〜懇願〜
泣き笑いを浮かべている・・愛しいヒト。
貴女の唇がサヨナラと云う。
たった独りでどこか遠くへ行くと言う。
それでも・・傍に行きたいと・・思う、
雪崩込む心を停められない。
これが・・最後の機会なら・・
どうして、
何もせずに居られるというんです?
あの時云えなかった言葉を抱いて・・・
貴女の元へ行けるのなら・・
惜しい物など・・
何も・・何も無いんです。
だから・・傍に居させて下さい。
たった一つの我侭を
どうか叶えさせて下さい・・・
何よりも誰よりも貴女の近くに―――。
柔らかな曲線を描く身体が
光となり・・花となり・・
そして闇へと還っていく・・・
余りにも・・胸が締め付けられるほど美しくて、また哀しくもある光景に二人の守護聖はルヴァを支えたまま、思わず見蕩れていた。
だから・・・ルヴァがとっくに意識を回復させていて、彼と彼女が精神的な会話を交わしていた事に気付かなかった。
―――とっさの対応が鈍ったのは誰の所為でもない・・たぶん何度同じ場面に出くわしたとしても、やはり同じ結末を迎える可能性のほうが高いに違いない。
けれど・・振り返ることが許された者たちは思うのだ。
・・もし、
もう少し早く手を差し出していれば・・
もう・・少しだけ早く気が付いたら、と―――。
「もう二度と・・独りにはさせません
愛してる・・私の・・アンジェリーク・・」
全ての体力を使い果たし、気を失っているとばかり思っていたルヴァが、静かに首を――彼女を失ないつつある虚空――に向けて告げていた。
声音には紛れも無く魂からの決意が宿っている・・・。
その声とその声が持つ真摯な響きと放たれた言葉の意味するものに
二人の守護聖は、はっと身を硬くして・・
支える腕を警めるための物に変えようとした瞬間に、ルヴァは・・自分を支えてくれる四本の腕を突き飛ばすようにして反動を付け、今しがた出てきたばかりの見えざる境界を自ら破った。
「いくなぁぁぁあっ!!」
背後に響く声は最早何の効力も持ち得ない。
・・・それが、ルヴァの最初で最後の我侭だったから。