<フェイク・プレイ1>




柔らかな日差しが刺し掛けたばかりの早朝・・・

マルセルが丹精込めている花壇には、今日も可憐な花々が朝露を受けてキラキラと輝いている。

そんな、今朝一番に咲いたばかりの花たちを少女めいた華奢な指先が摘み取り、可愛らしい花束を作り上げた。

「アンジェに持って行ってあげたら・・
ふふっ、きっとすごく喜んでくれるよねっ」

明るくて・・優しくて・・ちょっぴり泣き虫なアンジェ。
僕の・・・大好きな女の子。

森の湖で待ち合わせをして・・
今日はどんな風にして過ごそうか・・

ワクワクとそんな事を考えながら歩けば、約束の場所に辿り着くのはあっという間だった。
そこにももちろん花は咲き、柔らかな香りを振り撒いてはいるけれど、この花は違う――これはアンジェだけに捧げるものだから。
この花束を持ったアンジェに『好きだ』っていうんだ・・・
きっと微笑んでくれる。
きっと僕の事、『好き』って応えてくれる。



――キットダイジョウブ・・・。



そして、木々の合間に彼女の姿を見つけ・・・
『アンジェ!』
と、上げそうになった声をすんでのところで飲み込んで、替わりに訝しげに小さく囁いた。

「・・ルヴァ様?」


そう、そこに居たのは、アンジェだけではなかった
どうして・・だろう?・・・不安が急に襲う。
何かが、此処んいいてはいけないと
すぐにでも戻るべきだと告げる。
でもそれが何故なのか解らないうちは動く事もできない。
そう・・その時は仕方のないこと。

マルセルにとって・・余りにも曖昧すぎる予感だったので。




まだ、待ち合わせの時間には余裕がある。

そうだ、もしかしたらルヴァ様は――
何か急な御用でアンジェを訪ねたのかも知れない・・・


何故か、声を掛け辛くて――
でも、気になった。

何が話されているの・・?
これ・・この気持ちは・・何?
何だか・・気持ち悪いよ。
これが、嫉妬って・・いうものなの?

マルセルはふらふらと向こうからは見えずこちらからは見え、声も耳をたてていれば、何とか微かに聞こえる、繁みに身を隠した。
自分の中で渦を巻き始めた感情に操られるように・・・

こんな風に聞き耳を立てる自分がとても悪い事をしているような気がしてくる。
どうしてこんな事をしちゃうんだろう・・
普通に声を掛ければ良いのに・・
いつもみたいに、どうしてできないんだろう・・
ちらりとそんな風にも思った。

だが・・まるで運命が嘲うかのように切れ切れに耳へと届ける会話がすぐに注意を引き付ける。

ルヴァ様が・・僕は来られなくなったと嘘を言っている。
アンジェは・・素直に頷いて・・ルヴァ様に寄り添って・・そして・・二人の間の空間が無くなった。

唇が合わさる。
一度どころではない・・・何度も。

時折、息苦しそうにアンジェが開けるのを狙い済ましたようにルヴァが舌を差し入れ、
初めのうち戸惑いを見せていたアンジェも段々とルヴァと同じ行為に没頭して・・
最後には音さえ聞こえそうなほどになっていった。

ルヴァはアンジェを唇と舌で翻弄しながら手馴れた様子でアンジェのブラウスのボタンを外しに掛かっている

アンジェは嫌がらない。
・・それどころか、潤んだ瞳はまるで・・
続きを・・続きの愛撫を待ち望んでいるかのようだ。
明らかにはじめての行為ではないソレ。

もう、服は着ているというよりも、辛うじてぶら下がっているといった態で微かに上気し始めた色の肌をそこかしこに覗かせている。

真っ白でまろやかな実が、待ち侘びたように服の間から零れ落ちるとルヴァの両手が揉みしだくように背中から包んだ。

ルヴァの身体で隠されていない分、かなり克明に見えてしまう・・
指先の刺激を受けてアンジェの身体がピクリピクリと反応する様や上気した頬に、握り締められる度にふにふにと形の変わる乳房まで。

何事かルヴァが耳元で囁く声にイヤイヤと首を振るアンジェ。
それなのに・・唇からは甘い快感を歓ぶ声が零れ始めている。

ルヴァが・・確実に引き出しているのだ。
日頃の様子からは想像も出来ないほどの巧みさで指が弄り、唇が捉え、律動がアンジェを翻弄していく。

その眺めは、なんて・・煽情的なことか・・・。

最早・・・誰が傍に来たとしても溺れきっているアンジェには気が付きもしないのだろう。

壊れそうな程揺さ振られた身体が悲鳴を上げながら仰け反り、そして・・弛緩した。



堪らなく憎らしかった・・・
淫らに快感に全てを委ねきっている彼女も、
そんな風に彼女を染め替えてしまったルヴァも、
そして・・・

何も出来ず、視線を反らす事も出来ないのに・・・そのくせ、気付かぬ内に熱を溜め込んでいる自分も。



無意識の内に・・きつく握り絞めた手の平に、小振りの花束の茎は簡単に潰されていく。
「ツッ!」
けれど・・その中に混ざっていた薔薇の棘は、まるでその代償であるかのように・・あるいは抵抗するようにマルセルの皮膚に食い込んだ。
―――それでも緩めたりはしない。

食い入るように視線は二人を捕えたまま・・

――無邪気で愛らしいアンジェ。
――優しくて穏かなルヴァ。
――童話のように穢れのない聖地。

そんな、自分の信じていたものが、片端からガラガラと音を立てて砕けるような衝撃が、マルセルを翻弄していた。







「クフッン・・ゥアア〜ンッ・・・ヤァ〜ッ!!・・・」
嬌声とも悲鳴とも付かない叫びを上げ、アンジェは二度目の絶頂を迎えた。
「・・イッちゃいましたか・・?」
クタリとした体は、意識も飛ばされているようで全く動かなかった。

「・・・彼も行ってしまったようですねぇ。」

ルヴァは、誰も聞く人も居ないその場所で一人ごちた。

そして・・・
初めて繁みの方に視線を向けて、探るようにしてみれば・・・既に緑の守護聖は、去ったらしく花だけが来た時と変わらぬ薫りを辺りに振り撒いていた。






マルセルが、立っていたと思われる場所には無残にも踏み荒らされた花束が打ち捨てられていた。
それは・・・、ただの残骸ではなく、彼の淡い初恋の象徴でもある。

・・・もう、彼女に今までのような想いを向けることは無いだろう。

「貴方が憎くてしたわけではないのですが・・ね。」

ルヴァは、満足げにもう一度その花を駄目押しするように踏みつけた・・・






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