「このまま、こんな時間がずっと過ごせるといいですよね〜。」 執務の合間の僅かな時間のティタイム。 柔らかな午後の日差しと同じように、柔らかく左右に揺れる金の髪。 初めてであったときより少しだけ伸びたその髪が、こうして穏やかに緩やかに重ねてきた2人の時間を表しているようで・・。 「貴女のことが好きですよ・・。アンジェリーク。」 「・・・私も、です。ルヴァ様・・。」 ずっとずっと・・・。 貴女が女王候補として、飛空都市にやってきてから、・・・補佐官となってこの聖地にとどまるようになって。 執務の合間の午後の休憩。執務の後の僅かな時間。それだけ見れば短い時間だったかもしれない。 それでも、毎日毎日積み重ねた2人の心の軌跡。 それが・・・・・・・・・・・。
いつから? 毎日だった時間が月に1度減り、・・・・月に3度減り・・・・
公にしたわけではいない。夫婦のちぎりを交わしたわけでもない。それでも、・・・・・ それでも、アンジェリーク。私はこの先もずっと・・・貴女と共に生きていけるのだとそう思っていたんですよ。 そして、今でも・・・。 アンジェリーク。貴女は今でも、私のたった1人の天使。 私は、忘れていた・・・・。 あなたと、私の生きてきた時間の長さ。を・・・・・。 そう、確かに私たちはお互いに愛し合っていた。あの頃は・・・・・。 そして。守護聖としてこの地に長く暮らした私にとってあなたは・・・。最後の天使だった。 けれど、貴女は違う。 突然選ばれてやってきた聖地。それまで普通に暮らしてきた貴女と、長い年月を過ごしすぎた私。 其処から既に・・・・2人の気持ちは違っていたのだと。 私は・・・どうして気がついてしまったんでしょうねぇ・・・・。
ぱたぱたと、廊下を渡る2つの足音。 それだけで、貴女だと解る程に、私の心は貴女を求めているのに、 貴女は・・・・・。 執務室の向こうから、貴女の声が小さく聞こえて・・。 「また、後で・・・。」 扉で見えないはずの廊下の光景がまるでガラス越しのように瞳に浮かぶ。 『また、後で・・・。』そう言って、私にほほえんでいたはずの天使が、今は違う人にその笑顔を向ける。 貴女が、この地になれるまで、貴女が目指す補佐官になれるまで・・・。 そう言って待っていた私がいけなかったのですか? 彼のように、心のままに貴女を求めていれば、貴女は今でも、私の事を見つめていてくれたのですか?
「失礼します。」 そう言って入ってきた貴女。何か決意を秘めた瞳を見たときに・・・・。私の心の何かが
音を立てて崩れ落ちた。
・・・・・貴女が言いたいことは、解っていますよ。アンジェリーク。 貴女の事なら、全て解るんです。ずっと貴女だけを見つめていたのだから・・。 でもね、アンジェリーク。 「あぁ。アンジェリーク。」 いつもと同じ微笑みを浮かべて、扉の近くまで貴女を迎えると、そのまま・・・貴女をこの腕に閉じこめる。 「ル・・ルヴァ様!?」 「いいでしょう?私たちは恋人同士・・・何ですから・・・。」 すっと埋めた貴女の髪に・・・・微かで、それでいて確かな残り香。 ・・・・・彼の人が好んで使う『EGOIST』・・・・・・ 「ルヴァ様・・。そのことでお話があってきたんです。今までずっと曖昧にして来たけど・・。!!」 貴女は・・・・。誰にも渡さない。 髪に埋めていた顔を少しずらして、その細い首筋に確実な印を残す。 「いや・・・やめ・・・・」 開いた片方の手で、ゆっくりとその唇を塞いで・・・。残り香など・・・消し去ってあげましょう。 貴女は、誰にも渡さない。1つ2つ・・・。刻印を刻むように紅く紅く私の証。 「貴女は、私の恋人でしょう?アンジェリーク・・・。」 ゆっくりと視線をあげた先には、一筋の涙がこぼれ落ちて・・・。 「今まで、曖昧にしてきたのは私の方です。すいませんでした。そのせいで、貴女を迷わせてしまったんですね・・。」 すっと肩に掛かる金の髪を一房取り上げれば、驚きに見開くその瞳。 「もう、迷わせたりはしませんよ。」 彼女がもたれる扉の鍵を閉めれば。塞いだ唇が小さく名前を呼んだ・・・・。
「無駄・・ですよ。貴女は誰にも渡さない・・。」
他の誰にも渡さない。貴女は私の、私だけの天使。 その翼を、その笑顔を、この場で私が手折ることになろうとも・・・・。
小さくまた、貴女が彼の人の名前を呼ぶ。 「違うでしょう?アンジェリーク。」 塞いでいた手に少しだけ力を込めれば、苦しげに寄せられる眉間。その姿にさえも私は愛おしさを感じてしまう程に。
「貴女が呼ぶのは・・・私の名前だけ。今も、これからも・・・。そうでしょう?アンジェリーク。」
貴女を・・・愛しているんですよ。アンジェリーク。 例え、その愛が、狂っていたとしても、ね・・・・・。
|