―――ぴちゃ・・・・ぴちゃり・・・・・ 「うっ・・・んっ、んっ・・・あぁ・・・・・」
大きなガラス窓から、眩しい光が差し込んでくる部屋の中、 純白のシーツの波が陽光を弾きながら揺れている。
―――波がまた揺れた。
まだ幼さを残すか細い指先が、激しくシーツを握り締め、ベッドの上で大きく身悶えた。 「あっ・・・はぁっ、・・・・んぅ・・・ぁ・・・・・・」
大きく割り裂かれた少女の両脚の間から金髪の少年が顔を上げ、首をかしげて微笑んだ。 「ねぇ?どう?・・・イイの?アンジェ・・・・」
「んっ・・ん・・・・・・」 「だめ・・・言わなきゃ止めちゃうよ?」 「いやっ・・・・・・あっ、あん、・・・・いい・・・・・いいです、ルヴァ様。」
「そう・・・良かった。じゃあ、もっと良くしてあげるね?次は?いつも次はどうするの?」 「ゆ・・び・・・いれて・・・うんと動かして・・・もっと舐めるの・・・。」
「・・・・こう?」 「あ・・・・んっああぁ・・・」 白い喉を仰け反らせて少女が喘いだ。激しい震えがそのまま全身に広がってゆく。 「あ・・は・・ぁ・・・あぁ・・あ、いっ、いぃっ・・あぁん、あぁっ・あん・・・・・」
「すごいね、もう三回目だよ?僕の、そんなに良かった?ねぇ、ルヴァ様より・・・いつもより、もっといい?」 「んん・・・いい・・・です。」
「僕、もう入れたい。いい?アンジェ・・・。」 「・・・はい。・・・いれ・・・て・・・・ル・・ヴァさま・・・・・」
少年のしなやかな体が少女の体の上を滑り、その影がひとつに重なった。 金髪が滝のように少女の頬に零れ落ちる。 ぴったりと包み込み、切なく絡みついてくるようなその感覚・・・。
初めて経験するその圧倒的な感触に酔いしれながら、マルセルは少し心が痛むのを感じていた。 自分は初めてだけれど、彼女はそうじゃない。
彼女はよく知っていて、慣れていた。馴らされていた。 つながった瞬間、ごく自然に両脚を腰に絡めてきた。 とても淫らなポーズ。すごくきれいだけれど、すごく憎らしい。
誰にそれを教わったのか分かってしまうから、だから余計に胸が痛くなる。 「好きだよ、アンジェ・・・・・ ねぇ、今度は僕の名前で呼んで?」
「・・・ル・・・ヴァ・・・さ、ま・・・・。」 「違うよ、マルセル・・・」 「ル・・・ヴァさま・・・・」 「・・・マルセルって呼ばなきゃ、このままだよ?入れて欲しくないの?動かして欲しいんでしょ?」
「いや・・・抜いちゃいや・・・・もっと、もっと・・・・・」 「じゃあ、呼んで?マルセル、だよ」 「マ・・・ルセル・・・・はっ、あああ・・・・・」
思い切り突き立てると、アンジェはゾクっとするくらい甘い声を出した。 「すごいね、アンジェの中・・・・すごく熱くて気持ちいい・・・・・」 「はっ・・・あっ、あ・・・マル・・セルさ・・・ま・・・・?」
薄目を開けたまま、アンジェが首を傾げて僕を見た。 「ああ・・いけない・・・そろそろ切れてきたかな?・・・急がなきゃ、ね、アンジェ。」
僕はアンジェをしっかりと抱きなおすと、打ち付けるペースを上げた。 「あぁっ、・・あっあん・・ん・・んいぃ 」 「ねぇ、も、出ちゃう・・・。このままっ・・いいよね?」 答えずにアンジェは震えている、もうイク寸前みたいだった。 陶然としたその表情が、ものすごく綺麗で可愛いくて、僕は彼女のおでこにもう一度キスをした。
「アンジェは僕のものだから・・・・僕、このまま出すからね?ずっと一緒だから・・・・。」 震えながら昇りつめた後、アンジェはぐったりとして動かなくなった。 どうやら眠ってしまったみたいだった。 眠っているアンジェの顔はとても無邪気で可愛くて、最初に会ったときのことを思い出して僕は少し微笑んだ。
そうだよ。あの頃からずっと、僕は君のことが好きだったんだから・・・・。 ずっと、ずっと、大好きだったんだから・・・・・。
ずっとアンジェのことが好きで、恋人になりたいと思ってた。
アンジェも同じ気持ちだと思ってた。 いつからだったんだろう? それが少しずつ、変わってしまったのは・・・・・。
だけどまた、戻れるよね?
ゆっくりとアンジェが目をあけた。 まだ頭が朦朧としているようで、その瞳は奇妙なものでも見るように周りの風景を見回している。 目が合って、僕はにっこりとアンジェに笑いかけた。
「目が覚めた?」 「わ・・たし・・・・何を・・・・・・」 「大好きだよ、アンジェリーク。」 僕はしっかりと裸のアンジェリークを抱きしめて、ほっぺたにキスをした。
「ねぇ、僕とずっと一緒にいて。僕、前よりずっと、キミのことが好きになったんだから・・・・」 「・・・・・・いやっ!」 アンジェは悲鳴のような声を上げると、僕の腕の中でメチャクチャに暴れだした。
「い・・・や・・・・。私に何をしたの?何したの?なぜ私・・・・・いや・・・イヤぁっ・・・」 「落ち着いて、アンジェ・・・・」
―――ガシャン!
ガラス戸が割れる音がして、僕は庭の方を振り向いた。 大きく割られたサンルームのガラスの向こうには、スコップを手に肩を大きく上下させているルヴァ様がいた。 ルヴァ様の足元一面に粉々になったガラスが散らばって、それがきらきらとお日様を弾いて光ってた。
ルヴァ様は見たことも無いくらい険悪な表情をしていた。 怒っているんだろう、もちろん。 ちょっと前の僕だったら、この顔を見ただけで縮み上がっていたと思う。 だけど今は、違う。 今頃やってきて何にも出来ずにただ腹を立ててるなんて・・・その姿はちょっぴり滑稽に見えた。
穏やかで優しい、地の守護聖。 いつだって僕のことを庇ってくれた。大好きだった。 だけど今は違う。ルヴァ様は大人の知恵を使って僕とアンジェを引き離そうとした。ずるい手段で僕からアンジェを取り上げようとした。
「何を・・・・・しているのですか?」 僕のことを厳しく睨み付けたままで、ルヴァ様が言った。 凄んでいるつもりかも知れないけれど、その声は可笑しいくらい震えてる。 「ごめんなさい、ルヴァ様。だけど・・・・
アンジェは返さない。」 僕ははっきりと宣言した。 もう僕はあなたには負けないよ。 あなたの手品の種は、もう見えちゃってるんだから・・・・。
僕はガウンを引っ掛けると、ベッドを滑り出て裸のアンジェを庇うようにその前に立った。 「アンジェは僕のことが好きだったんだ。最初は本当にそうだったんだから・・・・。ルヴァ様があんなことを教えなきゃ、ずっとずっと僕のことを好きでいてくれたんだ。
だけどもう違うから・・・・あのことはルヴァ様じゃなくても、僕でもしてあげられるんだ。」 「子供が・・・何を言ってるんですか・・・・」
物語に出てくる悪役みたいな顔でルヴァ様が僕を睨んだ。 僕は負けるもんかとその顔を睨み返した。 「もう子供じゃないよ。アンジェは言ってたもの・・・・僕の方がいつもより良かっ・・・」
「止めてぇえええええええ!」 言い終わらないうちに切り裂くような悲鳴が聞こえて、僕達は二人ともベッドのほうを振り向いた。
「あっ・・・うっつ・・・み・・・・見・・・ない・・で・・・・・」 一瞬のことだった。 アンジェリークは、裸のままベッドを滑り降りると、割れたガラスが散乱する窓辺の方へと真っ直ぐに走って行った。
高い作り棚に手を伸ばすと、そこにあった瓶のコルクを毟るように抜いて、 アンジェはそのまま白い喉を仰向けて、瓶の中身を一気にあおった。
「アンジェリーク!それは!」 僕は悲鳴のように叫んだ。 それは、前にアンジェリークがここに来たときにも「絶対触っちゃダメ」って言ってあるものだった。
この中身がなんだか、アンジェはちゃんと知っていたはずだった。 『きれいな瓶・・・・』 『危ないよ、それ・・・中身は劇薬だから』
『ええっ?』 『僕はあんまり殺虫剤は使わないことにしてるんだけど・・・・・・でも、お花が病気になった時とかどうしても強い薬で菌を殺さなきゃいけないことがあるんだ。そんな時はそれをちょっとだけ薄めて使うんだよ。薄める前の原液だから手や服に付いたらタイヘンだし、触っちゃダメだよ。
』 『分かりました。・・・・怖いお薬なんですね・・・・。』 「アンジェ・・・・・・」 アンジェの体がまるでスローモーションみたいにゆっくりと床に崩れていった。
唇から真っ赤な血と白い泡が後から後から噴出して、 白いからだがキリキリと痙攣するように震えて、 そして、ピクリとも動かなくなった。
「・・・・・・・なんという・・ことを・・・・・」 呻くようなルヴァ様の声で、僕はハッと我に返った。 そうだ。まだこの人がいるんだった・・・・。
僕は何としてもアンジェリークをこの人に返したくなかった。 たとえこの人がどんなに賢くて、大人で、僕の知らないことをいくつも知っていたとしても
僕はもう二度とアンジェリークのことを誰にも渡さない。 僕は倒れているアンジェリークのすぐそばに駆け寄ると、床に落ちた緑の瓶を拾い上げた。
思ったとおり、その中にはまだ半分以上液体が残っている。 僕は、それを思い切り飲み込むと、残りを全部床にぶちまけた。 ものすごい息苦しさと、吐き気が襲い掛かってくる。
全身が気味悪く震え出していた。 だけど構わない。僕は君のそばにいくんだから。君と一緒に行くんだから。 「大丈夫だよ。アンジェ・・・僕がついて行ってあげるから・・・・・」
「僕、キミが大好きだから・・・・一人にさせないから・・・・・・ずっと・・・ずっ・・・と・・・・」 かすんでゆく視界のすみに、立ち尽くしているルヴァ様の姿が見えた。
僕はほんの少し嬉しくなった。 さすがのあなたでも、ここまでは追いかけて来られないでしょう? 「・・・・もう・・・・・残ってないよ」
震える手を必死で伸ばして、僕は床の上の緑の瓶を指差して、笑った。 「アンジェと一緒に行くのは僕・・・だか・・ら・・・・・。」
「アンジェリーク・・・・・」 僕は傍らで眠っているアンジェリークの柔らかな髪の毛を撫でた。 もう誰にも邪魔なんかさせないから。
ずっと、ずっと・・・・・僕がそばにいるからね・・・・・。 「だいすき・・・だ・・よ・・・・アン・・・ジェ・・・・・」
「アンジェリーク・・・・・・・・」
白いガウンをまとった小さな体を無造作に蹴飛ばすと、緑色の長身は裸の少女の傍らにうずくまった。
「あなたと一緒に行くのは私ですよ。」
血にまみれた華奢な体を懐に抱き起こすと、緑の影はもう一度憎々しげにマルセルの体に振り向いた。
「一滴も残っていないって?・・・馬鹿を言うんじゃありませんよ。
ここに、あるでしょう?・・・ほら?ほら?こんなに・・・・・?」
「マルセル!アンジェリーク!」 知らせを受けて駆けつけたジュリアスとオスカーは、サンルームの中に足を踏み入れるなり硬直したように立ち尽くした。
「・・・・うっ」 「・・・・・ルヴァ・・・・」
ガシュリ・・・・ザシュ・・・・・
床に溢れ、次第に広がってゆく鮮血の輪。
その中心で狂ったように屍骸の喉を噛み裂き、両手で血を啜っているのは・・・・・・
宇宙の守護者、至高の知を司る、地の守護星。
「愛してる・・・アンジェリーク・・・」
「あなたは・・・・私だけのものでしょう?」 「そうでしょう?アンジェリーク?」
血にまみれた両手で愛しげに少女の金髪を撫でさすって・・・・ 緑の聖人は、もう一度青ざめた少女に問いかけるようにつぶやいた。
「ねぇ・・・・教えてください。アンジェリーク?」
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