<フェイク・プレイ2>



それから・・・数週間。

マルセルは誰にも会わずに自分の館に引き篭もっている。
最低限の執務さえ使用人を通じて持ってこさせるような有様で、さすがに年若い守護聖ばかりでなく 中堅の守護聖達も何事かと思案していたのだった。

「ねぇ、ルヴァ・・放っといてあげても良かったんじゃなかったの?」
「何のことです?」
「マルセルよっ・・駄目よぉ?、しらばっくれても。
何か・・・したんデショ?。」

おどけながら責めてみる・・
夢の守人は、例え口には出さずともマルセルから夢の気配が届くのだと言った。

「あの子がアンジェを慕っていたのは誰でも知ってた事だし・・。
可哀想に、結構・・後まで響くと思うわーあれじゃ。」

「まぁ・・仕方が無いですねー。
憧れだけであったなら私もこんな手段をとる事もなかったんですが・・。」

問い詰めるほどの間も空かずに悪びれる事も無く、首謀者が自分である事をルヴァは、さらりと告げた。

「あの子が彼女を見る瞳は、完全に恋する者のソレでしたから・・
例え小さな芽であっても・・芽とは、次第に育つものです。
手をこまねいていては、後々どんな災いを運ぶかも知れませんからね。」

自分と彼女の妨げと為る者を何人たりとも認めないと・・・
そして、それらの排除には如何なる手段をも選ばないのだ・・。
と言外に彼は、告げた。

そして・・穏かに微笑む。
まるで夢でも見るようなその表情の先にちらりと見え隠れするモノは、明らかに尋常な色ではない気がした。

その恋と言うには余りに強過ぎる執着のあり方に・・・
オリヴィエは、背筋に冷水を浴びた心地を禁じえなかった。


『なにか・・が・・・狂っている?』
ふと浮かんだ・・疑問と言うよりも確信に近い言葉・・心の中だけで呟いた筈のソレが、
知らず、唇を吐いて零れ落ちて―――

微かな呟きな筈のソレは、ルヴァの耳へ確かに届いた。

「そうかもしれません・・いえ・・・そうでしょうねぇ。」
「あの娘に・・アンジェに知れたら?」
「別に・・、構いませんよ。
彼女は、私から逃れる術を持っていませんから・・」
「もし・・もしもよ、『離れたい』と言われたら?」

問われた瞬間、ルヴァの穏かな筈の瞳の中で弾けた剣呑な光が、閃き・・再び、何事も無かったように奥へと隠れる。

穏かなまま・・
さも決まりきった事のように言を告ぐ。
「きっと・・殺すんでしょうね・・。」
そして、自分で殺めた彼女の遺体を喰らい尽くす・・滴り落ちる血の一滴迄、貪るのだと。

そして、
こんな・・強過ぎる執着は知らずに済めばその方がどれだけ幸せか知れない事だと・・

あくまで静かに・・声の主は語った・・
まるで、明日の天気の話でもしているかのように。

「きっと、あの娘はアンタの愛情に引き摺られて・・壊れちゃうよ?・・たぶん二人とも。
ソレでもいいの?」

問われし者は、何も答えずに微笑みを洩らしてゆっくりとその場を立ち去った。

問いし者は、その微笑みから答えに相当するものを読み取とり、彼と彼女に向かって、希望があらんことを・・と祈らずには居られなかった。


永く身に纏わり付くこの世界の破綻、或いは崩壊・・・。
それこそがまさしく隠されし真の望みであると、酷薄な自嘲の笑みには
刻み付けられていたので・・・。





ここは、世界で最も整えられた美しい牢獄。

――故に囚人(めしうど)にならなければ、その酷さ(むごさ)にさえ気付けないのだ。

おとぎ話のように・・・
世の人々の甘やかな憧れを持って語られるようなただ穏かなだけの楽園ではないと・・

夢の守人は今更ながら昏く、思い知ったのだった。

〜胸を締め付けそうなほどに美しい
満天の星空を見上げながら〜


FIN



■ロンアルより!
いただいてしまいました!またしても「まちこです。ワールド」炸裂作品の到着です!
果たして愛情なのか狂気なのか・・・?
あまりにも深い強い愛情が妄執となり、マルセルの憧れを踏みにじり、アンジェを縛りつけ虜にするルヴァ様・・・・。彼が狂っているのか、この世界がどこか歪んでしまったのか?
まちこです。様のどこか不条理で、切なくも美しい世界をお楽しみください。


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