act.7 終わらない夢



ここに来て何ヵ月後かに、取り寄せたファッション雑誌の小さな囲み記事であんたを見たよ。

モデル達に囲まれたあんたは、真っ白いドレスを着て、まっすぐに前を向いて立ってた。
カメラの前でも大口あいて笑っててさ、笑顔だけはあの時と全然変わってなかったね。
幸せ、って顔に書いてあったよ。
同じデザイナーと結婚して、二人でブランドを作ったんだって。
大きな店は持ちたくないからって、あの裏町の店でずっとがんばってたらしい。
メジャーじゃないけど、熱狂的なファンも多いって書いてあった。
もちろん、あたしも、その一人さ。


あたしは一つあんたに嘘をついた。

あんたのこと妹みたいに思うって言ったね。アレは嘘。
大好きだったよ。あんたのこと。
あんまり好きだから、一緒にいてあんたを自分のものにするより、まず、あんたを守ってあげたいと思ったんだ。 あんたの才能、あんたの夢、あんたを取り巻く世界ごと、全部愛しくて、愛しくて・・・・守ってあげたいと思ったんだ。
文無しでハラペコでも、裏切られて泣きべそかいてても、 がんばって幸せを探してる人達、・・・・・あんたみたいに夢見てる大勢の人達の夢を消しちゃいけない。 ・・・・・そう思ったんだ。

僭越かな?・・・・そうかもね。
だけど、あたしもあきらめないよ。

あの夢の守護聖の言ってた通りさ。 捨てない限り夢は終わらない。
あたしはここからいつまでも、あんた達に「がんばれ」って、そう言い続けるから。
これからも・・・・・聞こえるまで言い続けるから。




「・・・・・・・・・・・。」
ちょうど曲が終わる頃・・・・ふいに、すすり泣くような声が聞こえた。
振り向くと・・・・アンジェリークが、泣いていた。

「ん・・・・どうしたの?・・・・アンジェリーク?」
アンジェリークは床にぺったりと座り込んだまま泣きべそをかいていて、私が声をかけると、いやいやするみたいに小さく首を振った。
びっくりしたよ。・・・・だって、この子は大人しそうに見えるけど芯はとても強い子で、とにかく簡単に泣くようなコじゃないんだもの。
「デュ・フォーのリュート組曲・・・・確かにしんみりした曲だけど・・・・別に泣くような曲じゃないんだけどなあ。」


「・・・・しないでください。」
泣きながら、アンジェリークが顔をあげた。
「・・・・ん?」
「そんな・・・・そんな淋しそうな顔、しないでください!」
アンジェリークがいきなり、泣きながらしがみついてきた。

子犬みたいにやたら体温の高い体だった。
ぽろぽろと涙をこぼしながら、アンジェリークは小さくすすり上げていた。

私は思わず、アンジェリークの華奢な体を抱き返していた。

そうだよね。本当はとっくに分かってたよ。
あんたは大人しそうでおっとりして見えるけど、内面にはとっても激しいものを持っている。
小さな体に持て余すくらいの、深い、溢れるような愛情を抱えているんだよね。
だから、きっと、あんたは愛情深い、素晴らしい女王になるだろうと、私はそう信じている・・・・・。

私はゆっくりと、暖かい体を離した。

「ごめん。心配させて悪かった。ほらね?もう・・・何ともないでしょ?」
ちょっとおどけて見せると、アンジェリークは我に帰ったように、頬を染めた。
「あっ・・・あたしったら、ごめんなさい。失礼でしたね・・・。」
そして、それからもう一度真顔になって私の顔を見た。
「あの・・・。元気出してください。」

「ありがと。」
そんなにしょげた顔してたかな?と、ちょっと反省する。だめだよね、夢の守護聖がこんなことじゃね。


「ねっ、メイクしたげよっか?泣いたらお化粧くずれちゃったよ。ほら・・・・。」
「はいっ。」
アンジェリークが半分泣き顔のまま、元気に答えた。
その顔を見ていて、私はまた、つい、こんなことを言ってしまった。

「ねえ、アンジェリーク。 今はまだ話せないんだけどさ。・・・・いつか、聞いてくれるかな、私の昔話。」
「もちろんです!」
アンジェリークが勢い込んで答えた。
「ふふ。・・・・ありがと。」
私もアンジェリークに向かって微笑み返した。


そう、いつか話せるかもしれない、あんたには・・・・・。
そして、その日が来たら、私はこの曲を笑って弾けるようになるかも知れないね。


パフがくすぐったいと言ってアンジェリークが笑い出した。
窓から吹き込んだ風がカーテンを揺らして、あの日のあんたの声が聞こえたそんな気がした。


=完=


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壁紙:Little Eden

 

 


作者(ロンアル)のいいわけ

全国のヴィエ様ファンの皆様に、この場を借りてざんげします。
このようなヘボイものをお目に触れさせてしまってごめんなさい〜!!!
もっと明るくてスタイリッシュなヴィエ様を描きたいところなのですが、
力が及びませんでした!ヴィエ様処女作ということでお許しください!!
ヴィエ様のお誕生日記念と、 永地様がこの10月20日にスタートされるヴィエ様リングに
何かご協力できないかということで、恥を忍んで提出させていただきました!!
ヴィエ様へのLOVEだけは本物ですよ!
いつかちゃんと書きたい!!ヴィエ様!LOVE!!