<分かってくれないアナタ1>
「どうしよう・・・・・」 現在7月12日の午前4時15分。 私は部屋のティーテーブルに頬杖をついたまま、何度も同じため息を繰り返していた。
こんな時間に起きているのは、別に早起きしすぎちゃったわけじゃなくて・・・つまりは夕べ、眠れなかったのだ。 あの方にお誕生日のプレゼントを渡す・・・・そのことを考えるだけで、胸がドキドキして膝がガクガクして頭がクラクラして・・・・・とにかく寝てなんかいられなくって・・・・・・。
「はぁああ・・・・どうすりゃいいのよ〜・・・・・」 目の前のきちんとラッピングされたグリーンの包みを見返して、私は再びため息をついた。
別に悩むことなんか何もない。「お誕生日おめでとうございます!」―――そう言って普通に渡せば済むことなのに・・・・。 ・・・・ただ、それだけのはずなのに・・・・・。
それが出来ないのには理由があった・・・。 向かい合っただけで呼吸が速くなって、顔が真っ赤になって、目に涙がにじんで、声がかすれて、指先が震えて、ロクに話もできなくなってしまう・・・・プレゼントどころか、実は私、ルヴァ様とまともに会話できたことすらなかった。
(どうしてこんなに好きになっちゃったんだろう・・・・。) 多分出会いが悪かったんだと思う。
初めて執務室を訪ねたとき、ルヴァ様は読書中だった。 何度ドアをノックしても一向に返事がなくて、あきらめて帰ろうとしたちょうどその時、たまたまゼフェル様が通りかかってこう言ったのだ。
「・・・開けてみろよ」 「え?」 「ルヴァならいるぜ。おーかた読書にボットーして気がつかねーんだろ。・・・ったく、ボケたやつだぜ・・・・」
「・・・・・・・・・」 言い捨てるとゼフェル様はさっさと歩み去ってしまった。 私はしばらくためらった挙句、思い切ってドアノブを回し、重厚な扉を押し開けた・・・。
ドアの向こうに・・・確かにルヴァ様は、いた。 「・・・・あの・・・・・」 ためらいがちにかけた声に、返事はなかった。
私ももうそれ以上、・・・・声なんかかけられなかった。 ルヴァ様は夢見るような表情で、それこそ夢中になって本を読んでいらした。
深いブルーグレーの瞳が抑えきれない興奮に輝いている。頬を僅かに紅潮させて熱心に本に見入っているその表情は、まるで少年のようにひたむきで、純粋で・・・・・。私は声を出すことも忘れて立ち尽くしてしまった。
ときめきが・・・見ているこっちまで伝染してきそうな・・・そんな表情だった・・・・。 結局その日は私、ルヴァ様に声をかけることができなかった。
魔法にかかったようにずっと立ち尽くしたまま、ルヴァ様がため息をつくのと同じペースでため息をついて・・・・・ルヴァ様が微笑むたびに自分まで何だか嬉しくなって微笑んで・・・・・。
ルヴァ様の読書が終わるのを待つうちに、いつしか日が暮れてきてしまった。 私は残り惜しい気持ちで、そっとルヴァ様にお辞儀をすると、執務室を後にした・・・・・・。
その晩は、私は眠れなかった・・・。 翌週、育成のお願いに行ったときは、タイミングが良かったのかルヴァ様はすぐに気が付いてくださった。
だけど今後は私のほうが駄目だった。 初めてお話しするルヴァ様は私が勝手に想像していたより遥かに優しくて、知的で、気さくな方で、おまけに想像を絶するほどステキな笑顔と声をしていらして・・・・。
もう駄目。目が合っただけで泣きそうになる。心臓がバクハツしそうなくらいドキドキしてくる。 結局私は、あれこれと話しかけてくださるルヴァ様にろくすっぽ返事もできないまま、育成のお願いだけして逃げるように執務室を飛び出してしまった・・・・・・。
以来ずっと、そんな日々が続いている。 まともに向き合っているだけで恥ずかしくて、いつも育成の依頼が終わると話しかけられる前に「しっ失礼しますっ!」とそそくさと飛び出してしまう・・・・。日の曜日、ルヴァ様がせっかく誘いに来てくださったのに、居留守を使ってしまったこともある。
だけど、こんなシツレイな私に対して、ルヴァ様は気を悪くした様子もなくて、いつ尋ねてもニコニコと優しく迎えてくれて・・・・それがまた私をいっそう切なくさせていた。
・・・・・だけど。 こんなんじゃいけない!!! それは分かってた。だって私、(曲がりなりにもイチオウ)女王候補なんだし、私が頑張らないと結果的には私の宇宙が発展できずに苦しい思いをすることになるんだから・・・。
最後に私は決断した。 どうせナントモ思われてないんだし、初恋は実らないものと相場が決まってる。 とにかく一刻も早くこの思いを断ち切って、ルヴァ様と普通に話せるようにならなきゃいけない。
甘えて公私混同しちゃいけない。もっと真剣にならなきゃ。 丁度そんな時、占いの館で、たまたまルヴァ様の誕生日が近いという情報をGETした。これはいい機会だった。
――― ルヴァ様に誕生日プレゼントを贈ろう。 唐突に私は決心した。 大好きなルヴァ様に、思いっきり気持ちをこめてプレゼントを贈る。
自分のありったけの気持ちをぶつけて・・・・それで満足する。 そうすればすっぱりあきらめて、ルヴァ様と普通に接することができるようになる気がした。
そうしなきゃいけない。主星っ子らしく、潔く、きっぱりと、あきらめなきゃ・・・。 何を贈るかはすんなりと決まった。 ルヴァ様にはこれしかないような気がした。
公園の商人さんのお店で材料と教則本を買って、育成と学習の時間は削れないから夜中に頑張って、何度も何度もやり直して・・・・・。 やっと完成したプレゼントは、今不器用にラッピングされて目の前にある。
そして、いよいよ今日、これをルヴァ様に渡すのだ・・・・・。 今日・・・・あと数時間後・・・・だけど・・・・・
「あああああああ・・・・・・・・・」 私は思わずテーブルの上に突っ伏してしまった。 大丈夫なんだろうか・・?こんなんで私、本当にちゃんと渡せるんだろうか・・・・・・。
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