〜Blue Blue Eyes〜

12. Blue Eyes


シャトルの扉を閉めれば、薄暗い通路が続く。
背中を扉に預けると人知れずため息が漏れた。
「やっぱり、俺には出来そうにないな・・あの2人のようには・・・。ふっ・・強さを司る炎の守護聖か・・本当に強いのはあの2人のほうだ。」
新女王が決まって1週間。
こうしてルヴァと2人で惑星の踏査に出るというのも何かの縁なのだろうか。
ルヴァの襟元を飾る深いグリーンの宝石。
新女王がいつもピアスにしている物と同じ物だと言うことは気が付いている。
すっと扉から離れて、隣になる自分の部屋へと戻りながら思う。
俺には同じ事が出来ただろうか?・・と
同じように女王候補に恋をした。そして同じようにその思いは通じ合った。なのに・・・・。

部屋に戻ってそのまま灯りも点けずにベットに腰掛ける。
窓の外には流れゆく星々。
出がけに少しだけ顔を合わせた補佐官と交わした会話を思い出す。
「陛下が、最後の夜におっしゃったの。・・・・わたくし思いましたわ。本当にお強いのだと。わたくし、もし逆の立場だったら言えなかった。いえ、思いつきもしなかったかも知れない。」と・・
そうなのだ・・。
『自分たちのことを気遣ってよそよそしくするのは嫌よ?』と
そしてルヴァも・・このシャトルに乗ってすぐにこう告げた。
『私たちのことは気にしないでいいですからね〜。ちゃんとお互い納得してこうしているわけですし。ロザリアは素敵な女性ですよ?貴方もぼさっとしていると、他の誰かに取られてしまいますよ?』と・・・
全く持って・・・・
「俺としたことが、どうやら臆病になっていたらしいな。」
すっとベットサイドのスタンドに灯りを灯し、携帯用の通信システムを起動させると、一気にキーボードをはじきそのまま送信した。
「ロザリア・・・・。俺たちは、あの2人の分も幸せにならなきゃな。」
まぁ、それはまだ先の話しだろう。
俺か、君か、どちらかが任を終えたらその時は・・・・。
すっと、旅行用のトランクの底に忍ばせてあった、一品を取り出すと、今来た通路を逆に戻る。
「おい、ルヴァ・・まだ読んでるのか?・・・先は長いだろう?とりあえず今日はつき合って貰うぜ?」
ポンとルヴァの手から報告書を取り上げると代わりにグラスを持たせる。
「オ、オスカー・・私はその、強いお酒は〜。」
「解ってるよ。・・カティスからの最高級品だ。もちろんアルコール度は低めの奴を選んできたさ。」
軽くウインクを投げるアイスブルー。その冷たく鋭い視線がこの宇宙空間の僅かな光の中で優しく輝いた。







「陛下・・・。お手が止まってらっしゃいますわ。」
聖地。女王執務室。
つい先ほど出発したシャトルが気になるのか、先ほどから女王の手は止まったまま。
「気になさるのも無理は無いですけれど・・・・。他にも片づけなければならない仕事は沢山ございますのよ?」
「わかってるわよ〜、ロザリア。」
そうは言っても、やはり気になるのか、視線は書類の上を滑るだけのようだ。
「仕方ありませんわね。シャトルが着くのは聖地の時間でお昼頃。それまで休憩にしましょう。即位してから今まで休みなしでしたもの。そのかわり!お昼からは休憩無しですわよ?」
「いいの?・・・ありがとう!ロザリア!」
「仕方ありませんわ。ぼーっと机に座ってられるだけじゃ意味ありませんもの。」
そう言って、お茶の準備を始める補佐官。
やっぱり・・・と思う。口ではどんなに大丈夫と言っていても、心はそう簡単に振り切れる物ではない。それは自分が一番よく分かっている。わたくしだって、心配なんですもの。
「ロザリア、ごめんね。私、頑張るって言ったのに・・・。」
いつになく落ち込み気味の女王にお茶の用意を調えながら答える。
「陛下・・・・。いえアンジェリーク。言ったはずよ?辛いときは少しでもわたくしの事思い出してほしいと。もっと頼りにしてほしい物ですわ。貴女の気持ち、きっと今はわたくしが一番よくわかるはずよ。」
すっとカップを置く。甘いロイヤルミルクティの香りが漂って、そして
「アンジェリーク・・・・わたくし、本当に良かったと思っているの。こうして貴女と試験を受けられたことが。そしてこうして貴女の補佐官でいられることが。」
そう、その時が来るまで、わたくしはこの女王を立派に補佐してみせる。わたくしのたった1人の親友を・・・
真っ直ぐに見つめるロイヤルブルー。聖地の穏やかな日射しを受けて、その瞳がいっそう深い蒼を映し出す。

即位式から1週間。第256代女王アンジェリークの納めるこの新宇宙は、新しい聖地はまだ始まったばかり・・・・。

 

-Fin-
 

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