この拙き物語を、蒼い月の君に捧げます・・・・・ Blue
Angel Vol.3 翌日、俺はさっそく出仕した。 傷なんか仕事しながら治せばいい。休む理由などどこにもない。
謁見式の場に姿を現した俺を見て、同僚達は一様に驚いたような顔をした。 「おめー、まじで化けもんかよ?」 「本当に大丈夫なんですかー?」
「無理はせぬ方が良いぞ」 心配する声、呆れた声、それぞれだったが、陛下が治療のために二度にわたって俺を訪ねたことは誰も(アンジェすら)知らないようだった。
謁見式に姿を表した陛下は、俺を見て少し眉をひそめて見せたが 「大丈夫なの?」と、ひと言聞いただけだった。 何事も無く謁見式は終わった。
何事も無かったのが、俺には妙に不満だった。 ロザリアは何もなかったように完璧に女王陛下の表情を崩さなかった。
昨日のことはおくびにも出さない。病室で貧血を起こしたのがまるで嘘のようだった。
夕べの怒って俺を睨みつけたロザリアの目が、頭の中でちらちらした。
「すまん。忘れ物をした。先に戻ってくれ。」 俺は並んで退出したルヴァにそう声をかけると、今きた謁見の間への道を走り出した。
俺は、すぐに向こうから走ってくるアンジェに鉢合わせした。 「あー、ちょうど良かった。今、呼びに伺うところだったんです。」全速力で走ってきたらしく、アンジェは息を切らしていた。
「どうした?」 「陛下がオスカー様をお呼びするようにって・・・・言い忘れたことがあるからとおっしゃって。」
「どういうつもり?」 一礼した俺をいきなり正面から見据えると、前置きもなしに陛下は言った。 「大丈夫なのか?」 俺は答えずに聞き返した。
「何が?」 「無理するな。」 「別に、あなたに心配してもらう必要はないわ。 」 「倒れたくせに。」 「足をすべらせただけだって言ったでしょう?」
蒼い瞳は相変わらず小揺るぎもせずに俺を見つめている。
なぜ戦うんだ?なぜ戦わなきゃならないんだ?どうして戦うのが彼女でなければいけないんだ? ・・・・それが俺には我慢ならない。
「そうやって、具合が悪くても、つらいことがあっても、全部自分で抱え込んで解決しようとするのか?できるのか?君は本当にそんなに強い人間だったのか?」
「自分が誰に何を言ってるのか分って言ってるの?」 「分ってる。今までにないくらい正直にものを言ってるつもりだ。」 「これ以上暴言を吐くと人を呼ぶわよ。」
「呼べばいいだろう?」
ロザリアは大きく息をつくと、視線を逸らしてゆっくりと言った。 「あきれた・・・・・。」 「君を・・・守りたい。」
「・・・当然でしょう?・・・それがあなたがたの務めではなくて?」 「女王陛下じゃない。ロザリア・・・君を守りたい。」 「・・・・随分、見くびられたものね。」 パチリ、と音を立てて白い扇を閉じたかと思うと、再びロザリアは燃えるような瞳で俺をひた、と見返した。 「あなたが守護聖としての勤めを果たしている以上、多少の不謹慎には目をつぶります。だけど・・・そんな戯言をわたくしの前に持ち込むことだけは、わたくしは決して許しません。」
何でこうなるんだろう。俺たちはまたしてもにらみ合っていた。
「・・・分かった。」俺はうなずいた。 「別に認めてもらう必要は無い。俺は君を守る。それだけだ。」
捨て台詞を残すと、俺は謁見の間を飛び出した。頭に血が上って、陛下の方の用件を聞き忘れた気がする。 まったく、我ながらやってることがメチャクチャだった。
だけど、間違っていないという直感があった。 彼女を宇宙のための人身御供なんかにはさせない。断じて犠牲にさせない。彼女だけに重荷を背負わせて良いわけが無い。 そのために、守護聖が・・・俺がいる。
俺は謁見の間を飛び出すと真っ先にアンジェリークを捕まえた。 「ちょっと来てくれ。」 「どっ・・・どうしたんですか?」
「打合せをしよう。向こう2-3ヶ月の予定を決める。仕事だ・・・仕事!」 「だって、来月まで休めって陛下は・・・・・」 「陛下には今話した・・・・行くぞ。」 「あっ・・・は、はい。」
俺はびっしりと、自分のスケジュールを埋めた。 あの意地っ張りが自分で休まないなら、意地でも楽にさせてやる。 一息つかせてやる。
嫌だと泣き喚いても・・・・・俺が守ってやる。 守ってみせるから・・・・。
・・・・ロザリア。
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