コンコン。 「ルヴァ様!どうぞお入りください!」 日の曜日、いつもの時間にルヴァがアンジェリークの部屋を訪れた。 「今日は、迎えに行くとお約束していましたよねぇ・・。あ〜、今日、早朝に私の屋敷の周りを散歩していたときに見つけたんですよ〜。貴女にその、似合うと思ったんですが・・。」 すっとルヴァが後ろに回していた手から手渡したのは、満開の向日葵。 「うわぁ。とっても綺麗!ルヴァ様、ありがとうございます。早速飾らせてもらいますね!・・あ、ルヴァ様座っててください。すぐ戻ってきますから」 パタパタと奥のミニキッチンへと向かったアンジェリークに微笑みながらルヴァは椅子に腰掛けた。 程なく、花瓶に埋けた向日葵と、冷たい緑茶をトレイに載せたアンジェリークが戻ってきた。 「あ〜。アンジェリーク、そんなに持ったら危ないですよ〜。」 すっとアンジェリークから花瓶を取り上げて、テーブルの上に置く。 「すいません、ルヴァ様。」 ぺロッと軽く舌を出して肩をすくめるアンジェリークを見て、ルヴァもくすっと笑って席に着いた。 「ルヴァ様、緑茶がお好きってこの間聞いたので、ディア様に聞いて教えてもらったんです。わたし、緑茶って暖かいもだと思ってたけど、冷たくしてもおいしいんですね。」 手に持っていたトレイから冷たいお茶をテーブルに置きながら楽しそうに話す。 「そうですねぇ。私もじつはディアから聞いて初めて知ったんですよ。聖地ではほとんど気候の変化というものがないので、普段はなんとも無いんですけど。ここは聖地より暖かい日も多いですからね。今日みたいに天気のいい日は冷たいお茶がおいしいですよね。 ところでアンジェリーク、育成で何か気になる事でもあったんですか?」 「え?」 突然育成の話になってアンジェリークはびっくりして、一瞬瞳が暗くなってしまう。 それに気づいたルヴァはいつものようにふわっとした微笑をして続けた。 「いえいえ、違うんですよ〜、アンジェリーク。休みの日にいきなり育成の事なんて言ったら気分を害してしまいましたかねぇ。すいません。ただ・・・」 すっと、窓際にある机の方を指差して 「昨日もずいぶん遅くまで育成のデーターを調べていたんではないですか?」 「あ!」 ぽっと頬を赤くして慌てるアンジェリークに優しくルヴァは続ける。 「何か気になる事があったのかと思ってしまって。ロザリアと違ってあなたは女王候補としていきなり着き付けられた難題も多かったでしょう。わからない、無理だと言って投げ出してしまう事は簡単ですが、あなたは飛空都市に来てから今まで、どんな困難な事でも投げ出さず、答えを見つけようと、努力してきた。あなたのその一生懸命さはとても素晴らしい事だと思いますよ〜?」 「ルヴァ様・・・・。」 驚いたような照れたような表情のアンジェリークを目の前にしてルヴァはちょっと困ったように笑った。 「あ〜、あの、私はあまり話が得意な方ではなくて・・・。その、」 「いえ、違うんです。私、嬉しかったんです。ありがとうございます、ルヴァ様。私、昨日の育成の結果を見てもロザリアに指摘されるまで気づかなくって。やっぱりダメだなぁって。ロザリアみたいに試験の事も育成の事もわからなくって少し落ち込んでしまって。でもそれじゃダメだって、出来る事頑張ってやっていこうって思ったから。今のルヴァ様のお話を聞いて私の考えてた事を肯定してもらったみたいで嬉しくて。だから、ありがとうございます!。あ、そうだ、私、明日ルヴァ様のところに相談に行こうと思っていたんです。ちょっと待っててください。」 そういうとアンジェリークは机の上からノートと昨日の育成データを取って席に戻った。 「ルヴァ様、実はここなんですけど。。。」 「う〜ん、どれですかぁ?あぁこの事ですね。それでしたら・・・。」
窓からふわりと入り込んだ風が向日葵の花びらをそっと揺らす。それに気づかず2人は熱心に話し始めた。
「ルヴァ様!今日はほんとうにありがとうございました。」 ぺこっとお辞儀をしてアンジェリークは微笑む。 「いえいいんですよ〜。少しでもあなたのお役に立てて嬉しいですよ。でもせっかくの日の曜日なのに部屋に閉じ込めてしまったみたいで・・・。なんだか申し訳ないです。」 少し後悔したようなルヴァの表情に慌ててアンジェリークは言った。 「そんな、ルヴァ様にいろんなアドバイスもらえてとっても嬉しかったです!それに日の曜日はまた来ます!その時また出かければいいんですから。」 「そうですか。ありがとうございます。・・・では、私はそろそろ戻りますね。」 すっと席を立って帰りがけたルヴァをアンジェリークが引き止めた。 「あ。ルヴァ様ちょっと待ってください!」 パタパタと机向かい引出しから小さな包みをとりだし足早に戻ってくる。 すーっと頬を赤く染めて恥ずかしそうに包みをルヴァの前に差し出した。 「あの、実は今日これをお渡ししたくて・・・。以前私がロザリアとなかなか打ち解けられなくて悩んでたときにルヴァ様が教えてくれたプレゼントでロザリアと今のように話せるようになったんです。・・その・・お礼に・・」 差し出された包みに驚きが隠せないルヴァはそのまま固まってしまった。 「あの・・。ルヴァ様?・・・・もしかしてご迷惑でしたか・・・。」 しゅんとなって手を引っ込めようとしたアンジェリークの手からそっとプレゼントを受け取ってルヴァは照れたように笑った。 「そんな!迷惑だなんて、とんでもない!びっくりしてしまって、すいませんねぇ。私はこの通りの人間なのでこんな時気の効いた事が言えないんですがとても嬉しいですよ・・ありがとう、アンジェリーク。」 手に取ったそれを嬉しそうに見つめてルヴァは続けた。 「あの、今開けてもよろしいですか〜。」 こくんとうなずいたアンジェリークを見て、手の中の包みを開く。 「これは、・・・嬉しいです。大切にしますねアンジェリーク。」 開かれた包みから出て来たのは、ルヴァの髪の色と瞳の色のグラデーションになった湯のみ。 「これ、見つけたときにルヴァ様見たいだなって。色だけじゃなくて雰囲気とか。だからプレゼントするならこれしかない!って勝手に思っちゃって。でも喜んで頂けて凄く嬉しいです。」 夕方の西日が差し込む部屋で、微笑んだ2人の間で、緑の湯のみはきらきら輝いた。
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