ひとりごと






新緑に朝露が、輝き・・
花の薫りが、川のせせらぎが、
命の喜びを謳う。

穏かな陽射しと、
柔らかなそよ風が大地を包み込む。

それらの全ては・・・
新女王の慈愛の賜物。








1. 〜密談〜

女王たるべく育てられて資質も教養も申し分ないと自他共認められているロザリアと、
ごく普通の一般家庭に育ったアンジェリーク。

このタイプのまったく違う候補生達は、競いながらも友情を深め、女王と補佐官の地位にそれぞれ就く事になった。



新任補佐官は、密かに不思議に思っていた・・・

・・何故、ごく普通の家庭の出である彼女がそうであるべく育った自分を軽々と追い越して女王になったのか。

そう、即位されたばかりの陛下の・・特異性について。

勿論、掛け替えの無い親友を得る事が出来たのもこの試験があればこそなのだし、
全力を出し切った結果なのだから悔いなどしてはいない。
むしろ、陛下と共に新宇宙を総べる事は補佐官にとって新たな生き甲斐になったのだから・・・

負け惜しみとか、結果に不満があってのことではなくて、でも何かしらの意味があるのなら彼女と自分の治める宇宙の為に知るべきなのではないか・・
聖地を離れる前のディアのもとを訪ねたのは、そんな理由からだった。


「さあ、冷めないうちにどうぞ。」
コトリと差し出された紅茶の薫りが、微かに立ち上る。
「ディア様。わたくし・・お訊ねしたいことがあるのですが、宜しいでしょうか。」
その、珍しく急いた様子に・・
ディアは、微苦笑しながらもきちんと答えた・・

ただし、唇に指を当てる仕種をしてから・・
そう・・、それは万世共通の他言無用の合図。



「この度の女王試験には、旧宇宙の存亡がかかっていた事は、もう・・ご存知ですね。」
「ええ・・」
「今までのように只の代替わりするだけの交代なら、試験など必要なく、ロザリア・・貴女が女王となったことでしょう。」
「・・・・」
「でも・・宇宙は、貪欲に生まれ変わる為のエネルギーを欲していたのです。
なにか・・型破りの爆発的な新しい要素を私達・・私と陛下は、早急に見つけなければなりませんでした。」
「それがあの娘だった・・と言うわけですのね。」
「そう・・上手く育つかどうか、甚だ心許ない・・ 可能性ばかりは、とんでもなく尋常ではない質量を秘めて眠ったままの新芽・・それが彼女でしたわ。
でも、早過ぎる即位は、余りに微小な新芽を潰しかねない・・
使い物に成るかどうか見極めもしなくては成らない。
掛かっているのは、宇宙の存続そのもの・・
だから、保険はいくら在っても足りなかったのです。
迅速に、この宇宙を救い上げるまでに成長させる為には、手段は多くを選べない。
騙しに近いやり方でも、競わせる事が一番だと・・私達は、判断しました。」
「そして・・その成果がここにあるということですのね、これで得心が行きましたわ・・
わたくし、負けはしましたけれどとてもすっきりした気分なんですのよ・・
あの娘は、頑なだったわたくしの心まですっかり解いてくれました・・とても自然に、あっという間にです。
でも、却ってそれが、不思議で・・疑問の素になっておりましたの」
「ええ、貴女方二人は見事にお互いの力を引き出しあってくれたわ。
陛下の未知数の力が宇宙を救ったのです。 でも、彼女の破天荒さはそれだけに留まらなかったのよ・・。」
「それは・・、一体どういうことなんですの?」
「サクリアは宇宙に拡がる特殊高エネルギー体・・」
「拠って特定の個人・物品等に譲渡・・または、蓄積されることはない。女王学の初歩・・ですわね・・それが何か?
・・・・まさか!。」
「ええ、そのまさか・・よ。
彼女の柔軟なサクリアは、水のように流れたり溜まったりできるの・・
私達もそこまでは予測して居なかったから、とても驚いたわ。」
「このことは、誰かご存知なのですか?」
「いいえ、私達と貴女だけよ・・現陛下が、この宇宙を一番に愛してくださっているうちは、必要ないことですもの。でも・・」
「でも・・?」
「そうでなくなった時、ロザリア新補佐官、貴女が助けてあげて下さいね。
恐らく、貴女しか居ませんわ・・宇宙と陛下をよろしくね・・。」

永きに渡って宇宙を支えてきた元補佐官は、謎めいた笑みを残して優雅に聖地を去って行った。




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