彼女の出張 それは晴天の霹靂と言うか、まさに降って湧いたような話だった。 夕食のときにアンジェリークが急に私にこう言ったのだ。 「ルヴァ。私ね、来週出張に行くことになったの。リュミエール様と二人で・・・・。」 「・・・・えっ?」 私は一瞬、その言葉の意味するものが分からなかった。 「だからぁ、出張に行くんです。一週間。」 「・・・・・・・・・えっ?」 念のため、もう一回聞き返してみる。 「もうー。出張なんですってば。来週はいませんから。」 「・・・・・なっ・・・何でですか?」 「何でって・・・仕事だからに決まってるじゃないですか?」 アンジェが出張に行く?しかも他の男と?それも・・・・リュミエールと? アンジェが出張に行くなんて考えたことも無かった。そりゃ確かに結婚前に一緒に出張したことはある。だけど、あの時はアンジェリークは女王の名代として行ったわけだし、そんなこと、めったにあることじゃないと思っていた。 アンジェリークが一人で出張?いや、しかも一人じゃないのだ、リュミエールと一緒なのだ。 ・・・・なんだか嫌だった。 いや、別にリュミエールが嫌なわけじゃなくて、その・・・組み合わせが何だか嫌なのだ。 アンジェは人なつっこくて、ちょっと優しくされるとすぐついて行ってしまうような、そういう無防備な子犬みたいなところがある。 その点、リュミエールとの組み合わせは最悪だった。 リュミエールに優しく世話をやかれたら、きっとアンジェは嬉しそうにするに決まっている。そういう態度は誤解を招くに決まっているのだ。 そしてそんな私の物思いをよそに、明日から出張というその晩、アンジェは私の部屋に旅行鞄をひろげて出張の支度をしていた。(なぜか彼女は何をやるのも、自分の部屋でやらずに私の部屋でやるのだ。) 鼻歌なんか歌いながら、妙にご機嫌である。 なんだかこのはしゃぎ方は納得がいかなかった。私と離れなきゃならないのに、何がそんなに嬉しいのだろうか? あんまり嬉しそうなので、私はつい、邪険なコトバを言ってしまった。 「あんまりばたばたしないでくださいね。今、ちょうどいいところなんですからー。」 「・・・・・・」アンジェはだまって私を見ると小首をかしげている。 「なんですか?」 「だって、ルヴァ、読んでないじゃないですかぁ?」 「えっ?」 「本、さかさです。」 「えっ、あっ、あ・・・・・・・。」 「考え事、してたんですよねー?」 「そっ・・・・・そうですよ。考え事、してたんですよー。」 「じゃ、私、お茶入れてきてあげます。」 アンジェはうなずくとにっこり笑ってパタパタと階段を降りていった。 彼女の旅行鞄の横には、彼女が一番気に入ってるといっていたウサギ柄のパジャマがたたまれていた。 誰に見せるわけでもないのに、なんで一番のお気に入りなんか持っていかなきゃいけないんだ。 私はまた少し、不機嫌になった。 「ルヴァ・・・・まだ寝ないの?」 夜更けになっても休もうとしない私を、アンジェが呼びに来た。 「これ読んでから寝ます。」私はわざと少しつっけんどんな言い方をした。 「私、明日早いから・・・・先に寝ちゃいますよー?」 「どうぞっ」 「じゃあ、先に寝ますねー。」 アンジェはあっさりとドアを閉めて出て行った。 別にけんかしたいわけではないのだ。 大体アンジェは単純明快なところがいいところではあるのだけれども、裏を返せば"鈍感"なのである。 これだけ不機嫌そうにしてるんだから、普通なら少しは気が付くだろうに・・・・。 それで「仕事で仕方ないから行くの」とか、「本当はあなた以外の人とは行きたくないんだけど・・・・」とか言ってくれれば、こちらも「仕方がない」という気になりそうなものなのに・・・・・。 それをもう、なんなんだろう、あんなに浮かれまくって・・・・・。 そうは言っても、約1週間、彼女と会えなくなるわけだ、今日はやっぱり一緒に眠りたかった。 私はそそくさと机の上を片付けると、慌てて寝室に向かった。 「アンジェ・・・・・」 寝室はまだ明かりがついていたが、ベッドの上のアンジェは既に熟睡状態に陥っていた。 やっぱり・・・・。 良くない予感がどんぴしゃり、当たってしまった。 彼女は典型的な朝型で、極端に寝つきがいい。一緒にベッドに入って、話し掛けて、寝かさないようにしておかないと駄目なのだ。 「アンジェ・・・・・」いちおう、ゆさゆさと体を揺さぶってみる。 「ルヴァ〜」アンジェが目を開いてしがみついてきた。 でも、これは、起きたわけじゃ、ないのだ。 次の瞬間にはアンジェは、いとも安らかな寝息をたてて、腕だけはがっちりと私にしがみついたまま再び睡眠状態に陥っていった。 仕方なく私は、所在無いままに彼女のお人形さんのようなほっぺたを指でつついたり、柔らかい金髪を指で弄んだりしながら、その日はなんとか眠りについたのである。 目が覚めると、私は一人だった。 枕もとにアンジェの丸っこい字で書置きがしてある。 「朝早いので、起こさないで行きますね。来週には帰ります。 大好きなルヴァへ、 アンジェリーク」 起こしてくれればいいのに。 なんだかわざと意地悪をされているような気がした。 ちょっと起こしてくれればすぐ起きるのに・・・・・・。 私はもぞもぞと起き上がると、出仕のための身支度を始めた。 もういい。アンジェのことはしばらく忘れよう。結局行ってしまったわけだし、彼女も仕事なんだから。 考えようによっては、まとめて読書できるいい機会かもしれなかった。 こんな時こそ、日頃アンジェに邪魔されてる分を取り返すべきだろう。 上着を着終わって、ターバンに手を伸ばした私は、一瞬、停止した。 ターバンの布を手にしたまま、数分間私は硬直していた。 ・・・・・・・・・・・・・どのへんで折り曲げるんだっけ・・・・・・・・・・・。 そう、私は完璧にターバンの巻き方を忘れていた。いや。忘れたわけではない。覚えてはいる、頭では。 だけど違うのだ。子供の頃からずーっと毎日巻いてきて、頭じゃなくて体で覚えていたのが、体の方が忘れてしまったのだ。 結婚してから私のターバンを巻くのはアンジェの役目だった。彼女がやりたがったのだ。 最初はひどかった。布地の表裏が逆だったり後ろ前だったこともあった。だけど彼女はあっという間に上手になって、毎朝髪を梳いてくれてからターバンを巻いてくれるのがとても心地よかったのですっかり任せていたら、今度は自分が巻けなくなってしまったのだ。 ガーン。 音がしそうなくらいショックだった。なんてことだ。いつのまにかアンジェリークに洗脳されている。 何度も何度もやり直して結局どこか違和感を感じながらも私は適当なところで妥協することにした。このままでは出仕に遅れてしまう。 朝食の席についたとたんに私は再び愕然とした。ひとりっきりの食卓は異常にだだっぴろく見えた。結婚前はいつもひとりでここで食事をしていたのに、それが当たり前だったのに・・・。 私はうつむいて食事を始めた。 異様に静かだった。こうまで静かだと自分の食べ物を咀嚼する音まで聞こえてきそうで無気味だった。 だいたいアンジェが悪い。 彼女が存在感がありすぎるのだ。普段はこの広いテーブルの8割を彼女のオーラが覆っているのだ。 アンジェリークはあやしい手つきで箸を使いながら「これ!おいしい!」を連発し、嬉しそうに食べながらひっきりなしにしゃべる。そしてその話題は猛スピードで転換し私はいつもあいづちを打つのがせいいっぱいで、返事をすることなど思いも寄らないのだった。最初のうちこそ落ち着かないものを感じていたが、いつのまにかあれが普通になってしまっていたのだ。 いつもは朝食の時間はとてもあわただしくあっという間のような気がしていたが、今日はとても長く感じられた。私は半分くらい箸をつけたところで箸を置いてしまった。 馬車に乗り込むと私はいつもどうりに本を広げた。 今日は邪魔する人もいない。朝型のアンジェは馬車の中でも妙に元気で、人が本を読んでようが何だろうがお構い無しに話し掛けてくる。しかも高速で。まじめに返事をすることもあれば上の空で生返事することもあったが、彼女にとってはどっちでもいいみたいだった。それなら聞かなきゃいいだろうにと思っていたのだが・・・・・・・。 「・・・・・・・・・・・・・・。」私は音を立てて本を閉じた。駄目だ。今日はもう朝から全然駄目だった。こんなに四六時中アンジェのことばっかり考えていたら何もできやしない。 (取り合えず執務中は忘れよう。)執務室に入ると、私は自分にそう言い聞かせた。 いつもだって結局はそうしている。こんなにしょっちゅう彼女のことばかり考えているわけじゃない。 ふいに写真立てのアンジェと目が合った。紅いリボンを結んだ制服姿のアンジェ。写真の中でアンジェはまぶしいくらいの笑顔を浮かべていた。 この笑顔は今でも少しも変わってない―――そして今のアンジェは、もっときれいになって、大人っぽくなって、ちょっぴり色っぽくもなって、それで、それで・・・・・。 私はいきなり写真立てを机に伏せた。駄目だ。またアンジェのことを考えている。 取り合えず執務中は駄目なのだ。 10時からは王立研究院で講義の予定が入っていた。 資料は全部用意してあるけれど、事前に確認しておかねばならない・・・。 資料をぺらぺらとめくり返してみたが、どうもいつもと勝手が違う。今ひとつ気分が乗ってこなかった。 ・・・・・私は、はたと気がついた。そういえばこの原稿は、まだアンジェに褒めてもらっていなかった。 アンジェは日中自由な時間がほとんどないので、私の講義に顔を出すことはめったになかったけれど、私のスケジュールはきちんと把握していて、前日になると食事の時間やベッドの中で「明日はなんのお話をするんですかー?」と必ず聞かれた。さわりを話すつもりが彼女はいつも「それで?どうなったんですか?」とか「どうしてそうなっちゃうんですかー?」とかいろいろ聞いてくるから、ついついほとんど全部を話すことになってしまうのだった。そうしていつも彼女は「すごーい。おもしろーい。ルヴァってほんとに物知りー。」とかなんとか言って講演内容を誉めてくれるのだ。 そこで私はアンジェリークに質問されたことを更に原稿に盛り込んで、アンジェリークが興味を示したところを強調して本番に臨むようになった。不思議なことに、このステップを踏むようになってから私の講義の受講者は飛躍的に増えたのだ。別にアンジェリークは専門家じゃあないし、思い過ごしか偶然なのかもしれないけれども、とにかくそうだったのだ。 そして午後―――アンジェがいないと妙に仕事がはかどらなかった。 アンジェはいつも夕刻頃に髪を振り乱して私の執務室に駆け込んでくる。私を完全に信頼しているアンジェは、いつも他の守護聖への用件を先にして私への用事は後回しにする。どんなに難しい案件でもどんなに期限が短くても私が対応できると単純に信じているようだった。こんなに手放しで信頼されているのを裏切るわけには行かない。最後に渡された依頼をいかに速やかに、誰よりも早く彼女に返すかが、私の仕事に対する達成感を大きく作用していた。そのために他の執務はどんなに面倒なことでもすべてを彼女が現われる夕刻までにはクリアできるように心がけていた。 こうして午後一番にさっさと依頼を持ってこられて、期限が一週間後と言われると、却ってなんだか力が抜けた。 そして、恐れていた夜がやってきてしまった。 ベッドの中で空漠とした左側を見つめて私はため息をついた。 いつもそこにあったたんぽぽの綿帽子のようにふわふわとした金髪。小動物のように柔らかくて暖かい体がここには無かった。 ちょっと手を伸ばして引き寄せれば、いつも向こうの方から甘えたように擦り寄ってきて、私の懐の中でなにが嬉しいのかとても満足そうなため息をついて・・・。 もう眠れなかった。私はアンジェリークの頭の先からつま先までを頭の中で克明に再現した。 全部頭に刻み込まれていてすごく細かいところまでいくらでも再現できた。 彼女はいつも恥ずかしがって灯りを消して欲しいと懇願したけれど、私はいつも最後のひとつの灯りだけは消すことを許さなかったのだ。だって彼女はどこもかしこも、とてもきれいだったし、私は彼女のことなら何もかも全部知りたかったから・・・・・。 柔らかい指どおりのいい金色の巻き毛、睫の長い大きな瞳、産毛に覆われたふっくらとした頬、薄い華奢な肩とつるつると滑らかな二の腕。私の手のひらにすっぽりと吸い付くように納まってしまう形の良い乳房と、その先端の甘い桜色の突起、服の上からは想像できないほど意外に艶かしくくびれた胴とそこから腰にかけての曲線。まっすぐでつややかな太もも、小さな足の先の桜貝のような爪。そして、私だけが知っているあの秘めやかな場所まで。 最初は怖がって、震えながら私にかじりついているだけだったのが、最近になって少しずつ控えめに悦びを示すようになった白い肌はたまらなく愛しかった。 彼女はどこに触れてもあきれるくらい瑞々しく反応した。恥ずかしがっているくせに感覚が鋭すぎて、少しも我慢できないのだ。私がちょっとじらすようなことをすると、すぐに泣きべそをかいて、それでもじらしつづけると、彼女は最後には屈服せずにはいられなくなる。降参して、私に自ら求めずにはいられなくなるのだ。そんな時の彼女はとてもきれいで可愛かった。あの、私だけが知っている潤んだ瞳、哀願、切ない声、艶かしい表情。 私は思わず布団を跳ね除けて飛び起きた。 もう眠ることすらできなかった。目を閉じるとアンジェのあられもない肢体や表情がいくらでも浮かんできそうだった。 (こんなことではいけない。) 私は強硬手段に訴えることにした。いつだったか、酔っ払ったオリヴィエが持ち込んできた、得体の知れない強い酒のびんを引っ張り出すと、私はそれをどぼどぼとグラスについで、目をつぶって一息に飲み干した。 だがそれはまだ、地獄のような1週間の、ほんの始まりに過ぎなかった。 「ただいまあ!」 一週間後、元気な声と共にアンジェリークが、帰ってきた。 ニ、三時間も前から玄関のあたりの部屋をうろうろしていた私は、あっという間にダッシュで玄関にかけつけた。 「あ、ルヴァ。ただいま。リュミエール様が送ってくださったの。あのね、大変だったのよ・・・・・。」 久々に聞くアンジェリークの高速のおしゃべりの内容を、私は聞いていなかった。アンジェリークの声を聞き、目の前にアンジェリークの姿を見た瞬間。 「・・・・・・・・・・・・・・・・。」私の中で何かが、切れた。 「・・・・・アンジェリーク・・・・・。」 私は彼女の体を狂おしくかき抱くと、とりあえず目に付いたところ全部にめちゃくちゃに跡がつくほど口付けした。 そこには頭の中で空想しつづけたのと寸分たがわない、現実のアンジェリークがいた。 大きさも暖かさも柔らかさも、じたばたと身もだえするしぐさまで何もかも、私の良く知っている、私だけのアンジェリークがそこにいた。 「ちょっ・・・・ちょっと待って、ルヴァ・・・・・」 「あ・・・あの・・・・私はこれで・・・・・」 リュミエールがおびえたように後ずさりして玄関先から出て行くのが視界の隅に見えたが、こっちはそれどころではなかった。 私は度肝を抜かれているアンジェリークを抱え上げると物も言わずに寝室に直行した。 私は、ここ数日妄想の中に出てきた行為を頭から続けざまに実行し、アンジェリークは怯えているのか、茫然と私のなすがままになっていた。取り合えず、すべてを試みて、彼女の身も心も私のものだととことん確認してから私はやっと満足のため息とともに彼女を解放した。 しばらく後―――。 私は彼女の柔らかい胸に顔をうずめて陶然とした気分に浸っていた。 彼女はさっきから私の頭を胸に抱いて、ゆっくりと私の髪を撫でてくれている。 なんだかいつもと逆のシチュエーションであったが、これがまた妙に心地よかった。 「・・・・・ごめんなさい・・・・。」 私の髪をなでながらアンジェが言った。 「・・・・・何がですか・・・・。」 「寂しかったんでしょ?」 「寂しいどころじゃありませんでしたよ・・・・・・。」 私はわざと殊更に恨めしげに言った。もう二度とこんな思いはごめんだった。 「でも、私がいない間、読書が進んだんじゃないですか?」 「とんでもない。読書どころじゃ・・・・・・・・・・・・・・・」 本の話が出たとたんに、私はふとここ数日手付かずになっていた本のことを思い出した。 そうだ。あの続きはどうなったんだろう・・・。 気になり始めると妙に止まらなかった。ちらりと時計をみやるとまだ10時前である。寝るにはまだ早い時間帯だった。 ・・・・・・・・。私は黙り込んでしまった。 さんざんやりたい放題をやって、済んだとたんに『本が読みたい』というのも、かなり身勝手な話である。アンジェは怒るかもしれない。ここはやはりアンジェのそばにいるべきなのだろうけれども、でも一旦気になりだすと、どうしても続きが読みたかった。 ・・・・・・・・・・。上目遣いにアンジェの表情を盗み見ると、ちょうど訝しげにこちらをのぞきこんでいるアンジェともろに視線がぶつかってしまった。 急にアンジェが私の頭を強く胸にかかえて、くすくすと笑い出した。 「いいんですよ。そんな顔しなくて・・・・。本の続きが気になるんでしょう?」 アンジェは軽やかに起き上がるとさっさと私にガウンを着せ掛けて、頭に略式でターバンを巻いてくれた。 私は多少の気恥ずかしさと共に、心地よい幸福感に浸っていた。 そうだった。アンジェリークはそんじょそこらにいる女性とは違う。私のことを本当に理解してくれているし、私のすることならなんだって許してくれるのだ。そして取りも直さずそれは、私が彼女からものすごく愛されていて、大事にされているということなのだ。 「はい・・・。あんまり遅くならないでくださいね。また寝不足になっちゃいますよ。」可愛い妻の甘いお小言を夢見ごこちで聞いて、私は書斎へ向かおうと寝室のドアを明けた。 背後からアンジェリークが思い出したようにこう言った。 「あっ、そうだ。木の曜日の講演はこの間の続きだったんですか?今週は聞けなかったから・・・後で教えてくださいねー。」 私は一瞬ぎくっとしながら曖昧に返事を返した。 いけない。・・・・アンジェがいないからといって、手抜きをするべきではなかった。見えないのといないのは別なことだ。アンジェはいつだって私のことを見ているし、彼女には私のことはお見通しなのだ。 私は深い満足と共に、いそいそと書斎に向かった。 「陛下!有難うございました!」 私は陛下の執務室に参上するなり、ぺこりと頭をさげた。 「それで、・・・・上手くいったの?」 「えへへ・・・。」 私が我慢できずに忍び笑いを漏らしたのを見て、陛下はあきれたように大きなため息をついた。 「あんたがいない間のルヴァ、見られたもんじゃなかったわよ。」 「ホント?ねえ、どんな風に?教えて教えて?」 「かわいそうだと思わないの?」 「思う、思う。なんか可哀想みたいだった。ねえ、それで?どんなだったんですか?」 「あんたねえ・・・。ルヴァみたいな夫はいまどき貴重よ。奥さんが数日いないくらいで、あんなにうろたえる夫っていないわよ。・・・いない間に多少は羽目を外そうっていうのが普通でしょ?」 「はあい。分かってまあす。」 「まったく!あんたが自分で志願して出張に行ったと知ったらルヴァが泣くわよ。」 「だあってえ・・・。ルヴァ、最近あんまり構ってくれないし・・・・。」 「それはあんたが忙しがってるからでしょ?」 「最近すぐにうるさがるし・・・・」 「当然でしょ。あんたみたいにうるさいの、よくルヴァは我慢してるわよ。」 「分かってます。でもね、ルヴァ、私のこと全然うるさがらなくなったの。すっごく優しくなったし・・・・。だから私も当分はどこにもいかないで、ちゃあんとあの人の面倒を・・・・」 勢い込む私を扇でさえぎると、陛下は私に向かってにっこりと微笑んで見せた。 「残念ね」 「えっ?」 「来月からあんたには月2回は出張行ってもらうから」 「えええええええええええ!?」 「今回で結構あんたでもいけるってことが分かったし、守護聖を二人も出しちゃうとサクリアのバランスとるのが難しいのよね。一人分、あんたが肩代わりしてもらえると助かるわ」 「そっ・・・そんな〜。」 女王執務室に私の悲鳴がむなしくこだました。 =完・おそまつっ!= |