<シーソーゲーム.6>
パークの一番高いところにある観覧車の上からは、町が一望に見渡せた。 「きれい・・・ですね。」 都会の夜景なんてあちこちで見たはずだけれど、そのくせ一つも印象に残っていなかった。景色を美しいと思う気持ちを私は忘れていたのに気がついた。 「夜景を見たことがないの?」 彼女が不思議そうにつぶやくのを聞いて、私は少しばつが悪い気がした。 「でも、きれいな星空は知ってます。空一面を、重なり合うように星が埋め尽くして、あちこちできらきらと瞬いて、引っ切り無しに流れ星が落ちて、空一面がまるで宝石箱みたいに・・・・・・。」 言葉が続かなかった。 そうだった。あの星空は、本当に美しかった。 「素敵ね。 あなたの故郷の話?」 彼女が私を見て微笑んだ。 優しい・・・とても優しい笑顔だった。 私はまた、あのザラ紙に印刷された天使を思い出していた。 「・・・今は、もう・・・ありません。」 彼女がゆっくりと首をかしげた。 「小惑星が接近してきて・・・・・私がまだ子供だった頃、・・・・急激に気候が変わって飢饉になって、気温が40度を超えてどんどん人が死んで・・・限られた人数だけが、星間援助団体の仕立てた船で星を出ました。 成績が優秀だとか、身体能力が高いとか、器量がいいとか・・・そんなくだらない理由で誰が星を出て、誰が残るかが決められて・・・・・・・私は・・・残りたかった。だけど私が選ばれて・・・弟が残されて・・・・。 私は残りたかったのに・・・・・弟を出してやりたかった・・・・・・」 胸がいっぱいで、言葉が続かなかった。 これは10年間私がずっと抱えてきた気持ちだった。 吐き出すことが出来ずに、胸の中にわだかまり続け、常に私を責め続けた思いだった。 そう。10年前。本当は私も大声で泣きたかったのだ・・・あの四角い部屋で。 突然、固く握ったこぶしの上にふわりと温かいものが触れた。 「分かった。・・・・もういいから。」 「大丈夫だから。分かったから・・・・・ もう・・・大丈夫だから。」 彼女は私の手のひらを握り締めたまま、透き通るような瞳で、まっすぐに私を見上げた。 とても強くて、優しい瞳だった・・・・・。 何が大丈夫なのかさっぱりわからないけれど・・・・・私は、荒れ狂いそうな気持ちが静かに凪いで行くのを感じていた。 そう・・・・確かに私は誰かにこの思いを伝えたかった。 どう伝えたらいいのか分からないままに・・・。 誰かに分かって欲しかった。 「許す」と、誰かに言ってほしかった・・・・・。 |