Diamond Tears -1- <ルヴァ&アンジェリーク>
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ゆっくりと、目の前の机に置かれたカードを見つめる。 不自然に折れ曲がったその跡にそっと指を添えれば、自分の手ではかなり窮屈な事が解る。 あの日、確かにこのカードは、彼女が、アンジェリークが握っていたのだと突きつけるように。 そのまま、反対の手で引き出しを開ければ其処には出番を待つ舞台俳優のように少し緊張してその紅いリボンが揺れた。 全ての準備は、整っていたはずだったのに・・。 ディアからその招待状を受け取って、・・少しでもこのパーティが楽しくなるようにと。 何か想い出に残るようにと、自らがアンジェリークの喜ぶ顔を想像して選んだ。 そしてもう1つ。 自分ではどうしても作れないそれを頼んである。 きっと今頃はアンジェリークの元へ届いているだろう。 薄く、それでいて羽のように軽い。彼女の金の髪にも翡翠の瞳にも似合う薄いピンク色。 なのに、どうして私はあの時、あんなに後ろ向きな言葉しか掛けられなかったのだろう。 ・・・・・・・・・ 「ディア様からですか?」 ディアから招待状を受け取った次の日の事・・。 オリヴィエにアンジェリークのためのドレスを作ってくれるように頼んで、自分では彼女のためのプレゼントも用意して、後は彼女に招待状を渡すだけ・・。 「えぇ。試験を頑張っているあなた達のためにと、企画してくれたそうですよ〜。」 ゆっくりとそのカードを手渡すと、真っ直ぐにその翡翠の瞳が見開いた。 「わぁ・・凄い楽しみです!ルヴァ様!」 無邪気に喜ぶその顔に・・・・私は戸惑ってしまった。 本当に私でいいのだろうか?・・・と。 「そうですか〜?それは良かったです・・。そうですね・・・。今回のパーティは飛空都市で生活する全ての人のためのもの。」 「じゃあ、とても賑やかになるでしょうね!」 「えぇ、きっと・・。ただ私は華やかな場所は苦手で・・。貴女と一緒にと言われたのですが・・。もし良ければ他の方とでもいいのですよ〜?」 「え?」 「いえね・・。私だと、一緒にいても華やかな雰囲気に負けていつもみたいにただ説明じみた話しをしてしまうでしょうし・・。ゼフェル達若い人と一緒の方がこういったパーティは楽しいかも知れませんねぇ・・。」 そう・・自分では、せっかくの楽しいパーティでもまたいつものように説明じみた話しばかりして退屈させてしまうのではないかと・・せっかくの楽しい企画なのだから、同年代の彼らの方が、アンジェリークも楽しめるのではないかと・・そう思ってしまった。 「・・・ルヴァ様は、私と一緒じゃ楽しくないですか?」 「え?」 彼女の顔から、いつもの元気な笑顔が消えていく・・。変わりに寂しさを絶えるような苦笑いと・・・・。 「そうですよね・・私、落ち尽きないし子どもっぽいし・・。一緒に行ったら疲れちゃいますよね。」 「アンジェリーク?」 こらえきれなくなった涙の雫が彼女の翡翠の眼からこぼれ落ちる。 「・すいません。ルヴァ様。私・・失礼します!」 「あ!待ってくださいアンジェリーク!」 ぱたんと扉がしまって・・・・。床の上には彼女が落とした一粒の雫と、握りしめられていたカードだけが残された。 |
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コンコン・・と、ノックの音。 「オリヴィエ様・・。」 部屋のドアを開けると、小脇に大きな包みを抱えて、夢の守護聖オリヴィエが立っていた。 「こんにちわ、アンジェリーク。少しお邪魔させて貰うよ。」 そう言うと、すっと部屋の中に入り込んで、そのまま包みを開ける。 「オリヴィエ様・・・・これは?」 「ふふ・・。頼まれちゃったんだよ。・・ルヴァにね。」 「ルヴァ様が?」 「あの人も、そんな性格というか、慎重というか・・・。ディアから話しがあったその日のうちにやってきてね。きっとあんたにはこう言うのがあうと思うからってさ・・。」 ふわりと包みから取り出したのは極薄いピンク色を基調にして、ふわふわした、やわらかいドレス。 「私も、あんたのために頑張ったよ。ま、これは私からのクリスマスプレゼント。って事にさせて貰おうかな?」 「オリヴィエ様・・・でも・・。」 そうなのだ・・。私はあの日からルヴァ様に逢っていない。 ルヴァ様は本当は迷惑だったんじゃないだろうか?私と一緒にクリスマスパーティに行く事が・・。 「何があったかは聞かないよ。・・・ま、だいたい解るけどね。でもアンジェ・・あんたはそれでいいの?」 「わたし、ですか?」 「そう・・。もしかしたらこれが・・・。最後のクリスマスになるかも知れないよ・・・。」 そうだ。試験はもうすぐ終わる。私かロザリアか、どちらかが女王になって・・・・・。 そしてそうなれば、確かにクリスマスは迎えられるかも知れない。 でもこうやって大ぴらに祝う事など出来なくなってしまう。・・・・もちろん好きな人と共にいる事も。その後、私たちが役目を終えて聖地を離れたとしても、其処に自分たちを知る家族も友達もいない。もしかしたらクリスマスという行事自体無くなっている事だってあるのだ・・・。 「私は・・・」 「あとは自分で考える事だよ。アンジェリーク・・・・。」 じゃあね・・。とそう言ってそのプレゼントだけを置いて。オリヴィエは部屋を出る。 寮から帰る道すがら・・・・。「しょうがないね、全く・・・・。それじゃ、もう少し動いてあげようかな・・・・。」とつぶやいたのを遠く、この日のためにと準備された重い雲だけが聞いていた・・。 |
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