1.プロローグ Angelique あの悪夢のような砂の星から戻ってきてほどなく、私とルヴァは結婚した。 私の気が変わることを恐れてか、ルヴァはかつてない強引さと手際のよさですべての手配りを進め、私はあの人に主導権を握られることにささやかな満足を感じながら、ルヴァの手にすべてを委ね、そしてあの人の妻になったのだ。 早いもので、それからもう1年の月日が経とうとしている・・・・・・・。 始めは正直言ってうまくやっていけるか不安もあったけど、そんな不安はあっという間に吹っ飛んでしまった。ルヴァは結婚しても少しも変わらなかったし、むしろ前以上に私のことを大事にしてくれてるのが私にもわかった。結婚して、私たちはお互いにちょっぴり遠慮なくものが言えるようになって、その分お互いにちょっぴり優しくなれた気がする。 ルヴァのこと手が届かないくらい大人だとか、ルヴァが考えていることが分からないとか、悩んだこともあったけど、悩んだ私がバカだった。だってルヴァは聞けば何でも教えてくれるし、頭がいい割りには考え方はシンプルだから、要するにそんなに分かりにくい人じゃなかったのだ。 ルヴァは少しずつ、私の前でいろんな自分を見せてくれるようになってきた。時にはわがままだったり、けっこう甘えん坊だったり、意外と強気だったり、妙ちきりんなこだわりがあったり、そんなルヴァの新しい面を発見するたびに、ルヴァは私にとってどんどん身近な人になり、そして私はますますルヴァのことが好きになっていった。 仕事の上でも私たち二人は上手にバランスが取れるようになってきた。 例えば守護聖全員に連絡があるとき、私は何となくあの人を後回しにしてしまう。いいかげん時間が押し迫ったところで地の守護聖の執務室に駆け込むと、ルヴァは瞬時に私の状況を察してくれる。もっとも私もルヴァの前ではパニックに陥っている自分を隠そうとなんてしない。 ルヴァは「書類はこれですかー?」と、受け取ると、超高速で目を通す。不思議なことに彼にはこれであらかた理解できてしまうらしい。すぐに私に振り返るとにっこり笑って 「分かりました。返事はすぐに作ってお部屋に届けますから・・・。」と、そう言うのだ。 「説明しなくて大丈夫ですか?」と聞くと 「大丈夫ですよ。分からなければ後で聞きに行きますから・・・ほら、まだ仕事があるんでしょう?」そう言って私の肩を抱いてドアまで送ってくれる。 「はい。じゃあ、私、行きますね。よろしくお願いします。」 「分かりました。・・・愛してますよ。アンジェリーク。」 最後の肩を抱いたままの「愛してます」は、ちょっと公私混同だったけど、いつも最後のこのひと言は、張り詰めた私を充分和ませてくれた。 最後に渡したはずの彼への依頼の返事は、いつも一番速く私の執務室に届けられた。 みんな気が付いていないみたいで、ルヴァのことを「トロい」とか「鈍くさい」というけれども、実はルヴァは非常〜に仕事が速かった。あの人の集中力はある意味神がかっていた。しかも大体の場合、ルヴァはレポートだけじゃなくて、その件に関して私が必要としそうな資料まで集めて写しを付けてくれるのである。 ルヴァはとっても優しかった。ほんとにほんとに、あきれるくらい優しかった。 のろけるわけじゃないけど、ルヴァは本当に最高! だって世界中探したって、こんなに優しくて頼りがいがあって、かっこよくて、ハンサムで、穏やかで、頭が良くて、私のこと大事にしてくれるひと、他にはぜ〜ったい、いないもの! とにかく私は幸せだった、そうして、きっとこんな日々がエンドレスで続くのだろうとバカみたいに信じていた。 そう・・・ルヴァの元に、あの、1枚の招待状が届くまでは・・・・・・。 |