〜Blue Blue Eyes〜

11.女王試験
ふぅ・・・とため息が漏れた。
「ずいぶんと、離されてしまったのね。」
目の前に机の上には今日の育成結果。
あの日から、アンジェリークの身体から金の光が溢れたあの日から数週間。
見る間にエリューシオンは発展を遂げた。
これが、貴女の、女王の力なのかしら。
多分今日・・・・、アンジェリークが今日育成を行えば試験は終了するだろう。彼女が、アンジェリークが新女王となって・・・。
コンコン。
「オスカー様!」
「ちょっと出かけないか?ロザリア・・・。」
すっと差し出された手を迷い無く取ると小さくうなずく。きっと今日が最後なのだろう。この飛空都市でこうしてこの方と共にあるのは・・。
「着いたぜ。」
オスカーの走らせる愛馬が止まる。この場所は・・
「3度目、ですわね。」
「あぁ。もっとも今は季節じゃないからな。マーガレットは咲いていないが・・。」
人の手の全く入っていないマーガレットの野原。最初に来たときは心に迷いがあった。さりげなくでも的確にわたくしの心を射抜いたあの言葉。
そして、この花たちがなければきっと、今のような気持ちで試験を終えることも出来なかった。
それから、次にここへ来たときは・・・・・。

僅かにカーテンから朝日がこぼれている。
「もう、朝なのね・・。」
ゆっくりとベットから起き出す。ジャッとカーテンを引けば・・
「っ・・・。」
ベットに入ってもなかなか寝付けなかった。僅かに眠ったと思ってもすぐに意識が浮上してくる。
寝不足気味の目に少しきつい朝日をもう一度カーテンで遮って、ゆっくりともう1度昨日の事を考えようとしたその時だった。
「ロザリアさん。起きていらっしゃいますか?」
特別寮つきのメイドがドアの前から遠慮がちに声をかけた。いつも朝の早いロザリア。きっと起きているだろうと思ったのだろう。
「どうなさったの?こんな朝早くに?」
少しいぶかしげにドアを開けるとメイドは軽く挨拶そして1枚の紙を手渡した。
「炎の守護聖、オスカー様の使者の方がこれをお渡しするようにと・・。」
「オスカー様が?わかったわ。ありがとう。」
昨日の事もあり、自分でも落ち着きが無いのが解る。急いで中を開けると其処にはいつもと同じようにオスカーの文字が並んでいた。
『昨日は夜遅くに本当にすまなかった。きちんと寮に帰れたか?・・さっきまでジュリアス様と今後の事を相談していたんだ。これから会議に入る。詳しいことは今は、話せない。だが、会議が終わったら直接君に話しをしようと思う。今日は土の曜日だろう?大陸の視察が終わったらそのまま研究院で待っていてくれないか?俺も会議が終わり次第迎えに行く。時間が余り無いから詳しいことは書けないが・・それまで待っていてほしい。』と・・・・。







「寒くないか?ロザリア。」
飛空都市。聖地とは違い少しだけ季節の巡る場所。昼間はもう夏と言っていいほどの日射しだが1日が終わろうとする夕暮れはそれでも少し肌寒い。
「大丈夫ですわ、オスカー様。・・・ここに来るとなんだか色々思い出してしまいますわ。この試験の事を・・。」
あの時、初めてこの試験の行われる意味を知ったのもここ。
オスカーからの手紙が届いて、そのまま研究院に残っていたロザリアを連れて、会議が終わって駆けつけたオスカーと共にここに来たのはすでに太陽が西の空に沈み込もうとしていたときだった。
そして知ったのだ。この試験の持つ大きな意味を・・。新女王に必要な条件を。

不意に一陣の風がロザリアの長いロイヤルブルーの髪を揺らす。その風に少し肩を縮めたのを見てふわりとオスカーのマントが空を切る。
「ありがとうございます、オスカー様。」
「そういえば、あの時もこんな風が吹いたな・・。」

初めて、この女王試験の真の意味を知った。あの日。
新女王になるには、今までのように、宇宙を守り維持するだけでは勤まらないと言うことを・・。
そう、新しく創世することの出来る力が必要なのだと・・。

ふんわりと暖かいマントの中。
「わたくし、後悔しておりませんわ。この試験のことを。むしろ感謝しておりますの。こうやってここで試験を受けることが出来たこと。アンジェリークと出会えたこと。そして、オスカー様、貴方に出会えたことに・・。」
「ロザリア・・・。」
「生まれたときからずっと、わたくしは時期女王候補として育てられました。でも選んだのはわたくしですわ。女王になりたいと、それを目標にしたのはわたくし自身。そして、この試験が始まるときもわたくしは思っておりました。時期女王になるのはわたくしだと・・・・。」
「もし、宇宙がこんな状態で無ければ、滅びに向かう時期でなければ、女王は君だっただろうな、ロザリア。それだけ君の育成は素晴らしかった。きっと歴代の女王の中でもあれだけ完璧に大陸を発展させられた女王はいなかっただろう。」
「そうでしょうか?・・・そう言って頂けるととても光栄ですわ。ですが、今は、守り発展させるだけの力では宇宙を守れない。新しく切り開くそんな強さを持った女王が必要なのですわ。そして、それはわたくしには無い力・・。もし、あのままアンジェリークと仲違いしたままだったらわたくし、こんな気持ちになれなかった。」
すっと視線をはずしてそのロイヤルブルーは前を見つめる。沈み行く太陽を見つめるその瞳に強い意志が灯る。
「オスカー様、わたくし、補佐官になろうと思いますの。」
「補佐官に?」
「えぇ。女王になることはわたくしの目標でした。だからといって、女王になれないから補佐官になる、と言っているのではありませんわ。」
ゆっくりとマントから抜け出すと、真っ直ぐに太陽に背を向けてオスカーの前に立つ。
「こうして試験を受けていく中でわたくし、気が付いたのですわ。わたくしがこうして女王候補に選ばれて飛空都市に来た意味が。わたくしはアンジェリークと出会うためにここに来たのだと、そう思っていますの。
あの子の力はとても強い。今までの女王の中でもきっとあれだけの力を持った女王はいないと思いますわ。そしてあの行動力。つまずいても窮地に立たされても、あの子は何時だって笑顔で周りを安心させる。そして思いもかけぬ行動で危機を乗り切ってしまう。わたくしには出来ないことですわ。
でも、心配じゃございません?あの子が女王になったら・・・誰かがきちんと手綱を締めていないと。」
そう言うといつもの優雅な微笑みが現れた。
「そしてそれが出来るのは、このわたくししかおりませんわ。オスカー様。」
「ロザリア・・・ふ・・・あははは。」
突然笑い出したオスカーに一瞬その瞳が見開いて、小首をかしげる。
「あぁ、すまない、ロザリア。あまりにも君らしいというか、俺が心配することなど何もなかったな。」
そう言っていつもと同じあのウインクが飛んだ。
「さすが、お嬢ちゃんだ。自分の目標は自分で見定める。俺はそうして前を見つめる君が好きなんだ・・。ロザリア。君はいい補佐官になる。きっとアンジェリークも安心するだろう。」
「ありがとうございます、オスカー様。」
すっと隣に並んで暮れゆく夕陽を共に見つめる。この太陽が落ちれば・・・そして次にこの太陽が上がれば・・女王は決定する。
「ロザリア。」
先ほどと違って真摯な声が届く。
「本当は迷っていたんだ。言うかどうか・・・。」
真っ直ぐに見つめる視線は、冷たいアイスブルーなのに、その奥には熱い思いが見え隠れする。
「いつか、君か、俺か・・どちらが先かは解らないが。その任を終えたその時は・・・・。俺と共に生きてくれないか?」
「オスカー様・・・。」
「解っているんだ。これが自分勝手な思いだということは。ルヴァと・・アンジェリークの事を考えれば・・・。」
そう自分たちはいい。守護聖と補佐官なら、例え恋人としていることは出来なくても聖地で顔を合わせることは出来るのだから・・。
「ルヴァとお嬢ちゃんがどうやって結論を出すのか、どんな話しを交わしたのか俺は知らない。知らないがどんな思いで今を過ごしているかはわかる。そしてこれからも・・・だから俺は、俺のもてる限りの力を持って、アンジェリークの新女王の力になろう、炎の守護聖として。それは・・ロザリア、君も同じだろう?」
「えぇ、オスカー様。」
「俺たちはきっと、忘れないだろう。あの2人の選んだ道を・・・。そして思いも。」
「オスカー様・・・わたくしは・・。」
「答えは急がないさ。ロザリア。君にとって初めて出来たそして最も大切な親友だ。恋人の代わりは作れても、真の友人を作るのは難しい・・・。ただ、心の何処かにでも覚えておいてくれないか?」
きゅっと、繋いだ手に力がこもる。
忘れる事などないだろう・・・・。生まれて初めて持った淡い思い。
でも、わたくしは、今はまだ・・・・答えは出せそうにない。

 

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