《星降るように愛してよ-1》
分かってました。あなたが別な人を愛しているということは。
わたくしはいつもあなたを見ていましたから、あなたがその人を見るとき、その人のことを語るとき、ひときわ幸せそうな表情になるのに気づかずにはいられなかったのです。
わたくしは、そのことを自覚するに連れ苦しみました。
だって、そうでしょう?この世で初めて巡り会えた、心から愛しいと思う人が、わたくしのそんな思いに気づきもせずに、他の人を愛しているというのですから・・・・・・・。
ですが結局のところ、わたくしは自分のそんなちっぽけな嫉妬や独占欲なんかより、あなたに幸せになって欲しいと思いました。
偽善のようですが、本当にそうなんです。
わたくしは、あなたの笑顔が好きなのです。本当に大好きなのです。
愛しいアンジェリーク。
どうかあなたにふさわしい幸せを手に入れてください。
あなたが笑顔でいること・・・・・わたくしにとっては、それが一番大事なことなのですから・・・・・。

「どうも・・・うまくいきませんね・・・・・」
わたくしは手にした五線譜を台に伏せると、ため息をつきました。
今朝方、小鳥たちの声と風のざわめきを聞きながらふと浮かんだメロディーを、出仕前にざっと五線譜に書き留めておいたのですが・・・・
私邸に戻っていざ演奏してみると、何度繰り返しても今朝のあのイメージが湧き上がってこないのです。
旋律もリズムも、浮かんだそのままに書き留めたはずなのに・・・なんだか朝方とは全く別物のように聞こえました。
妙に諦めがつかなかったわたくしは、夜ではありましたが私邸を出て近くをそぞろ歩きしてみることにしました。
夜はめったに出歩かない方なのですが、その晩は星空が殊更に美しくて、星々の力を借りて失くしたメロディーを取り戻せるような気がしたのです。
何の気なしに湖の方まで歩いて行って・・・・そこでわたくしは、はたと足を止めました。
誰か、人の声・・・・すすり泣いているような、小さな声が聞こえてきたのです。
こんな夜更けに誰でしょう・・・・・?
暗闇の中で目を凝らしてみると、滝の麓に跪いている白い影は・・・・何と、アンジェリークだったのです。
彼女は両手に顔をうずめて、声を漏らして泣いていました。
「・・・・・アンジェリーク」
ずいぶん長いこと経ってから、わたくしはやっとの思いで声をかけました。
彼女がとてもつらい思いをして、泣かずにいられないでいるのは一目で見て取れました。ですが、彼女をいつまでもこんなところで一人ぼっちで泣かせておくわけにはいかない・・・・・・そう思ったのです。
「・・・・リュミエール様?」
アンジェリークは驚いたように顔を上げました。
彼女が慌しく涙を拭おうとしているのを見て、わたくしは慌てて言いました。
「大丈夫です。何も聞きません。・・・・・・・何も言いません。悲しいことがあったのでしょう?・・・・・泣いていいんですよ。」
わたくしは、彼女が無理をして悲しみを自分の心の中に押し込めてしまうのではないかと恐れたのです。
彼女は大きく目を見開いて、・・・・そして、そこからは再び、大粒の涙が流れ出しました。
「無理しないで、気が済むまでお泣きなさい。誰だって悲しいことはあります。耐えられないときは泣いていいんですよ。」
声を上げて泣き崩れる彼女を前に、わたくしは何もできずに立ち尽くしていました。
・・・・・・何も出来ないのなら、どうして声なんかかけたりしたのでしょう?
気づかれないように近くで見守って上げれば、それで良かったのではないでしょうか?
それでも彼女はいつまでもいつまでも泣き続け
そしてわたくしは彼女の傍らで、近寄りもせず、離れもせずに、いつまでもそうして立ち尽くしていたのでした。
月明かりだけがそんなわたくしたちを照らしていました。
next?
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