10.迷走 Luva 翌日、目覚めた時から私はこめかみの辺に鈍い痛みがあるような気がした。気候が変わって風邪でも引いたんだろうか?そんな場合じゃないのに。 私はだるい体をベッドから引き剥がすようにして起きると、身支度を整えた。今日こそは二人と、とことん話し合わねばならない。 朝食の時間になって、私はやっと二人を捕まえることが出来た。 先代国王との面会がキャンセルになった件と、磁場嵐の件を伝えると、案の定オスカーは猛烈に腹を立てた。 「冗談じゃない。そんな馬鹿な話があるか!」 アンジェリークもかすかに眉を顰めた。 「この時期に磁場嵐なんて・・・おかしいですよ。」 「それは私もそう思ったんですよ。それでですね・・・」更に詳しく事情を説明しようと身を乗り出した瞬間に 「賢者様!」と、軽やかなシャンユン姫の声が聞こえた。 シャンユンはにこにこと我々のテーブルに歩み寄ってきた。 「ああ、良かった。ここで賢者様にお目にかかれて・・・・。実はお話したいことがあったんです。あっ、でも今は皆さんでお話中ですのね。失礼致しました。」 「構いませんわ。みんなでちょっと雑談していただけですから・・・。」 私が断ろうとするよりも早く、アンジェリークがそう答えていた。こころなしか声が尖っている。 「そうなんですか?あの・・・じゃ、手短に・・・。賢者様。この間見ていただいた他にも珍しい遺跡がありますの。ここからだとちょっと歩かないとならないのですが、ご一緒に見に行きませんか?」 「すみません。姫君。今私達は・・・・」 「姫君じゃなくて、シャンユンとお呼びくださいとお願いしてますのに・・・」拗ねたように姫君が言うと、隣にいたアンジェリークの眉が微かに上がった。私は冷や汗が出て頭痛が一層激しくなるのを感じた。 「行ってらっしゃればいいじゃないですか?珍しい遺跡がお好きなんでしょう?」取り繕ったような笑顔を浮かべながらアンジェリークの声は決して笑ってはいなかった。 「それから、磁場嵐でご滞在が延びたと伺いまして、皆様をお慰めするために園遊会を開くことになりましたの。あさっての予定なんですけど、是非いらしてくださいね。ここに古くから伝わる古謡で舞を披露する予定ですの。どこか遠い大陸から伝わってきた伝統的な楽曲なのですが、賢者様でしたらご存知かもしれませんね。」シャンユンは嬉しそうにいいつのる。 「あの・・・姫君、申し訳ないですがその園遊会というのは・・・」 「もちろん参加させていただきますわ。」矢のように言い放つと、アンジェリークはすっと席を立った。 「私達はお先に失礼致しますわ。おふたりはどうぞ、ごゆっくり。・・・・・行きましょう、オスカー様。」そう言うとアンジェリークは、オスカーを半ば引きずるようにして、さっさとホールから出て行ってしまった。 私はもう頭を抱えたい気分だった。アンジェリークはいったいどうしてしまったんだろう。そんな馬鹿なやきもちを焼いている場合じゃないのに・・・。 「あの・・・・やっぱり、私・・・いけないことをしてしまいましたか?」シャンユン姫は茫然自失している私を見て、困ったように小首を傾げている。 「いいえ・・・。行きましょうか?」私は力なく苦笑すると立ち上がった。アンジェリークの気持が沈静化するにはどのみちしばらく時間がかかるだろうし、何しろ私は今、この八方塞がりな状況の中で、情報が欲しかった。そしてそれを与えてくれるのは、今のところこのシャンユン姫しかいなさそうだった。 |