8.離間

Oscar


俺達は朝食の時間になって、やっとルヴァをつかまえることができた。
「どこに行ってたんだ。」という俺の問いに対して、ルヴァは
「朝早くに姫君が呼びに来まして、ちょっと散歩に出てたんですよ」と悪びれた風もなく返事をした。

「とにかく早く聖地に帰ろう」俺はそう主張した。先代国王と女王陛下への義理は果たした。これ以上このままごと遊びのような戴冠ごっこに付き合ういわれはない。
「分かりました。」意外とあっさりとルヴァは同意した
「では、この先の交渉には私が当たりましょう。アンジェリークはなるべく国王の前に顔を出さないほうがいいでしょう。」
アンジェは何か言いたげな顔をしたが、おとなしくうなずいた。
「それと、なるべく一人で出歩かないように・・・私かオスカーのどちらかと一緒にいるようにしてください。」

この言葉は俺には笑止に聞こえた。
俺には戴冠式でのルヴァの態度がどうしても納得がいかなかった。アンジェをあんな野蛮なやつに侮辱させておいて平気でいられる神経が理解できない。文句の一つも言わないとはどういうことだ。単なる腰抜けじゃないのか。
「何ですか?」俺の皮肉な笑いに気がついたのか、ルヴァの眉が僅かにあがった。
俺は急にこの男を怒らせて見たくなった。そうでなければこいつが信じられなくなりそうだった。
「何かあったとして、お前がアンジェを守れるのか?」俺はわざとあいつの顔を見ながらゆっくりとそう言った。

「オスカー様!」アンジェの咎めるような声を俺は無視した。
ルヴァの視線がぴたりと俺の顔の上で止まった。

「そうですね。・・・ではアンジェリークのことはあなたにお任せしましょう。私は一刻も早く戻れるように彼らと交渉します。」
俺の顔からすっと視線をそらすとルヴァはごく淡々とそう言った。この態度に、俺は一気に頭に血が昇った。
「お前はそれでも男か!」俺は思わず怒鳴った。
「私にどうして欲しいんですか?・・・彼らとケンカして欲しいんですか?それで我々に何の得があるんですか?・・・・あなたらしくもない。少しは冷静になってください。」
いつになく冷ややかな物言いであったが、相変わらずルヴァは冷静だった。その落ち着きがいっそう俺の癇に障った。
「俺が聞いているのはそういうことじゃない!一人の男として我慢できるのかってことなんだ!」

「ふたりとも・・・いい加減にしてください。」それまで静かだったアンジェリークが、いきなり机を叩いて立ち上がった。
「さっきから聞いていれば人のこと自分じゃなんにもできないお荷物みたいに・・・・・。私だって自分のことくらい自分で守れます!私のことは放っておいてください!」バタンと派手な音を立ててドアを閉めると、アンジェの靴音は駆け足で遠ざかっていった。
俺は思わずルヴァを見た。追わないのか?こいつは・・・?
「どうしたんですか。追いかけてください。」ルヴァはこっちを見もせずにドアを指差すと冷ややかにそう言った。
「お前が行けばいいだろう」
「貴方が言ったんですよ。私じゃ守れないって。」ルヴァは相変わらずの小面憎いほどのポーカーフェイスでそう言ってみせた。
俺は舌打ちすると飛び出して、アンジェリークを追った。




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