想囁匣-orgel-





一列に並んだ金櫛が弾かれて音を立てる仕組みの匣。
裏返して可愛らしいゼンマイを巻き上げる。
キチチ・・微かに巻かれる音ともに段々と手応えが強くなる・・

コトリ。
テーブルに置くとマホガニー色の表面が滑らかに艶を弾く・・
小さな鍵穴にキーを差込みカチリと廻した。

もう・・どのくらいになるだろう・・あのヒトに会えなくなってから・・・。
今・・何処で・・何をしているんだろう・・この鍵をくれたあのヒトは・・。
閉じ込めていた筈の疑問が、泡のように心に浮かびあがる。

普段は、考えないようにしていた。
自身の特殊過ぎる今の在り方故に・・
そうしないと・・・
苦しくて――押し潰されそうだったから・・・

そして・・彼女は・・深く息を吐いて・・

蓋をそっと開いた。

いくつものピンが弾かれて・・澄んだ音色が重なる・・
零れるのは、優しく切ないメロディー・・・

そして・・・
ビロード張りの小さな空間に
宝玉のように大事にしまわれていたのは、ほんの少しだけ色褪せた紅いリボン・・

―――遠い日・・・彼女の髪を飾っていたモノ。


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