<シーソーゲーム.7>


7.あなたは「さよなら」しか言ってくれなかった



観覧車を降りると、閉館の音楽が流れ始めていた。

そろそろ魔法が解ける時間だった。この人はちゃんと責任を果たして、私の願いをかなえてくれた。もう引き止めることなんかできない。
私達は並んで、無言でパークの出口に向かった。


「あの・・・・本当にすみませんでした。」
出口の広場にたどり着くと、彼はもう一度私に向かって深々と頭を下げた。
一瞬何のことか分からなかった私は、ああそうか・・・あのキスのことかと思い当たって微笑んだ。
「謝ることないですよ。私のせいなんだから。・・・・」
「えっ?」
「助けてくれたんでしょう?私のこと・・・・。 落ち着いて考えたらよく分かりました。あなた一人だったらあんなことしなくても簡単に逃げられたはずだもの。・・・・私が危ないと思って、それで助けてくれたんでしょう?・・・・だから、ありがとう。」
いえ・・・と、小さくつぶやくように答えると、彼はまた少し赤くなってしまった。


出口を出るとすぐ正面が地下鉄の駅だった。
この地下鉄の沿線に住んでるって、さっきこの人にも言ってしまった。
今度こそ正真正銘のお別れだった。




(・・・・お願い・・・・・。)



駅が近づいてくる。
私は手のひらに力を入れて握り締めた。


お願いだから、私の名前を聞いて、・・・・あなたの名前を教えて。
私の連絡先を聞いて。
「また会いたい」って・・・、お願いだからそう言って・・・・。


名乗るチャンスはあった。彼のことだって聞こうと思えば聞けた。
だけど、自分からは言いたくなかった。
あなたから聞いて欲しい。
あなたも同じ気持ちだと、そう言って欲しかった。



「・・・・・さようなら」



地下鉄の入り口にたどりつくと、彼は足を止めて短く言った。


「さようなら」・・・・たった、それだけ。


「有り難うございました。」
ぎこちなく頭をさげると、私はひとりで階段を下り始めた。

一段・・・一段・・・。
背中でずっと、 あなたが呼び止めてくれるのを待ちながら、わざとゆっくりと歩いた。


踊り場まで降りると、私はこらえきれずに振り向いた。
入り口にはもうあなたの姿は見えない。
私は一息に、今降りてきた階段をかけのぼった。
パーク前の広場には背の高いあなたの姿はもうどこにも見当たらなかった。


私は支えを失ったようにずるずるとその場に座り込んでしまった。
一気に涙が溢れ出してくる。


馬鹿・・・・なんて馬鹿なんだろう。
聞けばいいじゃない。そんなに好きなら・・・泣くほど好きなら、自分から聞けば良かったじゃない。
また会いたいって、そう言えば良かったじゃない。


道行く人に振り返られても、もう涙が止まらなかった。
好きなのに・・・こんなに好きなのに・・・・。

もう、あなたと私をつなぐ線は何も無い。


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