Cherry Blossom 〜 Case4.luva×ange,oscar×rosalia
「・・・ねぇ。なんか変な気がしない?ロザリア・・」
つっと、ペンを走らせていた指を止めて、女王であるアンジェリークが、補佐官であり親友である彼女に告げる。
「そうですわね・・。最初は偶然かと思いましたけど・・。」
「私も、最初は今日はラッキーなんて思ったんだけど、どう考えても・・・普通じゃ、ないわよね?」

事の始まりは、執務が始まったばかりの頃・・。
「ねぇ、ロザリア・・・。おかしいと思わない?」
「ジュリアスの事ですか?」
「そうよ・・。いつもならもう来ているはずでしょう?視察に行ったり、緊急の会議があっても必ず連絡がはいるじゃない?なのになんの連絡もなく、姿も見せずって・・。おかしいわよ。何かあったんじゃ・・・。」
きゅっと机の上で組んだ指に力がこもるのを見て、
「先ほど、彼の執務室には連絡を入れましたわ。いつもと同じ時刻にやってきて、打ち合わせでオスカーの執務室にいると言い残しているそうよ。宮殿の中で何かれば、すぐに衛兵達が駆けつけるでしょうし。問題は無いはずですわ。」
「そう、よね・・・・。ただ、マルセルも今日、お花届けてくれていないから・・心配になっちゃって・・。」
考え過ぎかな?そういって、目の前に束になった書類に視線を戻すと、今日も頑張りましょう!といって、執務に取りかかる。
確かに、緑の守護聖のマルセルが毎朝のように花を届けてくれることも、執務開始直後に、筆頭守護聖であるジュリアスが、その日から数日分の聖地内の予定の確認や、前日に回った資料等の確認に来ることも。もはや慣習と言うより予定になってしまっている自分たちだったりするわけで・・。
とりあえず、緊急の連絡が入らないということは、事件などの可能性は無いだろうと判断して補佐官である彼女の、同じように執務を開始した・・。

その1時間程後・・。
「ねぇ・・。今日の書類ってこれだけ、なの?」
執務開始から1時間。昨日の勤務後から、今日の勤務前まで。
時間外にあがってくる決済や、参考文献などは、各守護聖やこの女王の執務室前に備え付けの時間外専用BOXに投函される。
もちろん執務時間内なら、本人か、もしくは各部屋専任の補佐員かが、直接その部屋の主に手渡していくのだが・・・。
普段ならひっきりなしにあがってくるそれら書類達が今日は朝からたったの1度しかないのだ・・。例え女王でなくとも不審を抱くのは当然だが・・・。
「なら、ロザリア!今日はゆっくりお茶しましょう?」
・・・不審を抱く前に、お茶の話になるあたり、この子らしいとは思うけれど・・。
「陛下・・。確かに決済の書類は終わりましたが、まだこちらから発送しなければならない書類が残っているでしょう?王立研究院を始め女王府の機関は今、移動の時期ですわ。陛下がお決めになることではないにせよ、陛下からの指示がなければ彼らは何も出来ないのですから・・。それに、宮殿内の予算配当だって、確認しなければならないでしょう?」
「え〜・・・・。決済は午前中に・・って決めたのロザリアなのに〜。」
「そうでもしなければ、いつまでたっても書類が回らないでしょう、陛下の場合。」
「そうだけど・・。」
「仕方ないわね・・。確かにこの時期に比べて今日は書類が少ないみたいだし、今ある分の仕事が終われば、午後からゆっくり休みをとっていいわよ、アンジェ・・。だから、まずは今ある仕事を片づけてしまいましょう?」
「ありがとう!だから好きよ、ロザリアって!」
「・・・・。相変わらず、単純ね。そのかわり、明日からはまた今まで以上に働いてもらいますわよ?」
うん・・・そういって笑顔になって仕事に向かう女王に、小さな微笑みを浮かべつつ。
何処かおかしい。と・・・。移動の時期とはいえ、関係機関の辞令交付は既にすみ、認証も終わっている。慣れない場所で多少の混乱が起こるのも解らないでもないが、そのあたりは引き継ぎでしっかり教わっているだろうに・・。この時間になっても、1人しかこの部屋に入ってこないのは、おかしい事この上ない事に変わりはない。
それに、アンジェは気がついていないだろうが、宮殿全体が妙に静かなのだ。
最奥に位置するこの女王執務室でも、普通ならもっと、宮殿内を動き回る人の気配や、守護聖達の笑い声。たまにジュリアスあたりの怒声・・。確実に聞こえるわけではないが、そういう雰囲気というモノが伝わってくるはずなのに・・。
今日に限っては、まるで休日にやってきたかの様に、取り巻く雰囲気はひっそりとして・・。なんだか不気味ですわ・・。

それから30分後・・・冒頭の台詞へとつながるのである・・。

二人で、向かっていた書類をぽんと机の端に寄せて、女王は真剣な瞳を向ける。
「ねぇ・・。本当に何か逢ったんじゃないのかしら・・。だって、静かすぎるわ今日の宮殿・・。」
「それは、わたくしも思っておりましたわ・・。まるで休日のようだと・・。」
「まさか・・今日って日の曜日??」
「陛下・・・昨日週が開けたばかりでしょう?それに2人そろって間違えるはずがありませんわ。」
「そうよね・・。ねぇロザリア、・・誰かの所へ様子見に行った方がいいんじゃないかな・・。」
「そう、ですわね・・・。でも、誰の所へ・・。」
行くべきなのか・・。
そう答えようとしたロザリアの言葉を遮るように、コン、コン、・・コン、コンと4回のノックの音が響いて・・。
「オスカー!それにルヴァも!!」
開いた扉から現れた2人の守護聖に、思わず席をたった陛下が声を上げる。
「あ〜・・ごきげんよう。陛下、それにロザリア。」
「もう、ごきげんようじゃないわよ!・・・」
「おっと、落ち着いてください。陛下。」
「オスカー・・・。」
隣で何を企んでいるの?とでも言いたげな視線を飛ばしてくる補佐官に軽くウインクを飛ばして・・。
「今日は、お迎えに参りました。どうぞ手をお取り下さい・・。麗しの補佐官殿。」
そっと差し出された手と同じように、軽く傾けた視線。
「さぁ、陛下。こちらへ・・。いつも、頑張っているお2人に、守護聖一同からのささやかなお礼です。宮殿では落ち着かないだろうと思いまして、湖の近くに小さなお茶会を設けました。丁度桜も満開で綺麗ですよ〜。共に来て頂けますよね?」
同じように差し出された手に・・・。
そうかと・・。宮殿内が静かに思えたのは、守護聖全員で何処かで何かの準備をしていたのだと。そのために、書類は回ることもなく。きっと部屋付きの補佐員達も同じようにその場所で手伝っていたのだろう。
お互いに顔を見合わせて、やられたわね・・。と小さく微笑み逢えば、同じように手を差し伸べている2人の守護聖達も小さく方をすくめて微笑んで。
「エスコートさせて頂きましょうか・・。ねぇ?オスカー。」
「そうだな。悪いがこの役目だけは譲れないからな。お前もそうだろ、ルヴァ。」
すっと、伸ばされた手に笑顔で答えて。
迷い無くその手をとって、そして・・・扉がゆっくりと閉められた。

 

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