モノカキさんに30のお題 02.秘めごと



コツ、コツ・・・・・・・。
草木もとうに眠りにつく時間。
視線をあげれば、電気を落としたこの宮殿内を照らし出す。30日周期の赤の月。


人気も、音すらも奪われたかのような宮殿の中を、導くように紅い月の光が注ぐ。

たどり着いた先に待つ重厚な扉。
この宇宙の中でたった1人。”彼女”のためだけの空間がその先にある。
何人たりとも犯す事の出来ない、絶対不可侵の領域に、恐れを抱かなくなったのはいつからだっただろう。
いや、その先に、恐れなど初めから感じていなかったのかもしれない。

恐れたのは、ただ1つ。
『アナタヲウシナッテシマウコトダケ』

コンコンと、
普段は4回のノックは、この紅い月の下では、合図のように2回だけ。

ギィっととまどい無く開かれるその扉の先には。
「ルヴァ様・・・・・。」
初めて逢ったときは肩口で揺れていた金の髪は、今では背の中程までに伸びて。
大きく見開かれて、好奇心にころころと動いていた翡翠の瞳は、少し切なげに、少し苦しげに・・。そしてそんな色など忘れさせる程に歓喜の色を湛える。
「こんばんわ、アンジェリーク。」
そっと伸ばした指先を顎にかければ、尚いっそうに喜びの表情を向けて、ゆっくりと瞳が落ちる。
「逢いたかった。ルヴァ様・・・・・。」
「そうですか〜・・・。私も、同じですよ。いっそのこと。毎日この紅い月を巡らせてくれればいいのに・・・・。」
軽くキスを落として扉の向こうに滑り込めば、そこにいるのは女王と守護聖ではなく、ただの愛し合う男と女。

「ルヴァ様・・・・・。」
短い時間を惜しむように、小さく名を呼ぶ目の前の愛しい人を見つめて。
「大丈夫ですよ、夜はまだ長いですからね?」

30日に1度。
巡る紅い月に誘われるままに、繰り返される逢瀬。
逢えない時間を埋めるように、宇宙を裏切る罪の意識に捕まらないように。
抱いた腕に力を込めてそのままベットへ倒れ込む。

月が見守る、聖域で、誰にも知られてはならない、30日に1度の秘め事。

 

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