想囁匣-orgel-4 貴方が聖地を離れる日も・・変わらずに務めた。 微塵も気取られないように細心の注意を払った。 それが貴方に求められた私の姿だと信じて・・・ 貴方を辱めることだけはしたくなかった。 私のたった一つの心の証明。 どんなに苦しくても・・・それだけが私を支えた。 客観的には極普通の・・主観的には余りにも短過ぎる謁見が終わって、貴方は出口に向う・・恭しく臣下の礼を深くとって。 そして・・優しい・・優しい微笑を浮べて・・ 謁見の間の扉の前で・・たった一度、振り向いた。 世界で一番綺麗なアクア・マリンの髪がふわりと流れ・・ まるで・・スローモーションみたいに私を魅了した。 ――もしかしたら――心のどこかで期待している私が居た。 永い・・永い一瞬が過ぎた。 とうとう・・欲しかった言葉は貰えなかった――。 もう・・次元回廊を渡ってしまった頃かしら・・ きっともう・・二度と逢えない。 私は・・どうして泣きもせず、縋りもしないでこんな所に居られるんだろう? 呆然としてる自分。それを見下ろしてる自分。 ・・・一部分では不思議に思い、また別な所で苦笑している・・ 私がまるで何人かに分かれてしまったようだった。 どのくらいそうしていたのか・・・ ロザリアに声を掛けられて我に返った。 「リュミエールから・・陛下へお渡しするよう・・言付かって参りましたの」 補佐官に渡されたのは 金色の鍵の小さなペンダントヘッドの首飾り。 〜貴女が・・幸せでありますように〜 小さなカードが添えられていた。 ―――私も・・・追いかけることは・・出来なかった。
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