時計の針がゆっくりと頂点を過ぎる・・。
灯りを消したこの部屋も窓からの雪灯りでほんのりと淡い色彩を放つ。
「・・・・ただいま・・。ロザリア。」
ベットに1人眠る彼女の髪にそっと触れて。
そのままふわりと肩に手を回した・・・・。

ゆっくり離れたその指先からこぼれる煌めき。
どんな物でだって・・・俺の気持ちは伝わらない。
あの時も今も、その気持ちに偽りは無いが、それでも、彼女の喜ぶ顔が見たかった。
どんなに気丈で、どんなに心の強い女性であっても・・。
今宵位は普通の女の子に戻ったっていいだろう?

「・・・・起きてるんだろ?」
ゆっくりといたずらが見つかった子どものように開かれる瞼。
現れたロイヤルブルーの瞳が嬉しそうに細くなる。
「気づいていたなんて、ずるいですわ、オスカー・・。」
「騙そうとした君が悪い。」
そっと身体を起こした彼女の手を取って・・・。
「あの日と同じ景色を、見に行こうか?」
「・・・・えぇ・・。喜んで。」

するりとベットから抜け出した彼女をそのまま抱きとめて・・。



†† HOLY NIGHT〜OSCAR&ROSALIA〜 ††

街の中心部から少し離れた小高い丘の上・・。
この地にやってきて私たち2人が住もうと決めたのは、街が一望出来るこの場所だった。
元々は、牧場だったらしく、それほどに豪華な邸でもなかったが、それで十分だったと思う。

「悪いな・・。ロザリア。」
出がけに、玄関先で振り返り、本当に申し訳なさそうにつぶやく彼。
「仕方ありませんわ。それに・・。今日だけが特別な日というわけでもないでしょう?貴方と2人でこうやって生きていく事が出来る・・。あの時から諦めていましたもの、わたくしにとっては毎日が特別な日なのだから・・。それよりもどうか気をつけて・・。」

さして広くもない邸でも、オスカーが出かけて1人になるとやっぱり何処かがらんとした印象になる。
普段なら、このまま大学へ向かうのだが、今は冬休み中。一緒に聖地を降りた彼女たちも、そしてこの地で出会った新しい仲間達も・・。今日はきっと忙しいだろう。
ちらほらと窓の外を雪が舞う。
聖地を降りて数ヶ月・・・。
この地の異変を食い止めたいと・・・。4人で話し合ってこの地にやってきた。
それぞれがそれぞれに的を得た職に就いたと、そう思う。
炎の守護聖だったオスカー・・。武力に優れた彼が選んだ職は・・・。
シークレット・ポリス・・・。通称SPと呼ばれる要人警護。
政府の中枢にいては、見える物も見えてこない・・。
だが・・。
どんな組織であれ政府であれ・・・頭がつぶれたらそれで終わり。
表向きどの政府にも所属しないという肩書きの彼は、この地の有りとあらゆる要人達を警護する事が出来る。
町中でしか分からない事情があるように・・。上層部でしか分からない情報もある。
まさにこの職は彼の天職と言っても過言ではないほどに・・・・。彼の仕事における信頼は厚い。

舞い散る雪を眺めながら・・ほぅと何度目かになる小さなため息が漏れる。
オスカーの事・・。
そう簡単に怪我をしたり、傷つく事はないだろう・・けど。
「今日は、官邸でのクリスマスパーティでしたわね・・。何も起こらなければいいけれど・・。」
そっと胸の前で手を組んで・・・。静かに瞳を伏せる・・。


夕闇があたりを包む。
少しずつ少しずつ・・小高いこの丘からは、街を染め上げる小さな輝きがあちらこちらにと浮かび上がる様が見える。
帰りが遅くなる事は分かっている。
官邸のパーティが終わるのは、予定では今夜の10時過ぎ・・・。
終わりました、さようなら・・。ではオスカーの仕事は勤まらないのだ。
慣れっこになっているこんな事実でもやっぱり少し寂しいと思う。
特に、今日は・・・・・・・。
部屋の片隅に飾られた小さな小さなクリスマスツリー。
2人で近くの山に入って捜したもみの木と、2人で作った飾りと2人で選んだネオンと・・・・。
『俺の全てをかけて・・・・。』
あの日、そう言って誓った言葉通りに・・。
彼は何時だってどんな時だってわたくしを守ってくれる。
全身全霊でわたくしを愛してくれる・・・。
ツリーの横に立てかけられた剣をそっと抱きしめて・・・。
わたくしは・・・・貴方に何か返してあげられてのかしら?
貴方が思う気持ちと同じに・・・わたくしも貴方を愛していると・・・伝わっているのかしら?
抱きしめたままの冷たい剣が答えるように暖かくなった気がする・・。
窓の外は漆黒の闇へ。
あの日見た、飛空都市の景色のように夕方から少し多くなった雪が街を白く浄化していく・・・。



日付が変わったばかりの街は、まだ昨日の余韻を残すかのように・・
見下ろす街並みは色とりどりの電飾が瞬く。
「・・・やっぱり、綺麗ですわ・・・。」
あの日と同じ白に浄化され行く街並みは・・。あの時と同じ、・・否。それ以上に美しく・・・。
ネオンの煌めきを受けて輝く胸元の十字にそっとオスカーが口づける。
「あの時も、今も・・・変わらずに俺は、ロザリア。君を守ってみせる。そして愛し続ける。俺の全てをかけて・・。」
「わたくしも・・何時だって同じ気持ちで思っておりました。この世界を、そして貴方の事を守ってみせると・・。」
そっと手を伸ばしてその頬に触れて、同じようにゆっくりとロザリアの唇がオスカーの頬を掠める。
「わたくし・・・貴方の事を愛していますわ・・・。何時だって、誰よりも・・・。」
「知ってるさ・・そんな事。あの日からずっと・・。」
ちゃんと伝わっていた。わたくしの思い・・・・。
「どんな物だって俺の気持ちを伝える事は出来ないが・・・。」
そっとクロスを指にとって・・。
「今の気持ちをクロスに乗せて・・。君だけに・・愛を・・・。」
クロスに触れた唇がそのまま、ロザリアの唇を掠める・・・・。

いつであろうと・・・今日がクリスマスで無かろうと・・・・。
この日々に特別ではない日など1日も無いのだから・・・・・。



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