新女王の即位から3日たった午後の女王執務室。 折しも、今の時期、女王執務室から見える中庭の桜は満開。聖地は、今日も平和で穏やか。 「はぁ〜・・・・」 ぱさりと、向かって右側の箱の中へ手にしていた書類を落とす。箱の中は満杯を通り越して今にも崩れんばかりである。 目の前に未だ少し残っている未決済の書類を手にとって、新女王アンジェリークは再び、新しい書類へと視線を落とす。 コンコン・・と規則正しいノックの音。 「失礼します。」という声と共に姿を表したのは、首座の守護聖ジュリアス。 「ジュリアスさ・・じゃなかった。ジュリアス・・ごめんなさい。」 入ってきた人物を捕らえた若草色の瞳は少し、自己嫌悪。新女王になったとはいえ、今まで聖地のことも女王のことも、ましてや執務のことなど何一つ知らなかった少女。 机の上。向かって左側にある箱の中身を確認した瑠璃色の瞳は、少しだけ眉を潜めるがすぐに続ける。 「陛下・・。いつまでも、このようでは困ります。・・が昨日よりもかなり減っているようです。それだけ、陛下がご自分の仕事に責任を持って向かっている証と存じますが?」 すっと腕を伸ばすと、箱の中身全てをその腕に納め、ゆっくりと向き直る。 「このご様子なら、今週中にも解決するでしょう。では、確認ののち、補佐官ロザリアへ提出させていただきます。」 そういうと、一礼して優雅にこの場を去る光の守護聖。 「はぁ・・・・・」 またしても、ため息1つ。ジュリアスが今持っていった物、それは、女王が判断し切れなかった決裁の書類の一部である。 女王になり、宇宙を流れるサクリアやどのサクリアがそれだけ必要なのか。ということはすぐにわかるようになったが、どうしても未だにわからないことがある。 それは・・・宇宙内の惑星への女王府および王立機関としての対応の仕方・・・である。 旧宇宙の虚無の空間を閉じ、聖地へ戻ってきた前女王。前女王はアンジェリークへの引継を行うだけの時間の余裕を持っていなかった。もとより、守護聖と違い女王交代に置いて引継と言う物はほとんど存在しないのだが・・。 たった1つ前女王がアンジェリークへ残した言葉。それは 『自分の思うがままの女王で居ること・・・私がそうだったからといって、貴方が私と同じ女王像を造る必要はない』 ということだけ。 「陛下・・・また、ため息ですの?」 「ロザリア・・・だって、私女王になったのに、わからないことだらけで・・」 やれやれといった顔で親友である女王の顔色をのぞく補佐官ロザリア。わたくしだって幼い頃から聖地や女王府についての勉強をしてきても未だわからない部分があるというのに・・ 「陛下、そのために、わたくしや守護聖が着いているのでしょう?もっと私たちのこと信用していただきたい物ですわ・・。それにわからいのなら聞けばよろしいのではなくて?」 くすっと、彼女特有の笑い。 「え?・・ロザリア・・・?」 「それよりも陛下、手が止まっていますわ。あと少しなのでしょう、さっさと終わらせてしまいましょう。」 「うん、わかった。」 一瞬、とまどった視線も目の前の書類を前に薄れていた。 それを見ている補佐官ロザリアの視線が少しいたずらっぽく細められたのを女王は知るよしもない。
コンコン、と少しゆっくりした穏やかなノックの音。 「いらしたみたいね・・。」 きょとんとした顔の女王を前に、ロザリアはすっと扉を開けると、その人物をゆっくりと部屋へ招き入れた。 「失礼しますね〜。陛下、ロザリア。」 ふんわりと穏やかな微笑み。いつもと変わらない優しいくて知性の宿る深いグリーンの瞳。 「ルヴァ・・。」 驚いて見開くのは若草の瞳、それを見てゆっくりとロザリアの蒼い瞳が細められる。 「先ほど言ったでしょう、陛下。わからなければ、聞けばいいのですわ。そして、その相手に適任なのは彼以外いないでしょう?・・そうですわね、ルヴァ?」 「ロザリア・・・。でも・・」 「陛下。わたくし、これからジュリアスとオスカーの所へ行ってきちんとした打ち合わせをしないといけませんの。新しく見つかった宇宙系、今はデータを集計している最中ですがいざという時の対策をしておかなければならないでしょう?ですから、陛下についている訳にいきませんの。」 にっこり微笑むブルーアイ。優雅な微笑みを湛えたまま軽く一礼すると軽やかに部屋を出る。その顔には、いたずらに成功した子供のような笑顔。 「・・やられましたね〜、陛下。」 くすっと笑う深いグリーンの瞳。 「ルヴァ・・さま。あの・・」 「・・はぁ・・私では頼りありませんか?陛下。」 「いいえ!とんでもないです。よろしくお願いします。」 「じゃあ、早速始めましょうか・・、まず、どの辺からわからないんですか〜。」 すっと執務の机の前に椅子を持ってきて座る。 聖地は平和で穏やか。女王執務室に流れる風は優しく、甘く・・。
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