鼻歌狂騒曲(お題「鼻歌」)




「女王陛下から至急のお呼び」・・・そう伝言を受けた光の守護聖ジュリアスは、デスクの上の山積みの書類も打ち捨てて、取るものもとりあえず謁見の間へと向かった。

いつになく難しい表情で待ち受けていた女王陛下は、彼の顔を見るなり切り出した。

「急に呼び出しちゃってごめんなさい。あなたを呼んだのは他でもないの・・・実はひとつお願いがあって・・・。」

「陛下・・・何なりとお申し付けください。」
ただならぬ雰囲気を感じて畏まったジュリアスの前に、女王陛下は厳かにこう告げた。

「あなたにね、・・・・鼻歌を歌って欲しいのよ。」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・鼻歌?・・・・ですか?」


思わず動揺するジュリアス。
それに対して女王陛下はおっとりとうなずくと繰り返した。
「ええ、そう、鼻歌。」

「・・・・・・・お差支えなけれえば、理由をお聞かせいただけませんでしょうか?なぜ私が鼻歌を歌わねばならないのですか?」
まだ動揺から立ち直ってはいないものの、さすがは首座の守護聖、理由を聞く冷静さは失っていなかった。

「よく聞いてくれたわ。」
対する女王陛下も、”我が意を得たり”とばかりにうなずいた。
「ジュリアス、あなたは容姿はかっこいいし、頭も切れるし、仕事はできるし、声は甘いし、・・・・つまり、完璧なの!完璧すぎるのよ!」
「はぁ・・・恐れ入ります。」
突然の嵐のような誉め言葉に、喜ぶ以前に困惑しきっている首座の守護聖の目の前に金髪の女王陛下はびしっと人差し指を突きつけた。

「完璧すぎるの。・・・それが問題なのよ。」
「完璧・・・すぎるのが・・・問題?」
「そう、あなたがあまりにも素晴らしくて完璧なんで、みんなあなたの前だと緊張してしまって思っていることが言えないのよ。だけど、それはちょっと良くないことだとはと思わない?」
首座の守護聖は、極めて理解力が高い上に反省を知る男だった。加えて忠誠心もずば抜けて厚かった。彼は瞬時に女王陛下の言わんとするところを(必要以上に)理解した。

「・・・確かに、陛下のおっしゃることは理解できます。人々に規律の尊さ、職務に精進することの素晴らしさを伝えたいと願うばかりに、私は他人に対して頑なになっていたのかも知れません。不徳の致すところ・・・・大いに反省せねばなりますまい・・。」
うなだれてしまった首座の守護聖に女王陛下はにこやかに微笑みかけた。
「そんなに大げさに考えなくてもいいのよ・・・。だからね?鼻歌を歌ってリラックスしている姿を見せれば、みんなもあなたに声をかけやすくなるんじゃないかと思うの・・・。ううん。いつもじゃなくていいのよ。明日からクリスマス休暇でしょう?みんなの心が和んでいるこの時期に、ちょっとだけ試してみてもらえないかしら・・・。」
「・・・しかし・・・。」
「・・・・お願い。ジュリアス。」

そういうと女王陛下は少し上目遣いになって、天使のような笑顔でジュリアスを見上げた。

「・・・・・陛下。」

実は彼は、金髪の愛くるしい女王陛下の「・・・お願い!」にめさめさ弱かった。
何度この「お願い!」に持ち前の理性を狂わされ、自らの掟を破るような行為を繰り返してしまったことか・・・・。
しかし、今回も彼は逆らうことができなかった。


「・・・どのような曲を歌えばよろしいのでしょうか?」
まだ表情から戸惑いを消せずにいる彼に、女王陛下は再び天使の微笑を浮かべた。
「それはあなたに任せるわ。」



――――光の守護聖が退出した後・・・・。


「・・・・・陛下・・へっ・・陛下ったら・・、なんてお人の悪い・・・。」
続きの間から、女王陛下の親友でもある補佐官が転がるように飛び込んできた。
「いやーん。ロザリアこそ、顔が笑ってるわよ。」

二人はもう我慢できない!と言った様子で抱き合って笑い出した。

「さぁ、笑ってる場合じゃないわ。ロザリア、すぐにジュリアスの執務室に行って!」
「わっ・・わたくしが、参りますの?」
「そうよ、他に誰がいるっていうの!私が行っていいなら替わりたいくらいよ!」
「分かりましたわ・・わたくし、とにかく様子をうかがって参ります。」
「早く、早く行って!・・・何を歌ってるか聞いてきて!」


待つこと10分・・・・


こらえた笑いに全身をぷるぷると震わせながら、ロザリアが再び女王執務室に飛び込んで来た。
「くっ・・・くるしい・・・わっ、わたく・・・苦しくて窒息するかと思いましたわ!」
「なになになに?なに歌ってたの?」
「『イッヒ・リーベ・ディッヒ』を頭から最後までですわ・・・鼻歌にするには無理がある曲ですわね。」
「ああああ!聞きたい〜!」

身もだえしたかと思うと、女王アンジェリークはぴょこんと体を起こした。

「ロザリア!急いでゼフェルとオリヴィエを呼んで!」
「どうなさいますの?」
「ゼフェルには高精度の隠しマイクを用意してもらうの、録音がうまくいけばCDとしてリリースするわ!なんてったって首座の守護聖の鼻歌フル・コーラスよ!オリ○ンでトップ・テン入り間違いないわ!それとオリヴィエにはメイクを手伝ってもらうの!侍女に変装して次の書類は私が持っていくのよ〜!」

「あああ・・・アンジェリーク、あんたってば本当に・・・。」
「ロザリアこそ〜、本当はCD聞きたいくせにぃ・・・・。」

ふたりはまた顔を見合わせると、きゃーっと身もだえした。



かくして光の守護聖の荘厳な鼻歌フル・コーラスは、女王陛下によって秘密裏にCD化され、女王陛下の秘密の宴会のBGMとなったのであった・・・・・。



・・・・・・・またやってしまった!ジュリアス様!許して!





-Fin-
2003年12月19日(金)


■管理人より〜
ごっ、ごめんなさい・・・。橘さん(←お題提供者)、これを許してくださいます(笑)?もはや創作の体を成しておりません! 全国のジュリ様ファンの皆様、クリスマスに免じてお許しあれ〜! くどいようですが、一応この二人は「ジュリ様ファンクラブ」の会員なんですよー!

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