3.出発〜Angelique Angelique こうして私たち三人は聖地を出て惑星Kへと向かった。 実は私、今回の出張はあんまり乗り気じゃなかった。 オスカー様はまだしもルヴァ様も一緒とは・・・。 前回の女王試験が終わった時、私とルヴァ様は結婚の約束をした。 ルヴァ様はみんなの見ている前で私にすっごく情熱的にプロポーズしてくれて、私はもうルヴァ様と一緒にいられれば何もいらないと、その時思った。もちろんその気持は今でも変っていないのだけれども・・・・・。 聖地に・・・あの人のそばに残るため、私は女王であり私の親友でもあるロザリアの補佐官を勤めることになった。補佐官の仕事は嫌いじゃなかったし、むしろすごくやりがいを感じていた。陛下や守護聖のみなさんのお役に立てるのは嬉しいし、宇宙の平和と幸せに貢献できるなんて素敵なことじゃない? やる以上はがんばってディア様に負けない立派な補佐官になろう!私はそう心に決めていた。 だけどまあ、始めてみたらもうたいへんで・・・。 やらなきゃならないことは山のようにあるし、陛下はどんどん仕事を投げてよこすし、守護聖の皆さんは注文が厳しいし、もう、遊んでいる時間なんか全然無くなってしまったわけだ。 そんな時だった、ルヴァ様が遠慮がちに私に結婚の話を切り出してきたのは・・・。 「えー、そのー、式はいつ頃にしたらいいですかねえ?」 おずおずと口にしたルヴァ様に、来週から始まる広場の工事の件で頭が一杯だった私は「へっ?」という間抜けな返事をしてしまった。 「私は、そのー。なるべく早く、あなたと一緒に暮らしたいと思っているのですが・・・。」 ルヴァ様は私が上の空だったことには気付かず、いつもののんびりした口調で話を続けた。 要するにタイミングが悪かったんだと思う。 私はその時始めたばかりの仕事のプレッシャーや睡眠不足からくる疲労の蓄積やらわがままな守護聖様たちに毎日対応するストレスやらで、少しささくれた気分になっていたのだ。 もちろん陛下や守護聖方の前では不機嫌な表情は見せられないけど、ルヴァ様の前ではつい甘えてワガママになってしまうことが多かった。 「私、今、そんな余裕ありません!」 その時私は、苛立つ気持をそのまんまルヴァ様にぶつけてしまった。 「・・・・・・・」 ルヴァ様はよっぽどびっくりされたみたいで、切れ長の目がその時はまん丸になっていた。 私は「悪いことを言った」と、すぐに悟った。 謝らなくちゃと思ったけど、だけどあまりにも疲れていて、正直フォローをする気力が湧かなかった。 私が黙り込んでいると・・・・。 「そうですよねー。」一瞬の間の後、ルヴァ様がにこっとしてそう言った。 「あなたは今、一番大変なときですからねー。これは私がワガママでした。」 私はルヴァ様が怒っていなかったのでほっとした。 「私、もう少し落ち着くまで仕事に専念したいんです」 ルヴァ様は笑顔でうんうんとうなずいた。 「ルヴァ様ともあんまり会える時間がなくなっちゃうかも知れないんですけど・・・。」 ルヴァ様はこれにもうんうんとうなずいてくれた。 「もちろんです。あなたは自分の思ったとおりにやっていいんですよ。お仕事、がんばってくださいねー。」 この時、私は理解のある恋人を持ったことを本当に感謝した。・・・・・そう・・・・・この時は。 時間がたつにつれて、仕事の忙しさは一向に変わらないけれど、私はだんだんコツを掴んできた。 最近では陛下も守護聖方も何かと私を頼りになってくれるようになったし、私は仕事を楽しむ余裕が出てきた。 だけど、ルヴァ様とは・・・・・ちょっとなんだか、前と違ってきてしまった気がする。 なんだかこの頃ルヴァ様は、前ほど私のことが好きではなくなった気がする。 ルヴァ様はあれからもう全然結婚のことには触れてこない。ちょっと待って欲しいって言っただけなのに・・・なんだかもう忘れているみたい。 それだけじゃない。前はよく執務室に書類を届けに行くたびに引き止められて「お茶一杯飲んでゆく時間もないんですか〜」なんて淋しそうにして見せてくれたのに、最近は「あー。○○の件ですか。分かりました。やっておきましょう。」なあんて、事務的にひと言ふた言言ったかと思えば、もう書類の束に目を落としている。 なんだか、淋しい。 日の曜日に遊びに行ったときに 「今日、教会で結婚式が3組もあったんですってー。」と、水を向けてみたこともあった。なんとなくそんなムードになることを期待したんだけど、ルヴァ様は 「うーん。そうですか。今は気候が一番いい季節ですからねー。」と、相変わらずの調子である。 そう。ルヴァ様はすっごくすっごくいい人だけど、超鈍感で女心をちっとも分かってくれない。 以前、女王候補だった時に、一度だけルヴァ様が湖のボートの上ですごく情熱的に私に迫ってきたことがあった。あの時のことを考えただけで私は今でも息苦しいほど胸がどきどきするんだけど、もう、あんなことって二度とないのかしら。私はなんだかさびしかった。 そしてあの日・・・・いつものとおり私は日の曜日の夜をルヴァ様の私邸でくつろいでいた。 私はこのインクの匂いがするルヴァ様のお部屋が大好きで、ここのソファーでルヴァ様の体に寄りかかってお話を聞いたり、自分の執務中の話なんかを聞かせてあげるのが毎週とても楽しみだった。 この日も私たちはとても楽しく過ごしていて、私はちょっぴり、ここでルヴァ様がこっちを向いて私にキスしてくれないかなあ・・・なんて甘い期待をしていた。 そしたらその時ルヴァ様が思いもかけないことを言ったのだ。 「アンジェリーク」 ちょうどルヴァ様がキスしてくれないかなんて考えていた私は、名前を呼ばれたとたんに恥ずかしくなって 「なんですか?」と返事しながらエヘヘっと照れ笑いをした。 するとルヴァ様はその時、いつもどーりの口調で 「あの・・・・今夜、泊まって行きませんか?」と、そう言ったのだ。 私は体中からすーっと血が引くような気がした。 もちろん私だって結婚していない男女の間にそういうことがあることは知っているわ。 ルヴァ様の事だって本当に愛しているわ。だけど・・・・だけど・・・・・・。 これって順番が違わないかしら。 結婚しようとも言わないで、キスもしないで、好きとか愛してるとかそんなのぜーんぶ無しで「泊まっていけ」?? しかもこんな「お茶でも飲みませんかー」みたいな口調で?? 混乱が脳天に達した私は、「とにかくここにいてはいけない」と判断した。 「あっ・・・もうこんな時間」大げさに時計を見るふりをして立ち上がるとばたばたと身支度をした。 「ごめんなさい。ルヴァ様。今夜はちょっとロザ・・・・陛下とお茶を飲みながら来週の打合せをすることになっているの。来週、執務室に行きますから。じゃあ・・・さよなら。」 ルヴァ様の顔を見ないで一気に言うと、私はダッシュで駆け去った。 帰り道、私は情けなくて泣けてきた。 どうしてルヴァ様は全然私の気持をわかってくれないんだろう。 とにかく私、こんなのはいや。ルヴァ様は好きだけど、こんなのはいや。 ・・・・そんなことがあった直後、私たちは陛下に呼び出され、なんと、こんなに気まずい雰囲気の中でルヴァ様と一緒に出張に出ることになってしまったのだ。 |