2nd stage: 俺と一緒に暮らしてみないか?
Oscar

出会いは、雨の中だった。
少女の視線の下には一匹の白い子猫が、段ボール箱の片隅に身を縮めるようにしてか細い泣き声をあげていた。

『―――みぃ』

冷たい雨に打たれて、子猫が悲しげな声でないた。

「・・・・・・・・・・・」
少女は振り切るように一度立ち去りかけて、 ・・・・・だけどすぐに戻ってきた。
箱の中の子猫が気になって仕方ないらしい。

立ち止まってじっと見つめていたかと思うと、少女は屈みこんでずぶぬれの子猫を胸に抱き上げた。
両手がふさがって傘が地面に滑り落ちたけれど、拾おうともしない。
一目でシルクと分かるドレスが・・・長く美しいブルーの髪が雨に濡れていく中、少女は胸の中の子猫を守るように両腕でぎゅっと抱きしめて動かない。

「よしよし・・・お腹がすいてるのね・・・。
連れて帰ってやりたいけど・・・それができないのよ。」
少女は悲しげな笑顔で、腕の中の子猫をあやすように揺すりながらつぶやいた。


俺は歩み寄ると、地面に落ちた傘を拾って、少女にさしかけた。
「・・・・・・?」
すみれ色の瞳が首を傾げて俺を見上げる。俺は少女に笑い返した。
「名前は?」
尋ねると、少女は少しためらうような表情を見せた後で、俺を見上げて言った。
「・・・・ロザリア。」

俺は、少女の腕の中から真っ白な子猫を抱き上げた。
「よし、ロザリア。・・・俺のところに来るか?」
「ち・・・違うわ!猫じゃなくて・・・・・それは、わたくしの名前ですわ。」
少女の頬が一瞬、朱を刷いたように赤く染まった。
「構わないだろう?今日から俺がこいつの飼い主なんだから・・・好きな名前をつけて・・・。」

猫を抱いたまま立ち去りかけた俺の背中を、少女の険しい声が追ってきた。
「お待ちなさい!」
振り向くと、少女は挑むような表情で俺のことを睨みつけている。
「ちゃんと飼えるんでしょうね?捨てたりしないと誓えて?無責任なことしたらわたくしが許さなくてよ。」
「俺がロザリアを捨てるわけがないだろう?」
「・・・・・・・・」
信用できるか・・・と言わんばかりの表情で唇を噛んでいる少女の手のひらに、俺は笑いながら自分のプライベート用の名刺を押し込んだ。
「心配だったら自分で確認してみることだな。もっとも、そっちこそお嬢さんの気まぐれで三日も経てば忘れちまうのかも知れないけどな。」
言い捨てると、俺は黙って子猫を抱いたまま歩き出した。


「みぃ」
腕の中で窮屈そうに子猫が鳴いた。



特に動物好きというわけじゃない。
大学で乗馬をやったくらいで、これまで小動物には無縁だった。 動物を飼おうなんて思ったことはない。

ただ・・・・

放っておけなかったんだ。
捨てられた子猫を放っておけなかった彼女のように・・・・

雨にぬれながら子猫を抱きしめて
見捨てることも、連れ帰ることもできずにいる彼女を・・・・



「みぃ・・・・」
少女の柔らかい懐から引き離されたことが不満なのか、子猫がまた悲しげな声をあげた。

「お前まで心配してるのか?
馬鹿だな、ロザリア・・・。俺がお前を捨てるわけがないだろう?」

俺は笑うと、柔らかい子猫の頬に頬擦りした。

「仲良くやろうぜ、ロザリア・・・・。」




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