〜真実の絆〜

1.飛空都市
「ん〜。今日もいい天気!」
女王候補のアンジェリークは、朝の太陽を浴びながら大きく伸びをして歩き出した。
「・・そんなことやっていると、また転ぶわよ・・。」
「えっ・・。きゃ。・・・・いたたたた・・・ロザリア〜急に声かけないでよ。びっくりしちゃうじゃない!。」
パンパンとスカート払い、膝のあたりをこすりながら少し涙目になってアンジェリークは答える。
「別に、あんたが転ぶのはいつもの事でしょう?まったくなんであんたみたいな落ち着きの無い子が私と同じ女王候補なのかしら。」
呆れたといった表情で見つめる青い瞳。アンジェリークと同じく、女王候補であるロザリアだ。
「ところで、今日は王立研究院へ行くんでしょう?早くしないと置いていくわよ。」
「あ、待ってよ。ロザリア!」
パタパタとかけだすアンジェリークはまたつまずいて転びそうになる。
「もう!そんなに慌てなくてもわたくしは逃げたりしないわよ。」
苦笑して歩みを止めたロザリアに笑顔を見せて、アンジェリークは彼女と共に王立研究院へと向かった。

ここは飛空都市、次代の女王を決めるための女王試験が行われている場所。本来なら女王候補は聖地に赴きそこで、ある程度の期間研修のようなものを受け次代の女王が決まる。もちろん試験を行いその結果で女王を決める事もしばしばあるが、聖地以外のましてや発展中の大陸を育成して女王を決めると言う事は異例中の異例である。
大陸の発展。即ち宇宙を育む力を育てる事。今の宇宙にとって、必要不可欠の要素を見定めるため、この試験は行われている。・・・そう宇宙は今、滅びの危機に貧している。
・・・・しかし、この2人の少女はこの事を知らない。ただただ一生懸命に与えられた課題をこなしている。やがて来る悲しい運命など知ることも無く・・・・・。


「やるじゃないの、アンジェ。」
「へへ〜。私だって頑張ればこれぐらい出来るわよ!」
28日に1度の定期審査。4回目の今日の審査ではアンジェリークが優勢だった。とはいっても極微小の差で、力の数は6対6。まだまだ、どちらが女王にふさわしいか判断は出来ない。
「でも、女王になるのはわたくしよ。覚悟しておく事ね?」
「まだまだ!わたしだって負けないわ!」
くすくす笑いながら、時限回廊を抜けその足で王立研究院へ向かう。
今でこそ、他愛の無い話まで出来るほど打ち解けているが、試験が開始された当初は2人の間はかなりギクシャクしたものだった。
全く正反対の生活、環境にいた2人はお互いのことが良くわからず、どうやって接していけばいいのかわからなかったのだ。
生まれたときから女王になるために教育を受けてきたロザリア。育成の方法も、質問の仕方・答え方も的を得ていて、守護聖の間でも完璧な女王候補に写った。一方アンジェリークは、一般的な普通の家庭で育ち、聖地や女王など夢物語のように考えていた。育成の方法がわからず、それゆえに何を質問されているのかがわからず、最初のうちは守護聖達も”大丈夫なのか?”という印象があった。しかし彼女の持つ本来の明るさや素直さがはその印象を覆し、今では甲乙付け難い素晴らしい女王候補へと変わっている。
試験の当初お互いの事が気にかかるのになかなか歩み寄れない2人に、アドバイスをくれた人物がいる。炎の守護聖オスカーと、地の守護聖ルヴァ。2人の守護聖がさりげなく、そして的確なアドバイスをくれたおかげで今では、2人は良きライバルの女王候補として、そして17歳の親友同士として生活している。

コンコン。
「ロザリア。今大丈夫かな?」
王立研究院から戻り夕食を済ませ一呼吸ついた頃、アンジェは隣に在るロザリアの部屋を訪れた。右手には今日の大陸の様子や育成記録をまとめたノート。そして左手にはできたてのドーナツ。
「そろそろだと思っていたわ。紅茶でよろしいわね?」
そしてロザリアの部屋のテーブルにも、同じように育成記録と大陸の様子。
「ありがとう。今日の様子でちょっと気になる事があったの。」
「そう、・・でもまず、お茶にしましょう。冷めると味が落ちるでしょ?あなたのドーナツもね。」
くすっと笑いあってテーブルにつくと2人はできたてのドーナツと淹れたての紅茶を楽しんだ。
「それでね、この望みの数なんだけど。今日私が大陸に下りたとき、私今一番必要なのはゼフェル様の力だと思ったの。ルヴァ様の地のサクリアで大陸には発展するための知識は持っていたわ。でもそれをどう具体化していいのかわからないみたいだった。それと今の状態を変える事に少し不安があったみたい。今のままでもいいんじゃないかって。だから今週はゼフェル様を中心にランディ様の勇気と、オスカー様の強さが必要なんじゃないかって感じたのに・・・。」
しかし民の望みは圧倒的に地のサクリアを欲していた。
「そうねぇ。・・ところでアンジェあなた最近サラさんの所に行っているのかしら?」
「え?。」
「・・・全くもう。肝心な事忘れていないかしら?大陸とあんたの相性。それと民と守護聖様の関係よ。」
「!あ・・・そういえば、わたしここ2週間程占いの館に行ってない!!」
こめかみのあたりを押さえてロザリアは呆れ顔でため息をついた。
「そんな事だと思ったわ。アンジェ、大陸は力を与えればいいと言うものじゃないのよ?もう少ししっかりしないと・・やっぱり女王になるのは私のようね。」
ぷぅっと頬を膨らまして、少しすねたようなアンジェリークにロザリアは続けた。
「来週はまず、サラさんの所へ行く事ね。それからそのデーターと今日の大陸の情報を持ってルヴァ様の所へ行った方がいいようね。もしかしたら、それだけが原因じゃないかも知れなんだから。」
「うん。そうするわ、いつもありがとうロザリア。」
「何言ってるのよ。私は完璧な女王候補よ。少しくらい手伝ってあげなきゃかわいそうでしょ?」
にっと口の端を上げて微笑んだロザリアにまた少しふてくされたアンジェだったが、すぐに笑顔になり紅茶を飲み干した。
「ごちそうさま。・・・ところでロザリア、明日の事なんだけど・・・。」
ちょっと頬を赤らめて話す。その様子に育成の話はここで終わりだと気づいたロザリアも薄っすら頬を赤らめ表情を揺るます。それは17歳の本当に普通の17歳の2人の表情。
「えぇ。わたくしの方は準備できているわ。あんた、大丈夫なの?」
「うん!ちゃんと約束もしてあるしね。明日また夕食後にくるから!」
「そう、楽しみにしてるわ。それじゃ、おやすみなさい。」
「おやすみ、ロザリア!」

明日は日の曜日、守護聖も女王候補も、試験を忘れて一時休息をとる時間・・・。

 

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