砂のつぶやき(4) 例の本のおかげで、俺の新メカ製作は順調に進んでいた。 その日、俺は例によって徹夜明けで、昼近くになってやっと目が覚めた。ゆうべ足りなかった部品を買いに行こうと庭園のあたりを歩いていると、だ。 「あ〜!ゼフェルー!!」 脳髄に響く高い声が聞こえた。マルセルのやつだ。 マルセルは俺の姿をみかけると、たいそうな剣幕で走ってきやがった。 「ちょっとー。ゼフェルでしょ、あの砂時計ルヴァ様にあげたのー。もう、落ち着かないからなんとかしてよー。」 「あん?おめー言ってることがわけわかんねーぞ。」 『砂時計』、と言われて、俺はなんか、いやーな予感がした。 「ルヴァ様が話すときにいつもあれで時間はかるんだよ、なんかさあ、それって変じゃない?なんか、話してて落ち着かないよ。」 「はあ〜〜〜?」 おれはまじで驚いていた。っーか、あきれた。バカ真面目なやつとは思っていたけど本気でやるやつがいるかよ!!!!ふつーからかわれたって、すぐに分かるだろーが!? オレは別な意味であせった。あの砂時計にはヒミツがある。あれは・・・・あれを外に持ち出されるのは、なんとしてもまずかった。 「それでっ!ルヴァは!ルヴァは今どこにいるんだっ!!」 「ちょっと・・・・げほっ、ゼフェル、離してよ、苦しいよ〜。」 オレはマルセルから、ルヴァが今リュミエールのところで茶を飲んでいるらしいことを聞き出すと、リュミエールの執務室に猛ダッシュで向かった。 「えーっとですね、ちょっと待ってください。その件について3分で説明しますから・・・。」 オレが飛び込んだ時、ルヴァはまさに例の砂時計を引っくり返そうとしているところで、その前ではリュミエールが何とも言えない困惑の表情を浮かべていた。 「ばっ・・・・ばかかよー、おめーはっ!!!」 オレは絶叫した。 「おや、ゼフェル?どうしたんですか?」 「その砂時計はなっ!持ち歩くもんじゃねーんだっ!茶でも入れるときに使いやがれ!!」 「えっ?だってあなたが?」 「じょーだんに決まってんだろ!」 「えー、そうだったんですかー?でもね、けっこう気をつけると3分で話せるようになりましたよ。」 「ばかやろー、おめーは砂時計引っくり返す前の能書きがすでに長いんだ。イミねーだろ。」 ルヴァはまた黙り込んだ、あきらかにへこんだようだった。 「でも・・・・私はこの砂時計の音が好きなんですよ。持ち歩いて時々聞くと気分がすごく落ち着くんです。すごくいい音ですよ。ほら、聞いてみてください。」 ルヴァの野郎、砂時計を引っくり返すとリュミエールの耳元に押し付けやがった。 「やめろー!聞くんじゃねー!」 俺は再び絶叫した。 「・・・・・・・・・・・?すみません。私には普通の砂の音にしか聞こえません。」 さすが専門家だけに、リュミエールは音に関しては世辞が言えずに申訳なさそうにそう言った。 「おかしいですねー。じゃ、もういっぺん・・・。」 「よせー、ルヴァのばかやろー!」三たび、おれは絶叫した。 「ばっ、ばかやろうって・・・。」 「そんなの人に聞かせるもんじゃねーだろ、一人で部屋で聞きやがれ、いや、むしろおめーも聞くな。使うな。どっかしまっとけ!」 「ゼフェル?」 「いいか、今後おめーがそれを持ち歩いているのをみかけたら、ジュリアスの部屋の窓ガラス全部たたき割って、クラヴィスの部屋に野球場の照明スタンド設置して、オスカーの部屋の壁ピンクに塗り替えて、この部屋にも拡声器でロック流して、オリヴィエの部屋にカエル100匹放して、ランディヤローの部屋にエロ雑誌ばらまいて、マルセルの部屋をお化け屋敷に改造して、ついでにアンジェのスカートまくってパンツの色公開してやるからな!そうしたら、おめーもただじゃ済まないぞ!」 俺はそんだけ叫ぶと猛ダッシュでその場を後にした。 こんだけ言っときゃあ大丈夫だろう。。。。 これは、ぜったい、誰にもいえないヒミツだ。 あの砂時計の砂の音は人工的に作った音声で、もとは人の声の回転数をいじったものだ。 人の音声の波長を変えて、犬の鳴き声や波の音を作る技術ができたって聞いた時に、オレはどーしてもそいつを試してみたくなったんだ。 んで、丁度あいつの誕生日だったから、オレは最初、犬の鳴き声かなんかの目覚ましでも作ってやろうかと思ったんだ。 うんとこさ悪態ついたのを録音して、そいつであいつが毎日目ぇ覚ますとこ想像して笑おーというつもりだったんだ。 部屋の中をスタジオに改造して真夜中にずーっと録音してて、最初はふざけて「ばーか」とか「とろくせー」とか録音してたんだけど・・・・。 だけど、いざ本番という時、オレはつい、ぜんぜん別なことを言っちまったんだ・・・・。 「あーえー、ルヴァ、俺はおめ―のことが、好きだかんな。おめーはちょっとめずらしーくらい、イイヤツだぞ。だから、そのー・・・・・ありがとう!!!!!!!」 この録音用の媒体は特殊なもんで、1本しか手に入らなかったし、上書きもできなかった。 オレは自分でも何やってんだかなーと思いながら、そいつを加工したんだ。 最初がぼそぼそしてて、最後がなってるこの音声の波が、いじってるうちに砂の音に聞こえてきて、オレは急遽砂時計を作ってそこにこのマイクロチップを仕込んだんだ。 幸い、ルヴァはさすがにアンジェのスカートをめくられてはたまらないと思ったのか、砂時計を持ち歩かなくなった。 俺はばかなことをしちまった自分に後悔しつつ、即座に部品屋に媒体を注文した。次に媒体が入荷したら、すぐにニューバージョンを作ってこっそりすり替えてやるつもりだ。 「くっそー。ルヴァのやつ!」 俺は自分のアホを棚にあげて、とりあえずすべてをルヴァの間抜けさのせいにした。 来年の誕生日には見てやがれ!きっとギャフンと言わせてやるからな。 俺は深夜の作業部屋で、ひとり心に誓ったのであった。 =完= |