36.エピローグ

Luva


一ヶ月がたち、アンジェのおなかもそろそろ微かなふくらみが目立つようになり始めたある日、私は再び陛下から「至急」の呼び出しを受けた。


「実はこんなものが回りまわって手元にきたのよ。あなたの意見を聞きたいと思って。」
陛下が私に渡してよこした書類を見て、私は一気に青ざめた。
「へ、陛下・・・これにはその・・・・。」
それは何と、例の遺跡発掘のスポンサー探しのために私が書いた企画書だった。
「なかなか面白い企画だと思って、スポンサーになろうかと思うんだけど、どうかしら?」
「えっ?」
「実はウォン社長にも相談してみたんだけど彼もけっこう乗り気で 『こりゃええですわ。おもろい企画ですわ。そやけど、ケタがひとつ足りない気ィしますなぁ。ここに、こうひとつマル足して、それで女王さんのとこと、うちんとこと共同出資みたいな形でどないです?』と、まあそう言うのよ。」
陛下は見事な辺境弁でウォン財閥の若社長の口調を真似て見せた。
「はあ・・・・。」
「宇宙全体の貴重な財産をへんなブローカーの手に渡すわけには行かないし・・・・・。」
「はあ・・・・。」
「もしかしたら、この企画書を書いた人も最初っからその魂胆で、わざと聖地が乗り出さざるを得ないような書き方をしたのかもねぇ。」
「いや、そんなめっそうもない!・・・・ あ・・・・いえ・・・・。」
陛下は私の動揺っぷりを無視して厳然と告げた。
「・・・と、いうわけで受けることにしました。聖地側の担当者はあなたです。依存はありませんね、ルヴァ?」
「はっ・・・・はい。」
「じゃあ、責任者はあなたで他のメンバーの人選はあなたが適当に決めて提案して頂戴。アンジェもアドバイザーとして入ってもらうといいわ。この企画を社会貢献と聖地のPRにどう活用するか、採算性の見通しをどうみるか、大筋の計画書を次の月の曜日までに提出すること、いいわね。」
「はい。」
「火の曜日に企画者のフレイクス夫妻がいらっしゃいます。そこで、ウォン社長も含めて顔合わせしますから。・・・・それと・・・・ 企画書のコピーは、いらないわね?どうせ頭にはいってるんでしょ?」
陛下はこちらを向いてウインクして見せた。 やっぱりバレバレだったらしい。私は赤面した。

「あっ・・・・あの・・・・陛下、有難うございます。」
私は本当に陛下に感謝していた。忙しい仕事の合間にこの人はこんなに細かいところまで目を配っていてくれたのだ。聖地の管理下に入れば貴重な遺物が散逸する心配もなくなるはずだった。
「何がよ。」
今度は陛下が赤面する番だった。これで意外と根は素直な人なのだ。
「用事は以上よ。アンジェがいなくてただでさえ忙しいんだから、さっさと退出して頂戴。」
陛下はちょっぴり頬を染めたまま、口調だけは素っ気無く言った。
私はもう一度陛下に深々と頭を下げて、謁見の間を退出した。


聖殿を後にすると真っ青な空が広がっていた。
火曜日にはエドワードが聖地にやってくる。 私は何だか自分でもまた、新しい研究をやってみたい気がし始めていた。
アンジェはどう思うだろう・・・。
また拍手で賛成してくれるだろうか?
・・・彼女はきっと、そうだろう。
もっとも当分はひとりでの出張はお許しが出ないだろうけれども・・・。

=完=

back

創作TOP