8.謹慎開け

Luva


2週間の謹慎期間が終わった。
正午きっかりにディアが反省室のカギを開けに来てくれた。
「散々な目に会いましたわねえ」いたわるようなディアに対して
「このところ睡眠不足気味でしたからね。いい休養になりましたよ」と、苦笑交じりに答えた。
ディアに伴われて聖殿に続く長い回廊を抜け、聖殿との間の扉までくると・・・・・扉の影に小柄な人影がたたずんでいるのが見える。
ディアはふと笑顔になると「お迎えが来ているようですわね、それでは私はここで・・・」笑みを含んでさっさと扉の向こうに姿を消していった。

扉の影に立っているのは・・アンジェリークだった。
「アンジェリーク?」
声をかけるのと彼女が鉄砲玉のような勢いで駆け寄ってくるのとほぼ同時だった。音をたてて私の懐に飛び込んでくると同時に彼女は声を上げて泣き出した。
「ごめんなさい・・・・ごめんなさい」
涙でかすれた声で繰り返しながら、後はもう手放しで泣いている。
自分のことをこんなに心配してくれていたのかと思うといじらしさに胸が熱くなった。
「ああ、あなたのせいじゃありませんよ。アンジェリーク」
泣きじゃくる彼女の背中をそっとなでたが、彼女は強くかぶりをふって泣き止もうとはしない。なんだか抱き返しているような格好になって少し面はゆかったが、この場ではなんだかこうしないと不自然な気がするし・・・。懐にすっぽりと収まった彼女の体は温かく、しゃくりあげる動作につれて揺れる金髪からは何か春先に咲く花のような甘くて心地よい香りがした。
「さあ、もう泣かないで・・・。」そっと彼女の髪をなでた。


彼女はいつも気丈な割には泣き虫で、時々私の前で泣きべそをかくことがあった。その度に私はどうして慰めたものかと頭を悩ませたものだったが、今はただ彼女が自分のために心を痛め、泣いてくれているのが彼女には悪いが、なんとなく嬉しかった。
自分の懐にすっぽりと納まる小さくて華奢な体を思わずもっとぎゅっと抱き返したい衝動に駆られて、私はいささか慌てていた。

私はアンジェリークが泣き止むまで、ずっと中途半端に彼女を抱きしめたまま、彼女のやわらかい髪をなでていた。



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