<桜の花びらよりも・・・・2>


お花見はたいへんな盛況だった。
海外部だけでバイトの人とかも加えれば軽く100人越えてるし・・・それが一堂に会した様子は壮観そのものだった。
その日はお天気にも恵まれていて、ほぼ満開に近い桜が穏やかな風に少しずつ、その花びらを散らせていた。

中庭に着くと、私は真っ先に人ごみの中にルヴァ先輩のブルーの髪を探した。
だけど、まだ外出先から戻ってきていないのか、広い会場の中、ルヴァ先輩の姿はいつまでたっても見つからなかった。

「やぁ、・・ひとり?」
ふいに声をかけられて振り向くと、数名の若い男性社員がこっちに向かって手を振っている。
隣の課の人たちらしい。話はしたことないけど良く見かける顔ばかりだった。
「1課のリモージュさんでしょ?」
「1課にはできるアシスタントがいて羨ましいなって前からみんなで噂してたんですよ。・・・・こっちで一緒に飲みませんか?」
「あの・・・でも私、人を探していて・・・・」
断ろる隙もあらばこそ、二人がかりで両側から肩を押され、そのまま宴席に連れ込まれそうになったその時・・・・・


「アンジェリーク!」

呼ばれて振り向くと、そこには片手にブリーフケースを提げ、コートを着たまんまのルヴァ先輩が立っていた。

私は言葉も出ないくらい驚いていた。メールでは何度かお話したけど、先輩にファースト・ネームで呼ばれたのは、もちろんこれが初めてだった。
呆気に取られている間もなく、ルヴァ先輩は今度はいきなり歩み寄って来たかと思うと、私の手をひったくるように握り締めた。

「・・・・帰りましょう。・・・・送ります。」

・・・・声が出ない。
・・・・私の手は相変わらず先輩の大きな手のひらの中に、痛いくらい握り締められたままだった。
手のひらが、熱い・・・・息が止まりそうだった。

「顔が赤いですよ・・・・お酒、飲みすぎちゃいましたか?」
周囲の抗議の視線をまるっきり無視して、ルヴァ先輩は再び私にずいっと近寄ると私の顔を覗き込むように見た。
お酒なんか一口も飲んでない。・・・・赤いのは・・・・それは、あなたが私の手を握ってるから・・・・・・
そんなに近くで、私を見てるから・・・・・
抗議したいのに声が出ない。私は完全にのぼせ上がったまんま、喘ぐように、うなずくのが精一杯だった。



みんなが振り向く中、ルヴァ先輩は私の手を引いたまま、怒ったような表情でどんどん歩いてゆく・・・・。私は真っ赤になってうつむいたまま、引きずられるようにして先輩の後ろからついていった。


駐車場には先輩の車が停まってた。
今日は一日外って言ってたから、車で来てたんだ。
私は促されておずおずと助手席に乗り込んだ。







車を出してからも、先輩は一言も口を聞こうとしない。


―何か、怒ってるんだろうか?
―私があの男の子たちとふざけてるように見えたのかしら?
―軽はずみな浮ついた子だって、そんな風に思ってるんだろうか・・・?

次第にこみ上げてくる 不安と悲しさで、私はひざの上の手に視線を落としたまま、顔も上げられずにいた。


「窓の外・・・見てごらんなさい。」

ふいに、静かに話しかけられて・・・・・ 誘われるように顔を上げると・・・・

窓の外を雪のように舞っているのは、薄紅色の桜の花びらだった・・・・
「きれい・・・・・」
私は思わず吸い寄せられるように窓ガラスに顔を寄せた。
車はいつの間にか私の知らない道を走っていた。
道の両側を埋め尽くす桜並木を、月と街灯の淡い光が幻想的に浮かび上がらせていた。

「桜・・・・きれいでしょう?少し、降りてみますか?」
「・・・・はい。」 私は小さくうなずいた。



車を停めて、小さな見晴台みたいな場所に上がると、いきなり先輩は私に向かって頭を下げた。

「さっきはすみませんでした。・・・・無理やり連れ出してしまって。
あなたが来たばっかりだったのも、全然飲んでないのも知ってました。あなたを連れ出そうとしてわざとあんなこと言ったんです・・・・・。本当にすみません。」
「それは・・・・構いませんけど・・・でも・・・・」
どうしてですか?と聞こうとする前に、先輩は桜の木を見上げたままゆっくりと話し出した。
「あなた自分じゃ気がついてないみたいですけど、うちの部ですごく評判なんですよ。ずい分前からみんなあなたのことを誘いたがっていて・・・・さっきの彼らも、今日あなたを連れ出したいって言ってたんです。・・・誰が一番先にあなたを、って・・・・・・その・・・・・・
だけど、私はそれが嫌だったんです。・・・・だから・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「あっ、あの・・・・。心配しないでくださいねー。変な噂にならないように、みんなには明日ちゃんと話しておきますから・・・・・送りたかったけど途中で断られたって・・・・駅まで送って別れたって、そう言いますから。・・・・・本当にすみませんでしたね。」

「・・・・どうしてですか?」
私は思わず、顔を上げてルヴァ先輩のブルー・グレーの瞳を必死な思いで見返した。
「私、断ってなんかいません。どうして駅までなんですか?家まで送ってくれないんですか? 上がってお茶とか・・・その・・・飲んでいってくれないんですか?私、先輩だったらいいです。別に噂になっても構わないし・・・・、噂じゃなくて本当になっても・・・・その・・・・・・」






「・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・」








「桜が・・・・・・」

二人して黙り込んでしまった後、ふいに先輩がつぶやいた。
「髪に、ついてる・・・・」
先輩の腕が伸びて、長い指が私の髪に触れる・・・・私は思わず、首をすくめて目を閉じた。


そっと開いた目が、先輩の視線とまともにぶつかった。
先輩は、指の上の花びらと私の顔を代わる代わる眺めていたかと思うと


もう一度腕が伸びてきて、肩に・・・そして背中に触れた。

引き寄せられて、私の体は音を立てて先輩の懐に飛び込んだ。


唇に・・・先輩の指が触れる。
ゆっくりと唇を指先でなぞられて、全身を痺れるような感覚が走った。


そして次に、もっと温かい何かが・・・・・・。


「週末・・・逢ってくれますか?」

耳元で聞こえる先輩の言葉に、私は夢中でうなずいた。



目の前にまた、桜の花びらがひとひら・・・・またひとひら・・・・

静かに舞い落ちて行った。


-Fin-






■作者(ロンアル)より言い訳!
みなさま!いいお月夜で!お花見楽しんでいらっしゃいますでしょうか〜?
「桜の宴」企画投稿作品第1弾!主催者の月読紫苑さまからネタをいただいて書かせていただきました〜。えー、いただいたネタは「花びらの淡い桜色より強烈に心に焼き付いた桜色・・。(もちろんルヴァリモで〜。/ついでにちょっと大人向け)」でしたっ!・・・・あわわ、かすってもいないっ!(笑!)
桜の花びらよりも心に焼きつく桜色・・・といえば、一つしかないでしょっ♪と、本人大盛り上がりで書いたのですが・・・・無理の多い話ですみません!宴会芸ということで、ひとつご容赦を!(書き逃げ!)


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