64.聖地
Yuli
結局、お父さんの計算した通りだった。
戦艦の焼け残った残骸から、お父さんと母さんは救出された。
二次爆発の危険のある船内に飛び込んでいって両親を助けてくれたのは、背の高い颯爽とした赤毛の将軍と、片手に剣を握った黒い長い髪のきれいな女の人だった。
燃料切れで動けなくなっていた僕の船も、この二人に助けられた。
ドックの中に僕を迎えにきてくれた将軍は、いきなり僕の髪をくしゃっと撫でると
「坊主、ルヴァもアンジェも無事だ。安心するんだな。」
そう言って、にやっと笑った。
きれいな女の人は、僕を見ると一瞬びっくりしたような顔をして、その後にこっと笑うと 「・・・・お父さんにそっくりね・・・」 優しい笑顔でそう言った。
僕達は聖地というところに連れて行かれて、お父さんと母さんは二人ともそこの病院に入院した。
お父さんはほとんど死ぬ直前みたいな大怪我をしていた。
全身を数十箇所骨折していて、脊髄が折れて神経に刺さったところは何時間もかかる手術をした。女王様が、力を使って助けてくれたのだと、後でおじいちゃんが僕に説明してくれた。
母さんはとても衰弱していたけれど、あの爆発の中で奇跡的にもほとんど無傷だった。
母さんは発見された時お父さんにぴったりと抱きかかえられていた。
爆風の中でもお父さんは母さんを抱いた手を離さなかった。お父さんは自分の体の中に母さんを包むように抱え込んでいて、それで母さんは傷一つ負わずにすんだのだそうだ。
病院で何人もの心配気な顔に取り囲まれていると、突然腰の曲がった白髪のおじいさんが飛び込んできた。
おじいさんは僕を見かけると、 「坊ちゃま・・・」と、僕をそう呼ぶなり、駆け寄ってきて膝をついて、痛いくらい僕のことを抱きしめた。おじいさんはそのまま顔をくちゃくちゃにして泣き出してしまった。
おじいさんは僕を大きなお屋敷に連れて帰ると、「お父様もお母様もすぐにお戻りになりますからね。」と、僕を慰めて、まるで王子様でも扱うみたいにあれこれと僕の世話を焼いてくれた。
びっくりしたことに、このおじいさんが作ってくれた卵焼きは、母さんのとそっくり同じ味だった。
僕はおじいさんに連れられて毎日病院に行った。
母さんは翌日には目を覚まし、二週間後には退院した。
赤い目をした若い男の人が、お父さんの様子を心配して何度も病室をのぞきに来た。
その人は、僕と目が会うと、ちょっと照れたように笑って言った。
「おい。心配することねーからな。あいつ頭かてーからさ、すぐ治るさ。・・・心配すんな!」
そして、病室に入りかけてまた戻ってくるとこう言った。
「おい。おめー。なんか困ったら、すぐオレに言えよな。いいな。」
僕は、お父さんの病室に入ることを許されていなかった。
母さんは自分は退院してからずっとお父さんの病室でつきっきりで看病しているくせに、僕には病室に入ったらダメだと言うんだ・・・。
母さんが退院してすぐに、僕は母さんに言ったんだ。
「ねぇ・・・お父さんのお見舞い行ってもいい?」
僕の問いかけに母さんはびっくりするくらいつっけんどんに答えた。
「誰?それ?」
「えっ?病院にいる人・・・・あの人、僕のお父さんだよね?」
「違うわ。」
「えっ・・・でも、だって・・・」
「ごめんね、ぬか喜びさせて。でもあの人は違うの。」
うつむいてしまった僕を抱きしめると母さんは言った。
「ユーリにはお母さんがいるじゃない。それじゃ、ダメ?」
僕は何だかもう泣きたい気持ちになった。
ダメじゃないんだけど・・・そうじゃないけど・・・。
だけど、僕は・・・・・
知ってるだ、僕は。
絶対に僕のおとうさんだもの。
どうして母さんが嘘をつくのか、僕には分からない。
やっぱり、どうしてもお父さんに会いたい。
どっちか片方なんていやだ。
僕は、よその子達と同じに、お父さんと母さん、ふたりともそばにいてほしいのに・・・。
どうしてそれがダメだっていうんだろう・・・・?
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