11.園遊会 Luva 園遊会当日。この日のアンジェリークは一段と美しく人目を引いていた。 鮮やかなオレンジ色に白い大きな襟をあしらった少し古風なシルエットは、彼女の優しい容貌と華奢な肢体に華やかで堂々とした印象を与えていた。 アンジェリークの背後には影のようにオスカーが付き従っていた。 こうして並ばれると、まるで二人のほうが恋人同士のように見える。 またこめかみの辺がちくりと痛んだ。私はここ数日間、相変わらず重苦しい頭痛につきまとわれたままだった。 あれからアンジェリークはまた私のことを避けている。昨日も結局話ができなかった。こうして最高に美しく着飾った恋人を遠巻きに見ているしかない自分は一体なんなんだろう。考えると我ながら情けなかった。 そんな物思いにふけっていると、ちょいちょいと誰かが私の袖をひっぱった。 「賢者様」振り向くとシャンユン姫が人なつっこい目で私を見て微笑んでいる。 「ああ、姫君でしたか。どうなさいました?」 「賢者様が退屈そうにしていらしたので・・・。」 「ああ、そんなことはありませんよー。ちょっと考え事をしていただけなんです。」私は曖昧に笑ってごまかした。 「補佐官様と勇者様は仲がよろしいんですのね。恋人同士なのかしら?とってもお似合いだわ。」 姫君の無邪気なひと言は私の心の触れて欲しくないところにぐさりと突き刺さった。 「いえ、まあ・・・そういうわけじゃないんですけどね。女王補佐官と守護聖の間は何と言っても信頼関係が大事ですから。なるべくコミュニケーションを取り合うようにしているんですよ。」 「でも、補佐官様と賢者様はあまりお話なさいませんのね?」またしても痛いところを突かれて私は苦笑するしかなかった。 「それはですね。私は彼女とは既にいろいろ話をしましたんで、お互いによく分かり合えていると思うんですよ。」自分でいいながら、自分でも疑わしかった。私達はお互いに分かり合えてるんだろうか、本当に? 姫君は「・・・・・・」と小首を傾げていたかと思うと、ふいににこりと笑った。 「つまり、賢者様は今、お手すきと言うことなのですね?」 「えっ?」 「一緒に踊りましょう!」 「はああああ?」 姫君は私の手を握ると小鹿のように走り出した。 私は冷や汗をかきながら「本当に踊れませんから」と何度も弁解してやっと勘弁してもらった挙句、ここで彼女が踊り終わるまで見ているという約束をさせられた。 公主は手に長いひれのような布をつけて踊りの輪の中に入っていった。エキゾチックな音楽に合わせて手のひれを天に投げ上げては腕に絡めとるその舞は非常に優美で、私はほんのしばらく約束を忘れて本当に見入ってしまった。似たような文化を持つ比較的大きな国家があるが、ここの文化はある時代でそこから切り離されて独自に変化を重ねてきたものらしい。知的好奇心もさる物ながら、姫君の踊りは実に優美であった。 しかし、実際それどころではなかった。とにかくあの二人と今後について話し合わねばならない。 私は姫君には申し訳ないが最初の一曲が終わるやいなやその場を離れ、ふたりの姿を探した。 騒ぎが起こったのは、ちょうどその時のことだった。 |