<花しずく>


今でも・・忘れられない・・
胸に、耳に、残ってる。

突然の告白を認めたくなくて
駄々を捏ねた私を諭す、
優しい・・・優しい声。

その、響きがあんまり穏かだったから・・
静かで・・温かかったから。

尚更に切なさが募って・・
とうとう・・泣きじゃくった・・あの日。

濡れた頬を微かにインクの匂いがする
スラリとした指がそっと払って・・・

私の唇を掠めながら
貴方が『替わりに――』と、遺していった

あの囁きが・・・
あの約束が・・・

今日までの私を支えててくれた。

決して、叶う筈もないと
聴いた刹那にも知っていた誓いだけれど・・


最後の悪戯・・・
こっそり忍ばせた小さな実。
貴方は・・・苦笑したかしら?

美しい花霞み・・
貴方が創った杜はまるで、
あの日みたいな花しずく。

もう・・泣いても・・いいですか?

誰も・・居ないから
傍らの櫻にそっと・・
そっと、問い掛けるばかり。


やっと、貴方だけの私に帰れる。
遅すぎた・・と怒ったりはしないでしょう?
やっと、云える。
貴方が好きです。と・・・


柔らかな微風が頬を撫でる・・
唇を掠めるのは言葉ではなくて・・
一片の花しずく。


宥めてくれるのは‥貴方ですか?
それとも・・昔のように言ってくれますか?

おかえりなさいと・・・
ずっと・・待っていましたと・・



―――愛しい貴方の声で―――



FIN


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