29.結ばれた、心

Zephel


移動迷宮の起動点を止めた後、俺たちは一旦、地図を見ながら入り口へ戻ることにした。
ひとまず装備を確認して、ルヴァとアンジェを探しに行かねばならない。

行きと道順が変わっていたので、帰りは多少手間取った。
ルヴァのノートを片手にエドワードが道を探し、しばらく歩き回ったあげく、俺達は途中で待たせてあったユーイーを拾って、時間をかけて何とか入り口付近まで戻ってきた。

最初に気がついたのはユーイーだった。
「ゼフェル・・・・あれ・・・・!」
俺達は一様に愕然とした。
鉄の扉の前で・・・・・アンジェが倒れていたのだ。

「アンジェリーク!」
俺は慌ててアンジェに駆け寄った。ぐったりした体を力任せに揺さぶるとアンジェはぽっかりと目を開けた。
「ルヴァっ!」
アンジェはがばっと立ち上がったかと思うと、すぐによろけて倒れた。
「アンジェ!」
支えようとする俺の手を振り切って、アンジェは石壁を伝って遮二無二起き上がった。俺達のことはまるで目に入ってないみたいだった。アンジェは泳ぐような手つきで鉄の扉に向かうと、扉を開けようとした。
2、3度ノブを回したが、扉は開かない、鍵がかかっているらしい。
アンジェリークが顔をあげた。

――オレンジ色の光が走った。

強烈な光に俺たちは一瞬目を背けた。
だけど、俺は視界の隅に確かに見た。アンジェの背中に一瞬真っ白な羽が広がるのを。
目を開けたときには、アンジェの羽根は消え、鉄の扉はロウのように溶け落ちていた。
アンジェはもう立っていられずに、へたばったまま、ほとんど這うようにして室内に入っていった。
俺たちも慌ててアンジェの後に続いた。

室内にもルヴァの姿はない。
アンジェはまっしぐらに部屋の中央に向かった。 部屋の中央には四角いどっしりとした石板が埋め込まれていた。
アンジェはそれを見ると、素手で石板を叩いて血を吐くような声で叫んだ。
「ルヴァ!ルヴァ!・・ルヴァ・・・・!!」
「バカっ、何してんだよ!」
俺は慌ててアンジェの両手を掴んだ。華奢なこぶしには血が滲んでいた。
「離してっ!この下にいるのっ!」アンジェリークは身悶えるとぼろぼろ涙をこぼして泣き出した。
「ヘイロンと一緒にわざと落ちたの!!あの男、ルヴァを殺そうとしてた!止めなきゃ・・・・ルヴァが殺される!」
泣きながらそれだけ言うと、アンジェは再び石の板の上に覆い被さった。

俺はアンジェが命がけみたいな勢いでサクリアを搾り出そうとしているのを見て、まじで止めないとやばいと咄嗟に思った。アンジェは見るからに限界だった。とにかくアンジェを守らないと―――俺には分かった、ルヴァが、あいつがもしここにいたら、何を置いてもそうするはずだ。
「止めろバカ!」
俺は石板に覆い被さるようにして、サクリアを出そうとしているアンジェを、引きずるようにして床から引き剥がした。
アンジェはどこにまだそんな力が残っていたのか、俺の手を逃れようとして狂ったように滅茶苦茶に暴れた。
「離して!すぐに行かなきゃダメなの!・・・・ルヴァが・・・・・ルヴァが死んじゃう!」
俺はコーフンしきっているアンジェの両肩をつかむと、息を止めてアンジェの頬をぶったたいた。
びっくりしたように、アンジェの動きが一瞬、止まる。
(ごめん!アンジェ!)俺は心ん中で呟いた。だけど・・・だけどこれは、ここにいないルヴァの代わりなんだ。
「バカヤロー!おめー、ルヴァを殺して―のか?」
このひと言にアンジェの抵抗が弱まった。
「下にヤツもいるんだろう?拳銃を持ってるんだろう?闇雲に突っ込んだって、助けられっかよ!却って危険だろーが?」
「助ける・・・・絶対助けるわ・・・・・。」アンジェが泣きながら首を振った。
見てるこっちが切なくなるくらい必死なツラだった。
「だからっ、おめ―はまたサクリアで何とかしようとしてるんだろうけど、そのためにおめ―がどーにかなっちまったらイミねーだろ?」

俺は祈るような気持ちで言った。
「俺を信じろよ・・・・・・俺に任せてくれ」
アンジェがまた泣きそうなツラで俺を見た。
「時間くれ・・・・・30分だ。」
俺はアンジェを落ち着かせるように、アンジェに向かって無理やり笑ってみせた。
「心配すんな。あいつがどんくせーくせにしぶといの、知ってんだろ?あいつがそんなカンタンにくたばるかよ。」


そうしておいて俺は、エドワードとユーイーを振り返ると言った。とにかく時間が無い。
「手伝ってくれ、電球を集めるんだ、ありったけ。10分以内だ。」


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