〜InterMission 1.執務室〜
「なるほど・・わかりました。陛下がお知りになりたいのは、女王府と王立機関がどこまで惑星政府に介入できるのかということですね?」
「はい、そうなんです、ルヴァ様・・。私、その辺の線引きというか、境目が全然わからなくて・・・。」
何回かの質問のあと、相変わらず様付けでよぶアンジェリークにルヴァが問う。
「陛下、もう女王候補ではないのですから、私のことはルヴァと呼んでください・・。」
その言葉が終わるか終わらないかのうちに、問われたアンジェリークはいつもの太陽の欠片のような微笑みでこう切り返した。
「ルヴァ・・・確かに私は、女王になりました。でも、女王になっても私は守護聖様方の主になったわけではないじゃないですか。執務中の事であれば、決断を下すのは私だから、う〜んうまく言えないけど、会社の上司と部下みたいな物でしょう?だから、様はつけないで呼びます。でも、今は、執務じゃないでしょう?それに私は今ルヴァ様に時間を割いてもらってまで教えていただいて居るんです。生徒が先生に様ってつけるのはおかしいこじゃないと思います!それに前女王も言っておられたでしょ?私なりの女王像でやっていったらいいって。」

「わかりました、陛下。・・じゃあ続けましょうか〜」
「はい!」


「たとえば、そうですね〜、この報告書見て頂けますか?」
すっと取り出したのは、前女王の時代のある出来事を記した1つの報告書。
「これは、典型的な例なのですが・・。陛下、聖地には主星などのように形式張った法律という物は存在しません。ですから、歴代の女王達の決断と、そして陛下自身の考え方を合わせて決断していくのですよ〜。」
ぱらぱらと報告書をめくりながら、話す言葉を、しっかりとノートに書き留めていく。
「この事件は最初、惑星内の政治的陰謀から始まりました。そしてそれが近隣の惑星の民達を巻き込み、ひいては宇宙全体のバランスを崩しかねない所まで進んだのです・・。」
ゆっくりとページをめくる音。きっとその時の状況を思い出しているのだろう・・。
「女王は確かにこの宇宙を導く者。ですが、神ではありません。惑星内の政治には一切不干渉それが聖地の掟、どこかの星にだけ力を注いでしまってはそれこそ宇宙の破綻をまねきますからね〜。・・ですが、宇宙全体を見る中でどうしても介入しないといけないときがあります。 それは、惑星間での争いと、宇宙のバランスを崩すほどの危険が起きたとき。ですね・・・。」
「危険・・ですか・・?」
そういってちょっと首を傾げる姿を見て、すっと左側に備え付けの棚から2・3冊のファイルを抜き取る。
「ここに置いてあるファイルは、そういった事例を記録した物でしょう?・・そうですね・・。特にこのファイルは難しい事例が多いようですね・・。もう一度このファイルに目を通してみてください。わからないところが出たら言ってくださいね〜。」
ファイルを手渡しながら、いつものように穏やかに微笑む瞳に、ゆっくりうなずいて、女王はファイルへと視線を落としていった。



「どうですか〜、陛下・・。」
かちゃりと真剣にファイルを呼んでいるアンジェリーク前にお茶が置かれる。
「あ・・。すいません!ルヴァ様、私全然気がつかなくって・・。」
「いいんですよ〜、気になさらずに・・続けてくださいね。」
最初こそ、頻繁に質問を繰り返していたアンジェリークだが、2.3の事例を読み終えた後は1人で判断をし、それぞれの事例についてその時代の女王が決断した内容を確認しながらファイルを紐解いている。
くすっ・・・
「?ルヴァ様?・・」
真剣に読んでいた瞳が目の前に響く小さな笑い声にふっと上へあがる。
「あ〜、すいません、邪魔をしてしまいましたね〜。でも・・」
といいながら依然くすくすと笑う小さな声。
「あの、私、何かおかしな事しましたか?」
そわそわと自分の周りに視線を回す。
「違いますよ。・・・こうしていると何だか試験中に戻ってしまったみたいで・・。
「ルヴァ様・・・。」
「陛下、私は後悔も迷いもしていませんよ〜。今でも、いえ今だからこそ私達のだした判断は正しかったとそう言い切ることが出来ます。それに、私はとても幸せな気持ちですよ〜。こうして陛下と一緒に宇宙を守って行くことが出来る、同じ志を持って生きていくことが出来るんですから〜。」
「そう・・ですよね。・・なんだか、今考えたらあんなに悩んだり、もう死ぬまで2度と会えないと思っていたことがおかしい気がしてきます・・。一緒にこの聖地で宇宙を守っていく仲間なのに・・。」
ちょっとだけ、揺れる若草色の瞳。でもそれも一瞬のこと。すぐに綺麗な決意が重なってゆっくり微笑む太陽の笑顔。
「・・そうですよ〜。私は、戦いとかそういうことには向きませんが・・、知識と言うことならお役に立てることも有るでしょう。ですから、解らないときや必要なときは、遠慮せずにおっしゃってくださいね〜。」
「もちろんです。これからもよろしくお願いします!」

・・そう、貴方は女王。そして私は守護聖。
例え、2人の間に愛を紡ぐ言葉が無くても
思いを交わしあうことがこの先一生無かったとしても
こうして、同じ気持ちを分かち合って生きていける。
それは、どんな愛の言葉より、どんなに深い愛情より
強い絆。
この宇宙に生きる恋人達が、どれだけその絆を求めて
恋をしていくのでしょうね・・・。
私達はそんな、奇跡に近い思いを抱いたまま生きていけるのです。
それは、とてもとても幸せなことだと・・・

・・ねぇ、そうは思いませんか〜?
・・陛下・・



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