうすぐクリスマスですわね。クリスマスケーキを焼いてください。わたくしのために・・・」


これにはさすがのゼフェル様もぐっ、とつまったようでした。


「・・・・・・・・っく・・・ったく、くだらねーものを・・・・」
「無理なら無理とおっしゃれば?今なら許してさしあげましてよ」
いつになく青ざめたゼフェル様の様子に、思わずわたくしが突っ込んでしまうと・・・
「誰がんなこと言ったか、バカヤロー!」
噛み付くような勢いでゼフェル様が怒鳴りつけました。
「なんだケーキのふたつやみっつ!焼いて見せりゃいーんだろ!」

「ったく、・・くだらねー・・・」
・・・とか何とか吐き捨てるように言いながら、鋼の守護聖は胸をそらして去っていきました。


その後姿を見送りながら・・・・
わたくしは・・・少し反省しておりました。

いくらなんでも、今のは意地悪でしたわ。
ゼフェル様はいくら器用とはいえ、とても料理ができるようには見えませんでしたし、第一、甘いものが大嫌いだって、私も知っておりましたのに・・・・。

ゼフェル様のことは嫌いじゃありません。
会うたびにいつもわたくしのことを怒鳴りつけて、言い争いになることもしょっちゅうでしたけど・・・・。でも、そのケンカですら、なぜだか嫌だと思ったことはありませんでしたわ。
いつも話すたびに何だかくすぐったいような・・・そんな不思議な気持ちになって・・・。


ばかね・・・。

わたくしはこっそり胸の中で呟きました。
どうしてケーキなんて言ってしまったのか・・・・。

別に欲しかったわけじゃない。
本当はわたくしが・・・作って差し上げたかったんですわ・・・。





そしてクリスマス当日・・・。

一度もゼフェル様と顔を合わさないまま数日が過ぎて、わたくしはもう「賭け」のことは忘れかけていました。
そして、朝食を終えて部屋に戻るなり、血相を変えたばあやが部屋に飛び込んできたのです。

「お嬢様・・・たいへんです。」
「どうしたの?ばあや・・・?そんな慌てた顔して?」
「玄関前にこんなものが・・・」


ばあやがこわごわと捧げ持っているのは、白い四角い箱でした。
上面に黒いマジックで「メリー・クリスマス」と、はみ出さんばかりの勢いで書かれています。その字の乱雑で汚ないことと言ったら・・・・・。
「誰かのいやがらせじゃございませんか・・・?」
「でも、この字は・・・・?」

私はふとひらめいた。この箱、この字・・・もしかしたら・・・

「お嬢様!」

悲鳴をあげるばあやを無視して、わたくしは白い箱の蓋を取り除けました。


中からは雪のように白いケーキが・・・・。

触れたケーキは柔らかくも温かくもなくて・・・滑らかな光沢を放ち、固い手触りがしました。

――窯で「焼かれた」セラミックのケーキ。

ふたをあけると、そこからは軽快なクリスマス・キャロルが流れ出しました。


(くすっ・・・くすくす。)


わたくしは思わず笑い出してしまいました。

負けず嫌いのあの人の考えそうなことですわ。
どんな顔をしてこのケーキを「焼いて」いらしたんでしょう・・・?

私はセラミックのケーキを抱えると、クローゼットの引出しからエプロンを引っ張りだしました。
甘くない特製のケーキ。台は夕べのうちに用意して冷やしてありました。
それをあっさりとデコレーションして・・・
今日もって行くのが本当は少し不安だったのだけれど・・・・。




でも、今ならきっと渡せそう。
・・・・受け取ってもらえそう。


オルゴールから流れるクリスマスキャロル・・・。
私はいつしかそれに合わせて、歌を口ずさんでいました。





-Fin-
2003年12月17日(水)


■管理人より〜
男の作るケーキ!萌えるお題ですね!今回はゼーさまに頑張っていただきました!
さすがに器用ですな!(恋もこのくらい器用にいくといいのにねっ!)

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