<分かってくれないアナタ3>
ルヴァ様は半ば無理やりのように私を執務室に引き入れると、ソファーに座らせてお茶の用意を始めた。 「わわっ・・・わ、私がやりますっ!」
私は慌てて立ち上がった。そんな・・・今日はルヴァ様のお誕生日なのに・・・。 「いえいえ、ずっと欲しかったものをいただいたお礼です。それにここではあなたはお客様ですからねー。」
ルヴァ様は笑って私を押しとどめると、いい香りのするお茶を私の前に出して、自分も向かいの席に腰を下ろした。 「えーとですね。どう話せばいいのやら・・・・・。」
座るなり、ルヴァ様は長い指先を額に当てて、何やら考え込むようなしぐさをした。 「アンジェリーク。私はどうもこう人の感情の機微に疎いところがありまして、そういうつもりは無いんですけれども、人の気に障ることを言ってしまったり、人を悲しませてしまったりという、そういうところがあるらしいんですね・・・・。」
「そっそんな・・・・。」 私はビックリして思いっきり首を横に振った。 あり得ない・・・。だってルヴァ様はこんなに優しくて穏やかで本当にいい人なのに・・・・。ルヴァ様が誰かを悲しませるなんて、そんなこと考えられない。あり得ない。・・・それだけは絶っ対にあり得ないことだった。
「・・・・それでね、アンジェリーク。私の勘違いだったら申し訳ありません。私にはどうも・・・あなたが私のことを避けているように思えてならないんですよ。」
「そそそそんなっ・・・・・。」 まさか話の矛先が自分に向かってくるとは思ってもいなかった私は、思わず座ったまま椅子から1メートルくらい飛び上がりそうになった。
「でも、こうして贈り物を下さるくらいですから、あなたがきっと悪く思わないでくれている、ということは分かるんですけどねー。」 手の中のしおりをもう一度見下ろすと、ルヴァ様は顔を上げて、
「・・・・ですが、あのー。私はやっぱりその・・・・・・なにかまずいことをしてしまいましたでしょうか?」 「ちっ、ちがいます!それは、ちがうんですっ!」
慌てて両手を振って打ち消そうとする私の顔を、ルヴァ様が覗き込むように『じぃ』っと見た。 「でも・・・・やっぱり避けてましたよね?」 「いえ、ですから、それは・・・・・。」
「それは・・・・?」 思わず口ごもった私の前に、ルヴァ様はぐぐっと更に身を乗り出した。 「それはその・・・・その・・・・。」 「それは・・・・・?
」 ルヴァ様の整った顔が目の前でぐっとアップになる。・・・・どうしよう。・・・・・倒れそう。 私は動悸を抑えてやっとの思いで、蚊の泣くような声でこたえた。
「あの、それは・・・・その・・・・・恥ずかしくて、ですね・・・・。」 「恥ずかしい?・・・どうしてですか?」 あっさりと聞き返されて、私はほとんど卒倒しそうになった。
(あああ、もう許して・・・。何でそんな恥ずかしいこと聞くの?お願いだからこれ以上聞かないで・・・・。) 「それはもしかしたら、私が何かその・・あなたを恥ずかしがらせるような、何か不遜な思い上がった態度をとってしまったということなのでしょうか?」
「そっそんな!違います!」 ますます見当違いは方向に勘違いをされて、私は更にうろたえた。 「アンジェリーク、あなたは優しいから私に気を使ってくれてるんでしょう?」
「そうじゃなくてっ!・・・すっ・・・」 慌てて手で口をふさいだけど・・・間に合わなかった。 「す?・・・・酢がどうかしましたか?」
聞き返されて眩暈がしそうだった。どうしろって言うの?ここで言えっていうの?言わなきゃこの拷問は終わらないの? 「アンジェリーク。お願いですから、この際何でも言っちゃってください。私じゃあなたの役に立てませんか?」
「だからっ!すっ・・・・酢じゃなくて!『好き』だからっ!」 「えっ?好き?・・・・・・・・何がですか?」 『――――がーーーーーーーーん―――――』
もう駄目。もう限界・・・・・。 私はこぶしを握り締めてソファーから立ち上がると、ほとんど半べそ状態で叫んだ。 「そんなの、『ルヴァ様が』、に決まってるじゃないですか!!」
「えっ?」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
一瞬、時間が止まったみたいになって、しろーい、つめたーい空気が部屋中に流れた。 「あ、あああああ・・・・・何でもありません。うわっ忘れてください。そっその・・・・・失礼しますー。」
私はあっけに取られた表情のルヴァ様を正視できなくて、部屋を飛び出すと後ろも振り返らずに全速力で駆け出した。
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