想囁匣-orgel-5 あれからまだ ほんの少ししかまだ経っていない気がする。 だけど・・・ 人伝いに届けられた・・鍵の掛かった小振りの匣 今日は12月25日。 時の流れの違う外界から、ちょうどこの日に着いたのは 果して、意図的なのか・・偶然なのか・・ 開けられるのは私だけだと、訳もなく思った・・・ 大切に持っていたペンダントが鍵穴にピタリ、とはまった。 ―――待ち望んでいた片割れを見つけたかのようだった――― 〜流れ出るのは繰り返す旋律〜 そう・・まるであのヒトそのもののように。 とても優しくて・・優しすぎて・・ 戻らない時間と同じだけ残酷なメロディー・・・ だって・・・あのヒトはもういないんですもの。 ねえ・・・お願い・・貴方の声を聞かせて・・訊きたい・・・ ねえ・・独りの日々を貴方はどう過したの? 私の事をどう想ってくれていたの? 鳴らない匣を・・・紅いリボンをどうして大事に持っていたの? どうして・・・私の元にこの匣は届いたの? どうして・・・どうして・・あの日云ってくれなかったの? 泣きたいほどに優しい旋律じゃなくて 聴きたいのは貴方の言葉なのに・・ 穏かな音律がそっと撫でていく 全ての答えを含んでいるように・・・ そして・・硬く凝っていた心を解すように・・・ ――いつも・・貴女を愛しています・・何時までも―― 封じられた想いを優しく囁く・・ 幾度も・・幾度も・・繰り返される音の粒たち。 あの日流したきり・・封印していた感情がゆっくりと心を満たして・・溢れ出す。 顔を覆った指の隙間から・・雫が匣に零れ落ちる・・ 一つ・・二つ・・ やがて・・後から・・後から・・途切れる事無く。 しだいに途切れがちになる旋律は・・ やがて・・ 微かな嗚咽に取って替わられていった。 FIN ■ロンアルより〜 |