砂のつぶやき(1)



7月12日・・・それはあいつの誕生日だった。


去年のその日、他のヤツラはみんな、何かしらルヴァにプレゼントをやったらしかったが、俺だけはルヴァに何もやらなかった。

あいつにプレゼント渡すなんて、想像しただけで全身が痒くなりそうだった。
あいつのことだ、「プレゼント」なんてくれてやってみろ、ぜぇったい、大げさに感激して見せるに違いないんだ。下手すると、泣くかもしれない。冗談じゃねー。なんでそんなきまりの悪い思いまでして何かやんなきゃなんねーのか、俺にはさっぱり分からなかった。

というわけで、去年は一日、俺はプレゼントを(結局用意はしてあった。)持って、あいつの周囲をうろうろして、うまいことおおげさにならずに渡せるタイミングをはかった挙句、結局夜になってタイムアウトになってしまったわけだ。
ちなみに、その時渡しそびれたルーペは、俺が細かい作業なんかをする時に使っている。

んで、今年だ。

去年あんなことになったんで、俺はもう今年は、はなっからプレゼントなんてやるつもりはなかった。
なかったんだけど・・・・だけど俺は、ひょんなことから気が変わって、結局ルヴァにプレゼントをくれてやろうという気になったんだ。


それを作るのはちょっとばかしキツかった。
材料を集めるのに3ヶ月だろ、作んのはほとんど作業場にこもりっきりで、約1週間かかった。
だけど、できあがったそれを見て、俺はちょっとばかし気分が良くなった。


そして今日、7月12日、俺はできあがったプレゼントを前に、さあこれをどうしたもんかと首をひねっていた。

とりあえず、おおげさにならないように、俺はその「プレゼント」を部品屋のきたねー皺だらけの紙袋につっこんだ。
後は渡し方、だ。
まちがってもつかまってぐだぐだ礼を言われるような羽目にはなりたくねー。サクっと渡して、一瞬で脱出しなきゃなんねー。しかも、後から礼を言われないように、決して好意で渡したんじゃないってことを、きっちり言っておく必要がある。
場所は、まあ、執務室だろうな。俺はねらいを定めた。あそこなら何度も逃げ出したことがあって慣れている。俺はポケットに紙袋を捻じ込むと、意を決してルヴァの執務室に向かった。


案の定ルヴァのヤツ、俺が自分からヤツの執務室を訪ねてきたのを大げさに喜んで見せた。

「あー。あなたが自分から来てくれるなんて珍しいですねー。ちょっとそこに座っててくださいねー。今すぐお茶を入れますからねー。」
「いいからちょっと待て。」
立ち上がりかけたルヴァを俺は慌てて留めた。長居するつもりはさらさら、ない。
「どうしたんですか?」
「いいからそこに座れよ。動くんじゃねーぞ。」
「はあ・・・・。」
「言っとくが、俺は別におめーのこと、有り難いと思ったり、感謝したりなんかしてないからな!」
「はあ。」
「いつも、おめーが好きでしゃしゃり出て来てるんだからな!」
「はあ・・・まあ・・・そうですけどね。」
「まさか俺に感謝されてるなんてうぬぼれてるわけじゃねーだろうなー。」
「思ってませんよ、そんなことー。」
「ならよしっ、ほら、これ。」
俺は投げ出すように無造作にそいつをテーブルの上に置いた。
「・・・・・なんですか?これ?」
「きょう、誕生日だろうが、おめーの・・・・。」
「えっ?えええっ?ぜっゼフェル、あなたまさか・・・・・。」

―――来たっ!
俺はすかさず、立ち上がると窓の辺りまで、後ろ向きで後退した。

「渡したからな!好きで渡したわけじゃないからな!単なるつきあいってやつだぞ!礼なんかいうんじゃねーぞ!」
最後の方は自分でもわけわかんなくなりながら、必死でまくしたて、俺は素早く窓から脱出すると、一気に館まで駆け戻った。


さすがに全力疾走の後で、息が上がった。
今ごろ、あいつ、中見てんだろうなあ。
どう思ったろう・・・・。ちょっぴりそれが気がかりだった。




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