楽団の音楽も、華やかなドレスも無いけど・・・。
あの時と同じ音楽を雪達が奏でていく。
10年・・・・。
数字にすればたった2文字のこの時間は、果たして長かったのだろうか?
それともその文字数と同じく少なかったのだろうか?

ただ1つ・・・解ることは。

あの時も今も・・・・

心に宿る思いは2人とも同じと言うこと。
あの夜と同じぎこちないステップが新雪の真っ白の絨毯に軌跡を残していく・・・。

今までの、そしてこれからの2人の足跡の様に。
†† HOLY NIGHT〜LUVA&ANGELIQUE〜 ††

「あっ・・。」
プチンという嫌な音共に、胸元のネックレスが重力の赴くままに床に舞い落ちる。
咄嗟に指を伸ばしてかろうじてそのペンダントヘッドを床に落とすことだけは避けることが出来たのだが・・。
「・・・どうしよう・・。」
あの夜から1度だって・・。はずしたことのないネックレス。
10年間、ずっと耐えてきたはずなのに、その鎖が今日になってまるで役目を終えたとでも言わんばかりに途中から寸断されてしまった。
手の中に残るのは、中央がねじれたペンダントヘッド・・・。

『永遠』
そのねじれたリングの意味を思い出してぎゅっと手を握る。
今までだってずっと肌身離さず持ってきたのだ・・。鎖が切れたからと言って離すわけにはいかない。
かといって、新しい鎖が有るのか・・というと・・。
「ないのよね・・。」
そっと指に挟んだそれを見つめると、小さなため息が漏れた・・・。
くるりとそのリングを回して・・。ふと思いつく・・・。

そして・・・くすり・・と笑い声が漏れる。
「ルヴァ・・・」
偶然かそれとも必然か?
そのリングは彼女の・・・アンジェリークの薬指に設えたようにぴったりと収まった。



「おかえりなさい!」
ぱたぱたとキッチンから玄関へ彼の人を迎えに走る。
「ただいま。アンジェリーク。」
にこっとあの人特有の微笑みが玄関に満ちる。

表向きは大学の講師・・・。ということになる。
聖地を降りたあと、どうしても解決できなかったこの土地での出来事を解決したかった・・。
聖地から正式な要請を出してこの地に降りたが・・。
政府に入っていてはなかなか事は進まないだろう事は聖地にいる時に嫌と言うほど解っていた。
そして・・同じようにこの異変を解決しようとしている仲間がいることも知った。
そうして、ルヴァはぴったりとも言うべき大学という場所で普段は講師をしながら色々な情報を集めている。
そのルヴァと一緒に、聖地を降りた前炎の守護聖が彼らのパートナーに望んだのは・・
普通の女の子としての時間を持たせたいと言うこと・・・。

かくして、アンジェリークはその年齢と同じように、現在は大学生活をおくっているのだが・・。
そこはそれ・・。もちろん彼女もただ学生をしているだけでなく、影となり日向となりルヴァの手伝いをしている。この町に住む、新たに出来た仲間との連絡もほぼ彼女が取っていると言っていい。

玄関で微笑んでいたルヴァが一瞬だけ眉を寄せる。
いつもあるはずの・・彼女の胸元のネックレスが・・・見あたらなかった。
「ごめんなさい!」
気が付いてアンジェリークが言葉を続けながら、ポケットから寸断された鎖を出した。
「今朝・・・・切れちゃったの。でもどうしても離しておくことなんて出来なくて・・。」
少し涙目になってうつむきながら話す彼女の頭にぽんと手を置いて・・。
「あ〜・・・寿命が来ていたのでしょうね〜・・きっと。でもちょうど良かったのかもしれませんね。」
「え?」
「ところで・・アンジェリーク・・。ペンダントヘッドはどうしたんですか〜?」
「あ・・あの・・」
そういって・・すっと左手だけをルヴァの目の前に差し出すと真っ赤になってうつむいてしまう。
「ふふ・・・良かったですよ。左手にしていてくれて・・。」
そっとその左手をとるとうつむいていた瞳が少しだけ上を向いた。
「お・・怒ってない?」
「どうしてですか〜?・・本当はね。今日こうしてもらうはずだったんですよ、先回りされてしまったのはちょっと吃驚しましたけどね。」
そう言うとそのまま隣にかけてあるアンジェリークのコートを手に取った。
「ルヴァ?」
「少しつき合ってくださいね・・アンジェリーク。」
そっと肩にコートを羽織らせて、今は言ってきたばかりの玄関を2人でくぐった。


少し歩いた先には、小さな公園がある。
何となく、飛空都市にあった公園に似たその公園。日曜日や大学の講義が早く終わった日などはよく2人でこの公園を散歩する。
夕方から少しだけ多くなった雪がまるで敷き詰めた絨毯のように、誰にも侵されていない白。
ゆっくりとその中を進んで・・・。
ふと思い立ったようにルヴァの足が止まった。
「メリークリスマス・・。アンジェリーク。」
そっとポケットから渡された箱を開ければ其処には・・・。
「・・ルヴァ・・」
今にも耐えきれなくなった滴が瞳から落ちそうになる。
指でそっとその滴をぬぐってそのまま、左手の薬指にその輝きをはめ込めば・・・・。
ねじれたリングの中央にぴったりと収まったダイアモンドがまばゆい輝きを放つ。
「・・・実は、聖地を降りるときにオリヴィエに頼んでいたのですよ〜・・。今日に間に合って良かった・・・。」
すっと細い身体を抱きしめて・・・小さく囁く・・・。
「愛してる・・・アンジェリーク・・・ずっと貴女のことだけを。」
「私も・・ずっとずっと・・・貴方のことを愛してる・・・。」

舞い落ちる雪が地面に落ちて・・。
まるであの日と同じように・・・・。

「踊って頂けますか?アンジェリーク・・あの夜と同じように・・・。」
「はい・・・。」


音のない公園に雪達が奏でる音楽が響く。
1つ2つ・・・。
くるくると続く2人の足跡がその新雪に軌跡を刻みつけていく・・・・。



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