<僕のバレンタインデー5>
「お疲れさま、・・・付き合ってくれて有り難う。ココアでも飲む・・・?」
「・・・・・要らない・・・・」
僕は足元がふらつきそうになるのを抑えながら、慌てて二階へ駆け上がった。
このまま母さんのおしゃべりにつきあったりしたら、さっきの感じが全部どこかに飛んでいってしまいそうだった。一刻も早く、ひとりになりたかった。
部屋に戻るなり、さっきの感じがよみがえって来た。
何だか胸がきゅっと絞られるように苦しい・・・・・このまま死んじゃうんじゃないかと思うくらい・・・・息がとまりそうなくらい苦しい・・・。
僕はポケットの中から、そっと、さっきの金色のリボンのかかった箱を引っ張り出した。
すごくいい匂いがする。・・・・・チョコレートの甘い匂いのほかに何だかドキドキするような甘酸っぱい香りがした。
金色のリボンを外すのが何だかもったいなくて、そのくせ早く中身が確かめたくて、・・・・僕は興奮のあまりほとんど窒息寸前だった。青い包み紙を外すと、中は光沢のある黒い箱で、その大人っぽい雰囲気はまさにあの人にぴったりだった。僕はドキドキしながら箱の蓋をあけた。
その中にあるものを見て、僕は一瞬息をすることさえ忘れてしまいそうだった・・・・・。
ハート型の厚みのあるチョコレートに金色の文字で「Yuli」と書かれている。
僕の名前だった!
あのきれいな人が僕のために用意してくれたんだ!
僕のために・・・・・
僕だけのために・・・・・
僕はチョコレートを前に釘付けにされたように動けなくなっていた。
僕は感動のあまり、ほとんど泣きそうになりながら
あの人に贈られたチョコレートの箱を抱きしめて
そこに、ありったけの思いを込めて・・・・・キスをした・・・・・・。
「・・・・降りてこないわねぇ」
「本でも読んでるんじゃないですか?・・・彼には彼の都合があるんですよ。」
「あっそうだ・・・・ルヴァ、陛下からこれ、預かってきたわ。」
「何ですか?これ?」
「チョコレート・・・。今日、ヴァレンタインデーでしょ。」
「私にもですか?」
「そうよ。守護聖全員とあなたとユーリにですって。全員分名前入りの特注品よ。」
「はぁー、・・・・なんだか、食べたらオスカーに呪い殺されそうですね。」
「大丈夫よ。オスカー様はあなたと違って大人だから、このくらいのことでやきもちなんか焼かないわよ。」
「・・・・あなたもまだまだ男ってものが分かってませんね・・・・。」
「そう?・・・あなた私のチョコレート欲しくないのね。」
「アンジェ・・・用意してくれてたんですね?もちろんあなたのだったら、欲しいに決まってるでしょう?」
「・・・・いい。ユーリにあげちゃうから。」
「・・・息子にあげたって仕方ないでしょう?」
「だって私どうせ男の人の気持ちなんか分からないし・・・・子供の気持ちなら分かるもん・・・。」
「アンジェ・・・ほんの冗談ですよ、真に受けることないでしょう?」
「知らない・・・いつも子供扱いして・・・・・」
「子供だなんて思ってませんよ〜。だいたいあなた、私のことなんかもう何だってすっかりお見通しでしょう?」
「・・・それはどうだか・・・?」
「さぁさぁ・・・部屋にあるんでしょ?一緒に取りに行きましょう。ねっ?」
「やだ、ちょっと・・押さないで・・・・まだお茶が途中・・・ユーリも呼んでこなくちゃ・・・・」
「だから、彼には彼の都合があるんですよ・・・・。私たちにはもっと大事なことがあるでしょうー?」
階下で両親がこんなやり取りをしているとは知る由もなく・・・・・。
僕はその晩、あの人にもらったチョコレートの箱を胸に抱いて寝た。
そして、その晩僕は・・・・・・、
赤いたてがみの龍と戦って、あの人を救い出す夢を見た・・・・・・。
-Fin-
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