〜甘いわな〜


いつもと変わらぬ穏やかな風の流れる聖地の午後。さやさやと庭園をそよぐ風に腰まで届く長く蒼い髪が遊ぶ。その様子に気が付かないかのように少し遠くを見つめるブルーアイ。穏やかな午後の庭園に似合わぬ憂い顔を認めたアイスブルーの瞳がゆっくりと近づく。
「ロザリア。」
つっと顎に手をかけて視線を上向かせると、そこに現れるのは驚きと恥じらい。
「オ、オスカー!・・いつからいらっしゃったの?」
少し、自己嫌悪に陥りそうな瞳を押しとどめるように、すっとアイスブルーの視線を合わせて答える。
「今、着いた所だが・・・。こんなにいい男が目前に立っても気が着かないとは、何に気を取られていたのか、気になる所だがな・・。」
ちょっとだけ目を細めて、作る笑い顔にからかわれたと悟ると、すぐにいつもの優雅な微笑みで答える。
「何でもありませんのよ。ここ最近宇宙も安定していて、今日も聖地は穏やかで・・。少しだけ思い出していたんですの・・。女王候補として飛空都市に行った日から今日までのことを・・。それだけ、それだけですわ。」
そういうと、すっとベンチから立ち上がり目の前の恋人に腕を伸ばす。
「そうか。なら・・とっておきの場所に行こうか?」
伸ばされた腕をゆっくり取ると、自分が乗ってきた愛馬へと彼女を乗せ、ゆっくりと庭園を抜けていった。


「・・オスカー、ここは・・。」
驚く彼女に構わず先を急ぐ恋人に、普段では余り見せることのない動揺を隠さ無いままの声がかかる。
「気になっているんだろう?陛下のことが・・・、それぐらい解らない俺じゃないぜ。それに、そういう所も俺の好きな君の魅力なんだが・・・違ったか?」
心の奥まで突き刺すようなアイスブルーの瞳。どんなに隠してもすぐに解ってしまう・・。
「オスカー・・。ありがとう」
そういうと、遅れた歩調を取り戻すように前を歩く恋人の隣を歩く。
コンコン・・・・
「おかしいわ・・。」
いつもならノックの後にすぐに届く、明るい声が聞こえない。
「帰った・・という訳ではないんだな?」
補佐官として優秀な彼女に確認するまでも無いことだが一応言ってみる。そういった感じで声が届く。
「ええ。今日は土の曜日ですけど、朝から一緒に執務の相談をしていましたの。お昼をとって、私はすぐに庭園へ行ったし、陛下は、もう少し調べたいことがあるからとおっしゃっておられたから・・。あれからそんなに時間は経っていないはずだし・・。」
困惑した表情で扉に手をかければ、何の抵抗もなくドアが開く。
「陛下?」
鍵のかかっていない扉を不審に思いながらも、中に居るであろう人物へ声をかける。
「・・・どういう事だ?」
部屋の中は無人。執務に使っている机のちょうど後ろにある窓は全開になって、そこから舞い落ちたであろう花びらで机の上は薄いピンク色に染まっている。
「窓・・」
「閉まっていたのか?」
「えぇ、・・・確かにここを出ていくときは閉まっていた居ましたわ・・。まさか・・。」
見開かれた瞳には僅かな恐怖と、そして後悔。今すぐにでも飛び出して、近くの衛兵を呼び出そうとする恋人を目の前に、軍人である彼は咄嗟に状況判断をする・・。そして
「落ち着け、ロザリア・・。」
「でも、でも・・陛下は・・。」
「落ち着いてよく周りを見るんだ・・。陛下に何かあったとしてだ、それにしては整然としすぎていないか?・・例え陛下1人の時に何者かが侵入したとしても、陛下だってそれなりに抵抗するはずだ。だが机の上の書類、カップ全て綺麗に並んでいる。この状況はどう考えても陛下が自分の意志で席を立たれたとしか考えられないだろう?」
はっとして上を見上げれば、瞳と同じく冷静な恋人・・。
「そう、ですわね・・・。ごめんなさいオスカー。取り乱してしまって・・。」
落ち着いて周囲を見渡せば、窓が開いている所以外自分が部屋を出て行ったときと変わったところは無いように見える。
「ルヴァの所・・・ってのはあり得ないよな・・。」
「えぇ。ルヴァは今、惑星の視察に出ているはず、戻ってくるのは明日になると報告を受けていますわ・・。だから、・・。」
だから、土の曜日とはいえ、今日オスカーの所に行くのを一瞬ためらったのも事実。そしてそれに気が付いた女王アンジェリークに言われた一言。
『言ったでしょう?ロザリア・・・。私に気を遣うのはやめてって・・それにあの時ロザリアは言ったでしょ?変な気を遣うなんて事はしないから安心して頂戴。って』
そういった彼女の顔は確かに笑っていた。それも・・・かなりいたずらっぽく・・・。
「何か、心当たりでもあるのか?」
・・やっぱり、この人の瞳はわたくしの心の奥まで見通してしまう・・
「えぇ。心あたりって程ではないんだけど・・・。」
そういって視線を落とす彼女をそのままに、オスカーは女王が普段使っている机までやってくる。そして・・・一瞬だけ目を見開くがそのままゆっくりと優しい微笑みを宿す。
・・・なるほど、陛下も全てお見通しか・・ロザリアより陛下の方が一枚上手という所か。いや・・・こんなこと考えるのはあいつか。・・ルヴァ・・やってくれたな・・
ふっと笑う声に不思議そうに視線をあげると、少し困ったような喜んでいるような横顔が見える。
「オスカー?」
「何でもないさ・・。それより、陛下のことは心配いらないそうだ。」
そういってゆっくりと手に持ったカードを軽く上げると、中身を見せないように懐にしまう。
「陛下からの伝言だ。庭園のカフェで新作の試食会を極秘で行うらしい。一足先に味わってくるから後でゆっくり来るといい・・そうだ。」
「え・・。そうだったんですの。もう陛下には困りますわ。それならそうと先に言ってくださればよかったのに・・。」
心配していた瞳から一転、呆れの色を滲ませたブルーアイを見つめながら、すっと手を差しのばす。
「では、お供させていただきます。姫君・・。」
ゆっくりと優雅に微笑む最愛の恋人の差し出した手をとって、静かに扉を抜けて庭園と戻る。
・・今日の所は、黙って乗せられておくか。愁いに満ちた横顔も嫌いじゃないが・・やっぱり彼女には優雅な微笑みが似合うからな・・・


オスカーへ
多分、このカードを見つけるのは貴方よね?オスカー
せっかくの土の曜日なのに、ロザリアったら私の事、気にしていると思うの。
そしてオスカーもそんなロザリアの様子に気が付かないはずないだろうから・・。
でも!せっかくの貴重な休みの日なんだからたまには、ゆっくりして欲しい・・。
それでこんな事思いついたんだけど。
庭園のカフェに予約入れておいたわ。
2人だけ特別メニューを頼んであるの。
たまには2人でゆっくりお茶って言うのもいいものよ。
私のことは貴方なら上手く言ってくれるわよね?オスカー
じゃあ、ロザリアの事・・頼んだわ。



  



   
「ねぇ、ルヴァ様。上手く言ったと思いますか?」
先ほどから、モニターの前で落ちつきなく視線を手を動かす様子に少し笑いながら
「大丈夫ですよ〜。あの2人ならね。それに言った所であの2人は聞かないでしょう?これぐらいした方が素直になるでしょうねきっと・・。それより陛下・・。私が視察に行く前に渡した書類、ちゃんと読んでくれたんでしょうか〜?」
「・・・あ!ご・・ごめんなさい、ルヴァ様。すっかり忘れてて・・。そうでした。私、どうしても聞いておかないといけないことがあったのに・・。」
そういって、宮殿の通信室のモニターの前で書類を出す女王。
視察先の惑星からその様子を見つめながら、ゆっくりと細められる深いグリーンの瞳。
・・・この間、ロザリアにはしっかりやられてしまいましたからね〜。これくらいやっても、まぁお互い様でしょう。・・ただ、オスカーにはばれましたね・・さて、帰ってからどうしましょうか・・・。



 


712キリ番の紅玉猫様からのリクエスト『ルヴァリモに振り回されるオスロザ』
もしくは『オスロザに振り回されるルヴァリモ』だったんですが・・・
・・・振り回されてるんでしょうか?これは・・(汗)
私の思う、オスカー様とロザリアのスタイル、というか考え方って
やっぱり、一番はアンジェリーク=陛下のことだと思うので、
それをちょっと逆手にとってルヴァ様に甘い罠を張っていただいたのですが・・
ちなみに、一応最後のせりふはIntermission1から来ている・・ということで(爆)
つたない作品ですが・・紅玉猫様へ愛を込めて(使い方間違ってる?)捧げます!




【月読紫苑様TOPへ】