1.出会い

Luva


初めて二人の女王候補が姿を表した時、私を含め、守護聖たちはみな当惑を隠し切れなかった。
ロザリア・デ・カタルヘナ―――彼女は確かに分かる。名門出身の彼女は天性の美貌の上に実に押し出しがよく、きらびやかな聖殿で居並ぶ守護聖を前にしてもいささかも怯むところがなかった。堂々とした立ち居振舞いは、年若くして、既に女王然とした風格すら漂わせていた。
それに対して、もう一人の女王候補―――アンジェリークは、あまりにも平凡に見えた。 セミロングの金髪に赤いリボン。主星の女学院の制服を着た彼女は、顔立ちは美貌と言うよりは可愛らしいという言葉が似合いで、要するにかなり子供っぽく見えた。
彼女は明らかにこの場の雰囲気に気おされているようで、真っ赤な顔で「あっあの・・・。アンジェリークですっ!どもっ、よっ、よろしくお願いします!」と、どもりながらぺこりと最敬礼した時には、列の中からゼフェルあたりの「クッ」という笑いをかみころす声が聞こえた。

「あいつダイジョブなのかよー。ひざガクガク震えてたぜー。」
「ゼフェル。よさないかそんな言い方・・・。」
「でも、確かにあんまり女王様って感じじゃなかったよね、あの子・・・。」
年若い守護聖たちはいささか無遠慮な物言いで口々に今見た女王候補たちの感想を述べ立てる。たしなめようかと思ったが、その前にジュリアスが 「仮にも陛下がお選びになった女王候補だぞ、不謹慎な言葉は慎むが良い」と、叱り飛ばしていた。
ジュリアスも心なしかこの状況に苛立っているように見える。
オスカーは「あっちの青い服の方はともかく、赤い方はちょっとばかり射程距離外だな・・・」なんてつぶやいている。私に言わせればこちらのほうがよほど不謹慎というものだ。
「ねえ、ルヴァ。あんたはどう思う〜?」隣にいたオリヴィエが私をひじでつついた。
「あー。どうといいましてもね。まだ試験は始まってもいないわけですからね」
「またこのポーカーフェイスが!」オリヴィエがまた思い切りひじで私をどやした。
いや、別にそんなつもりで言ったわけではないのだが・・・。
「正直言いまして、私もどうかと言う気がします」
リュミエールまでが美しい眉をひそめてそんなことを口にした。「私にはむしろなんだか・・・痛々しい気がして・・・。」
どうやらリュミエールは、あのいかにも子供子供した少女が、これからの試験に耐えていけるのかを心配しているらしい。
守護聖たちの喧騒などどこ吹く風で、クラヴィスがすっと出て行きかけた。先ほどから彼だけは何も意見らしきものを口にしていない。私は思わずクラヴィスの背後から声をかけた。
「クラヴィス。あなたはどう思いますかー?」
長身のクラヴィスは緩慢な動作で私のほうに振り返り、少し皮肉っぽい笑みを浮かべた。
「お前達には見えないか・・・?」
不思議な問いだ。だがクラヴィスは首をかしげる私の答えなど待ってはいなかった。
「あの娘、羽を持っている・・・」問いよりも不思議な答えを自分で発して、クラヴィスは出て行った。

かくして穏やかな聖地で女王試験が始った。

そしてこの時、私はといえば、この女王試験がこの後さまざまな騒動を巻き起こし、ひいては私の人生そのものを大きく変えることになるだろうなどということは、考えても見なかったのである。

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