<僕のバレンタインデー1>



その日はリーグの最終戦だった。

相手のチームは相当強かったんだけど、後半になると段々疲れが出てきたみたいで、最後はディフェンダーを振り切って右サイドを駆け上がった僕がゴール前に蹴り出したボールをトッドが押し込んで―――それが決勝点になった。
初めてのリーグ優勝に僕たちは沸きかえった。
みんな興奮しまくってて、大笑いしながら揉みくちゃになって肩を叩き合って、しまいにはほとんど笑いながら殴り合ってるみたいになっちゃって、監督に大声で怒鳴られるまで、それがずっと続いた。

みんなと一緒に戦勝会に行きたかったんだけど、うちは寄り道禁止だった。母さんに帰る時間も言ってきちゃったし・・・・残念だけど僕は先に帰ることにした。
ロッカールームを出ようとするとトッドが僕を追っかけてきた。

「ユーリ、次のシーズンもやるだろ?」
「うん。・・・・でも、うち、引っ越すかもしれないんだ。」
僕はあいまいに答えた。
母さんはお父さんが見つかったら僕たちはみんなでお父さんの星に帰るんだと言っていた。お父さんも母さんも今は何も言わないけど、お父さんの体が治ったら本当に帰るのかもしれない。
「まだ決まってないんだろ?決まるまでやれよ。引っ越しても・・・近くだったら来られるだろ?」
「そうだね、引っ越すとしても、多分まだ先だし・・・・。来月の練習には絶対来るから。・・・うちにも遊びにおいでよ。」
「うん。」
僕たちは握手をしてロッカールームの前で別れた。


・・・・・母さんに断ってきた時間より遅くなっちゃった。
走って球場の門を出かけたところで、僕はいきなり後ろから誰かに呼び止められた。



「ユーリ君」

「・・・・・・・」


慌てて足を止めて振り向くと、そこには数人の女の子たちが一塊になってこっちを見ていた。
女の子たちが手に手に持っている小旗には僕たちのチームのマークが入ってる。
応援に来てくれたんだ・・・・・。僕は、思わず笑顔になった。

「・・・・ありがと・・・・

「・・・・う」 まで言い終わらないうちに、僕の声は誰かの「きゃー」という甲高い声にかき消された。
それが合図みたいに僕はあっという間にその子たちにぐるりと取り囲まれてしまった。

「ユーリ君。これ、あたしから!」
「やん。ずるいっ!アタシの方が先に待ってたんだからっ」
「このチョコレート、手作りなの。絶対食べてね!」

「えっ・・・?どっ・・どうして・・・?」

呆気にとられてる僕の手に次々とリボンのかかった箱を押し込むと、女の子たちはまた何か大声で口々にしゃべったり笑ったり喚声をあげながら、嵐のように走り去ってしまった。





「・・・・・・・・・・・・・・・」



残された僕は、ひとりで呆然と立ち尽くしていた。
何が起こったのかわけがわからない・・・・・。

お父さんには「知らない人からものをもらっちゃいけません」って言われてる。
母さんは「せっかくくれるものを断っちゃシツレイよ。くれるものなら何でも『有り難う』って言ってもらいなさい」と言っていた。

だけど、だけど・・・・・・

・・・・断る余裕もお礼を言う隙もなかった・・・・・。



――― どうしよう・・・・・。



僕は両手にプレゼントの箱を抱えながら、途方にくれて立ち尽くしていた。



 


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