<分かってくれないアナタ2>



「これを・・・・私に?」

出会い頭に、リボンのかかった包みを突きつけられて、ルヴァ様はかなりびっくりしたようだった。
「あの・・・・おっ・・・・お誕っ生び・・・・・おっ、おめでとうございますっ!」
声が裏返るのを抑えて必死の思いでそれだけ言うと、ルヴァ様は私に向かって嬉しそうににっこりと微笑まれた。
「あー、覚えていてくださったんですか?有難うございます。・・・・開けていいですか?」

ルヴァ様の長い指がリボンをほどくのを私は祈るような気持ちで見守っていた。正直な話、シロウトが作ったものだけに頑張った割には出来の方は今ひとつだった。やっぱり買ったものにすれば良かったかも・・・・。不安が今更のように押し寄せてきた。

「・・・・・・・・・これは・・・・・?」
ルヴァ様は包みを開けたとたんに無言になってしまった。
薄っぺらい皮細工のしおりを驚いたようにいつまでも凝視しているルヴァ様を見て、私は瞬時に失敗を悟った。
全身が一気に冷たくなってゆく。 ・・・・だって・・・そりゃ確かにそうだった。特に親しいわけでもないし、ほとんどお話したことすら無いのに急にプレゼントだなんて、しかも手作りだなんて、やっぱり変に思われて当然だ。・・・・相手の趣味も何もわからないのに、月とからくだとか、こんな子供じみた柄だって、ルヴァ様の好みに合うわけが無いのに・・・・・・。

「あの・・・私、その・・・」
失礼します・・・・と、頭を下げかけた私の前に、ルヴァ様がいきなり『ぐいっ』と身を乗り出してきた。

「・・・これ!本当にいただいていいんですか!?」
「・・・はい?」
「ああ、有難うございますー。どうして分かったんですかー?誰かに聞いたんですかー?」
「えっ?」
思わず目がテンになりそうになってる私の前で、ルヴァ様は嬉しそうに手の中のしおりを私に示して見せた。
「ずっと探してたんです。月の砂漠のしおり。」
「えっ?そうだったんですか?」
「はいー。子供の頃から愛用していたのがもうぼろぼろになってしまって。これ以上傷まないように、今はもう使わずにしまってあるんです。別なのもあるんですけど、正直あまり気に入ってなくて。・・・・・これ、どこで手に入れたんですか?」
「いえ、あの、それは・・・・・」
私はもごもごと口ごもった。どこでと言われても、それはその・・・・・
「・・・・材料は・・・・そのぅ・・・公園のお店で・・・・。」
私の言葉にルヴァ様は目を丸くして、感極まったような声を出した。
「あなたが作ったんですか? ああ、そうだったんですかー。あなたがわざわざ作ってくれたんですねー。それは有難うございます。大事に使います。」
何だか良く分からないけど、とにかくすごく気に入ってもらえたみたいだった。ほっとすると同時にしみじみと嬉しさがこみ上げてくる。勇気を出して良かった・・・・これでちゃんと思い切れるような気がした。
「ああ、でも毎日持ち歩いているとやっぱり傷むんですよねえ。そうだ。透明な小さい袋に入れて使えばいいんですかねえ。」
贈り物を受け取ってもらえたことでほんの少し緊張が緩んでいた。私はルヴァ様に笑顔で答えた。
「そんな!どうぞバンバン使ってください。こんなのでよければ、またいくつでもお作りしますからっ!」
「本当ですかー?あー。それは嬉しいですね。今日は思わぬところで腕のいい職人さんと巡り会えました。」

ルヴァ様は大事そうにしおりを包み紙に包みなおすと、ゆっくりと私に向き直った。
「ところで、アンジェリーク?」
「は・・・はい?」
「あなた、どこかにいく途中だったんですか?」
「あ、いえ、そういうわけでは・・・・。」
「それはちょうどよかった。じゃあちょっと私に付き合ってください。」
「えっ?・・・・・ひぇえ?」
私は思わずはしたない叫び声を上げてしまった。
突然、ルヴァ様が私の腕を「逃がさない!」とでも言わんばかりにむぎゅっと掴んだのである。


 



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