ふたりでワインを(お題「サプライズパーティー」)
「ねぇ・・・誰もいないの?」
新米女王の私、ことアンジェリークは立ち上がるとキョロキョロと辺りを見回した。
いつもうるさいくらいに付きまとい、世話を焼いてくれる女官たちの姿が、今日は一人も見えない。
毎朝山のように書類を持ち込んでくるロザリアも今日はまだ姿を見せない。
「どうしちゃったのかなぁ・・・。」
首をひねったところに、トントン、と遠慮がちなノックの音が響いた。
「ロザリア!」
自分で立ち上がってドアを開けると、そこに立っていたのは美貌の補佐官ではなく、背の高い地の守護聖だった。
「ルヴァ・・・?」
私は驚いてルヴァの顔を見上げた。
「どうしたの?珍しいのね、あなたが約束もなしに来るなんて・・・。」
地の守護聖は困ったような表情で首をかしげた
「・・・陛下がお呼びになったんじゃないんですか?」
「えっ?・・・わたしが?」
呼んだ覚えはない・・・。
もちろん「逢いたい」と思うことはしょっちゅうだったけれど・・・。
「ええ、今朝早くロザリアから『陛下がお呼びだから至急出頭するように』と連絡がありまして・・・」
―――カチャリ・・・・
首をかしげるふたりの背後で静かにドアの鍵が閉まる音がした。
慌ててドアノブを回そうとしたけれど、鍵がかかっているのか閉まったドアはびくともしない。
「誰?・・誰かそこにいるんでしょう?いたずらしないで、ここを開けて頂戴?」
「メリー・クリスマス、ですわ。陛下・・・。」
扉の向こうからは聞きなれた親友ロザリアの声が聞こえた。
「メリー・クリスマスって・・・どうしたの?ロザリア?なんで鍵なんかかけるのよー?」
「私達からのクリスマス・プレゼントですわ。」
扉の向こうの声は澄ました調子で言った。
「クリスマス・プレゼント・・・?」
「陛下に差し上げるプレゼントを、みんなで相談しましたの。陛下が一番喜ばれるものは何かって・・・・その結果がこれですの。満場一致でしたわ。」
「じょ・・冗談は止めてよ。どうして閉じ込められて喜んだりするのよー。」
「これから今日一日、お二人に『ふたりっきりの時間』をプレゼントいたします。この部屋には誰も近寄りませんわ。本当でしたらどこかご旅行にでも出して差し上げたかったんですけど、警備場の問題やら慣例の問題やら色々ありまして・・・・・申し訳ありませんが今年はこれが精いっぱいでしたの・・・・。お二人に必要なものは奥の部屋にそろえてあります。どうぞごゆっくりお過ごしなされて・・・。では、陛下・・・素敵なクリスマスを・・・。」
言いたいことだけ流れるように言い切ると、軽やかな靴音がドアの前から遠ざかって行った。
(もうっ・・・勝手なことばっかり言って・・・。)
困惑する気持ちの傍らで、何か期待めいたものに胸をときめかせている自分がいる・・・
(夕方まで・・・ルヴァと二人っきり・・・?)
すっかり緊張し始めている私をよそに、ルヴァは悠然と奥の部屋を物色し始めた。
「すごいですね・・・。ワインにチェス盤、ダーツ、絵本、プラモデル・キット・・・・怪しげなビデオまでありますね。」
奥の部屋には恐らく彼の同僚達が持ち寄ったのであろう雑多なひまつぶしグッズが山のように積み上げられている。
その中から彼は迷わずワイン・クーラーに入った赤ワインを手に取った。
「これは・・多分ロザリアからですね?・・・これが一番まともそうです。」
そう言って笑うと、ルヴァはさっさとワインの栓を開けてグラスに注ぎだした。
「・・・ルヴァ?」
「せっかくですからね?・・これ全部、順番に試してみましょう?どうせ夜まで仕事はできそうにないし・・・。ふたりでゆっくりしちゃいましょう。」
「・・・・・はい。」
私は素直に頷くと、ルヴァの横に座ってグラスを手に取った。
「ああ・・・待ってください。」
グラスを口元に運ぼうとした瞬間、ルヴァが私を呼び止めた。
「・・・・どうしたんですか?」
首をかしげる私にルヴァはにっこりと微笑みかけた。
「私からのプレゼントがまだでしたね?・・・急だったから用意したものは部屋に置いてきちゃったんですけど・・・・」
そしてルヴァはそっと私の背中を引き寄せると、すばやく唇にキスをした。
「メリー・クリスマス。アンジェリーク・・・。」
名前を呼んでもらうのは久しぶりだった。
胸がきゅっと熱くなる。
私はグラスを置いてそっとルヴァの首に手をかけた。
私からのクリスマス・プレゼント・・・・
私はそっと目を閉じた。
「メリー・クリスマス、ルヴァ・・・・」
-Fin-
2003年12月13日(土)
■管理人より〜
お題「サプライズ・パーティー」に書かせていただきました!
ルヴァ様はきっと「怪しげなビデオ」を最後にとっておくことでしょう(笑)!
お粗末さまでした!カイエさん、素敵なお題を有り難うー!!
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